見出し画像

風俗嬢に告白してみた。

風俗嬢に告白してみた。

出会いは、彼女にとって昼職にあたる普通の職場。
僕はそこの正社員だった。
つまり彼女は副業として週末に夜の女になる。

8ヶ月ほど前に彼女はアルバイトで入社してきた。
24歳の僕より2歳下だと知り、すぐに仲良くなった。
仕事終わりに飲みに行く仲になったくらいで、彼女のもう1つの顔を知ることとなる。
既に僕は彼女に惹かれていた。

居酒屋のカウンターで隣り合い、緑茶ハイを半分ほど飲んだところで彼女が口を開く。
「水曜日に完全に彼氏と別れた。」

彼氏がいることは知っていた。ボクサーの彼氏。
大喧嘩がきっかけで別れたらしい。
彼女はおもむろにスマホを触り出し、僕にいくつかの写真を見せた。
彼女の体はアザだらけだった。
テレビドラマのメイクのような赤と青の混じった色が肌に浮き上がっている。

パッと彼女の顔を見るとなんとも言えない無の表情。
引きずっているのか、吹っ切れているのか、まったくわからなかった。
「いまも残ってるの?」
そう聞くと、半袖のTシャツの袖を肩上までめくって見せてくれた。
アザはもうなく、綺麗な肌をしている、そう見えた直後に気づいた。

「これは?」
僕が指差した。
「ん、リスカの跡。お酒入ると浮き出てくんだよね。」
元カレと付き合うずっと前、まだ10代の頃かららしい。
僕は聞いた。
「道具何使ってる?」
実は僕も経験があった。
僕は1回や2回程度だが、彼女の肩には赤い線が無数にあった。
「彫刻刀。あとはカミソリかな。でも最近のはガードが付いてて先端の方をうまく使わないといけないからだるい笑」
僕の心は大きく収縮した。

前は何の仕事してたの?
彼女は僕の耳元に囁いた。
「セックスする風俗。」
表面上は「ふーん、そうなんだ」を装ったつもりだったが、実際は僕がどんな顔をしていたのかわからない。
「元カレは同じ夜の街でキャッチしてて、イケメンだったから好きになった。」
付き合って数週間で同棲し、約1年半の交際の末の破局だったそうだ。
「『この人は違うかも』なんて思ったけど、男は結局みんな同じ。本当の私を許してくれる人なんていない。」
「そんなことはない」と言おうとしてやめた。
僕には彼女ができたことがなかった。

居酒屋をあとにして食べ足りない僕たちはファミレスに入った。
明るい店内での彼女の顔