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父のリンゴマフィン

先日書いた「喧嘩ばかりの海外旅行で」という記事が、意外と好評で嬉しい。
今日はその続きを投稿していこうと思う。

オーストラリアに到着してすぐ、私と両親はリムジンバスに揺られ、大きな遊園地へと来ていた。
けれど、まずここで、大きな喧嘩が始まる。なんで両親が喧嘩していたのか、理由は定かではないが子供ながらにとても衝撃的で、両親の喧嘩を止めに入っていこうとしている自分を思い出すと「健気だなぁ」と、人ごとのように思ってしまう。
とはいっても、何故かそのあとは何事もなかったように三人で旅行を楽しんでいた。

オーストラリアの思い出は、鮮明に覚えているものの、断片的な記憶が多い。けれど、宿泊したホテルの下にあるショッピングモールで買ったリンゴのマフィンの味は、いつまでたっても忘れられないのだ。

それはいわゆる、普通のリンゴマフィン。父が買っていた。味も、いたって普通。だけど、だからこそ、日本でリンゴのマフィンを見かけるたびに、私はあの幼かった日に戻ることが出来るのだと思う。
父は、よくリンゴマフィンの話をする。私以上にそれを気に入っていたのは父のほうだった。日本に帰ってきてからも、旅行から15年以上が経った今ですら、父はあのマフィンの話をたまにするのだ。

「あのマフィンはうまかったな」と。

せっかく行ったのに、写真すらろくに撮ってこなかったけれど、今になって思えば、その父の言葉のほうが、写真よりも鮮明に旅行の事を思い出せるスイッチとなっている。

いつも、どこか観光地へ行った記憶よりも、何気ない風景とか、飾らないありのままの時間とか、些細なことのほうが思い出として強く残っている。
当時はまだ私も幼かったので、お土産に「ウォーリーを探せ」みたいななぞなぞの絵本を買ってもらった。
今でも家の本棚に大事に大事にしまっている。きっと、いつまでも大事にしていくのだ。そしていつか私に子供が出来たら、両親と同じように、小さい頃に海外旅行を経験させてあげたい。
私が幼い頃に買ってもらったその本を一緒に読ませてあげたい。
そうやって、両親の優しさを、私もつなげていきたい。

私の大切な人たちのために。


彼方

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