Kendrick Lamar の『To Pimp a Butterfly』を聴いてみた編
こんばんは、内山結愛です。
Pitchforkの年間一位を取ったアルバム縛り編!
今回は Kendrick Lamar の『To Pimp a Butterfly』(←2015年一位)を聴いてみた編をお届けします。
ジャズとHIPHOPの垣根を無くしたような画期的なサウンド、他者と社会、自分自身と向き合い赤裸々に吐き出されるリリック。
豊富なボキャブラリーと変幻自在な声が味わえる一枚。
ぜひ、読んでみて聴いてみてください!
1.Wesley's Theory
冒頭の古めのカセットから鳴りそうなパチパチ音好き。どんどん近づいてくる気持ち良さげな音楽とグルーヴ。サンプリングされているのはBoris Gardiner「Every Nigger Is a Star」らしい。0:45〜「HitMe!」を合図にどんどん音楽の渦の中に取り込まれていく。3:30〜止め、リズム、韻、全てが気持ち良い。タイトルは人気俳優のWesley Snipesを表しているらしく、大成功した後脱税で捕まった彼を喩えて、「いくら金を稼いでも(蝶になっても)、結局は元締め(アメリカ)に搾取される」とアルバムタイトルの意味と答え合わせするような内容になっている。華やかさの中にある虚しさ…
2.For Free? (Interlude)
二曲目でこんな豪華な音が鳴りまくってて良いんだ…!?もはやジャズ。生ジャズ演奏。0:50〜滑舌が物凄く良い。「Free」だけが異様に引き伸ばされる発音がフックになって、良き違和感。「俺は搾取されない」という強い決意。1:50〜叫びそうなくらい言葉のスピード、語感が良い。
3.King Kunta
ずっしりと刻まれるビートの合間に度々現れる「チーン」って音がひょうきんで面白い。ダークで路地裏な感じ。パワフル。2:15〜ohとかyeahとかしか言いたくなくなるくらい気持ち良いし、自分が強くなったと錯覚する。Michael Jacksonが作曲クレジットに入ってる…!?って思って調べたら、「Smooth Criminal」の「Annie, are you okay?」という歌詞を引用しているらしい。
4.Institutionalized
煌めき。エレガントで無機質なサウンド。クラリネットの使い方がさりげなくてお洒落。1:11〜ズンズン言ってるのかと思ったら「zoom zoom…」だった。Snoop dogが参加してるんだ…!止めが巧みすぎる。繰り返し言っている「Shit don't change until you get up and wash your ass nigga」が切ない。
5.These Walls
次の曲への流れ方がとても自然でずっと心地良い。とても夜。女性の悲しそうな?ちょっとセクシーな?うめき声。幻想的な世界観。キラキラしていてアダルティ。リリックの内容もアダルティなことを言っている(多分)。3:40〜近未来的なボーカルエフェクト。声の位置が緩やかに移動していて、耳が研ぎ澄まされる。
6.u
…どうした!?!?冒頭の悲痛な叫びで別人格が憑依したように、鬼気迫りながら言葉を吐き捨てていく。今までで一番書くのが大変だった曲とKendrick Lamar本人が言っていたらしい。2:30〜聞いたことがないくらいヘロヘロな声で言葉を並べる。「u(you)」というのは実は「i(自分)」だったりするのかな。わからないけど…。心の弱い部分を全て曝け出すように、苦しみながら告白している。たまにほぼ溺れかけながらお酒飲んでるみたいな音聞こえて凄い。聞いているこちらもずっと苦しい。ガラスがそろそろ割れそう。
7.Alright
口を開いてから吐き出される言葉の流れ全てが気持ち良い。リズム感がキレッキレ。ずっと大丈夫と無理矢理言い聞かせている感じのリリック。それくらいの気持ちでやっていくしかないこと結構あるよね。結構自分のこと曝け出してくれる。でもHIPHOPってめちゃくちゃ曝け出してくれるイメージある。地元のこととか。2:08〜止めの神。この曲は自然とBlack Lives Matter運動と連携していって、「We gon’ be alight!」というコーラス部分を合唱するようになり、この運動を象徴するアンセムになったらしい。
8.For Sale? (Interlude)
楽しげなコーラス、荒い呼吸、刻まれるビート、煌めく電子音…冒頭だけで構成がカオスなのにどうしてこんなカッチリハマるんだろう。ずっとお洒落で格好良い。サウンドのキラキラ感と華やかなコーラスが上品。
9.Momma
次の曲へのバトンタッチがお洒落すぎる。間接照明くらいしか明かりがない、良い匂いのするアロマとかお香とか焚いてある部屋が頭に浮かぶ。次の曲に変わった…?と思う瞬間が何回かあるけど大体変わってない。3:40〜疾走感とラップの勢いがグッとついて流れが変わる。
10.Hood Politics
スローテンポ。0:43〜時空が歪むような、ダークな煙みたいなサウンド。爆音で聴けば聴くほど、視界、肉体が歪んでいくような感覚になって楽しい。地元の争いや政治と世界で勝負する有名ラッパーの世界について。2:52〜サイレンの音。物騒。「boo boo」の響きが効果音みたいだし、可愛くてツボ。いつも良いタイミングで入ってくる。語気が強い。曲の最後に語りが入るの定番スタイル…?格好良い…。前回レビューしたSufjan Stevensの「All for Myself」という曲がサンプリングされているらしい…!
11.How Much a Dollar Cost
繋がり方がこれまた…オシャ…。めちゃくちゃ強い拍手みたいな音気になる。アルバム全編通して滲み出る色気。お金の価値を問いただしているようなリリック。誰が何がいつどのように起こったということが事細かく説明されている。 HIPHOPはリアリティがある。終盤ピアノとストリングス入ってきて美しい…!
12.Complexion
どの曲もコーラスの存在感が適切でいて、華やかで、絶妙。肌の色による差別について。「どんな肌の色であろうと美しい」、本当そうだと思う。「Complexion」と歌っているところ好き。演奏で参加している人も参加ラッパーもみんな豪華…!!
13.The Blacker the Berry
ダークで凶暴なビートとサウンド。最初からかなりブチ切れているラップ。めちゃくちゃキレている。「私は2015年最大の偽善者だ」と歌いながら黒人社会が抱えている矛盾について「偽善」という観点から問題を訴えている。正しい怒り。ビートも切れてる。4:30〜曲調が突然穏やかに。
14.You Ain't Gotta Lie (Momma Said)
大人の余裕感じる。やっぱり薄暗くて良い匂いがする部屋。なっている音全てがさりげないのに、容赦なくお洒落。2:21〜また良い止めに出会えてしまった。「ダチ」がめっちゃ出てくる。スラングが飛び交っている。スラングが学びたかったらHIPHOPを聴くのが手っ取り早い。最後めっちゃ騒々しい環境音。街…?
15.i(Extended Version)
繋がって始まった。冒頭からめちゃくちゃブチ切れててる。喧嘩…?と思っていたらこの曲めっちゃ好き…!ノリノリ。たまたま熱出ている体調不良状態で聴いてるけど、思いっきり体揺れちゃう。3:20気づいたら演説が始まっていた。4:10〜こんな格好良いマイクチェックがあるのか。6曲目が「u」で15曲目に来て「i」なのアツいな。「u」では「Loving you is complicated」と歌っているけど、「I love myself」と歌っているのがまたアツい。
16.Mortal Man
音の渦に引き込むのが毎度上手すぎる。タイトルは「いずれ死ぬ運命にある人間」という意味らしい。ちょっと暗い雰囲気に納得。「どんなことがあっても俺のファンでいてくれるのか?」と問い続けているところに人間味を感じる。いや、もうここまでかなり人間味を感じている。生前の2Pacのインタビュー音声を切り取って、現代でKendrick Lamarと2Pacが対談をしているような構成にしているの面白い…究極のオタ芸と言っても良いのかもしれない(2PacはKendrick Lamar が敬愛するラッパー)。
Kenrick Lamar(1987年6月17日-)は、2003年から活動しているアメリカ出身のラッパー、音楽プロデューサー。「ヒップホップの新王者」 とも言われている。本作は3rdアルバム。ブックレットの中には「A Blank Letter by Kendrick Lamar」と読める点字が隠されていて、「アルバムの正しいフルタイトルだ」とKendrick Lamarは言っているらしい。
Spotifyの過去最大のストリーミング回数、960万回再生を記録ってもう数字がデカすぎるし、凄すぎてよく分からないな…
あのSpotifyの過去最大をゲットしちゃうなんてモンスターアルバム。
本当に最初から最後まで聴きやすいし、病人ですらノリノリになってしまいました(今は元気です)!
ブルースからソウル、ファンクといったブラックミュージックを引き継ぎつつ、ジャズとHIPHOPの壁をぶち壊すというか、サラッと無視して一体になっているサウンドが本当に見事だった。もう一周してきます。
色々調べていたら、最初アルバムタイトルは「Tu Pimp a Caterpillar」だったらしく、省略すると「Tu.P.A.C(2Pac)」となる、という情報を知り…マジで2Pac大好きだ!?ってニヤニヤしました。
最後の曲の「Mortal Man」でも2Pacとの擬似(?)インタビューなる発想が見られたり、随所に2Pac愛が溢れていて良かったな…
「文化系のためのヒップホップ入門」を読んでから、このアルバムには臨んだのですが、HIPHOPが身近なものに感じられるような言い回しも多くわかりやすかったな〜
ラッパーのアルバムは何故ゲストが多いのかという話題で、“「アルバムは自分の冠番組だ」ぐらいの意識なのかもしれない”と言っている場面があって、自分も気になっていたことだったから、なるほど!!?ってなった。これからそういう目で見てしまうでしょう。
HIPHOPに詳しくない内山でも楽しく読めたし、他にも沢山面白い話題があるので、オススメです!
次回もPitchforkの年間一位を取ったアルバム縛り編!
次回は Kanye West の『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(←2010年一位)を聴いてみた編をお届けする予定です。
最後まで読んでくださり、有難うございました。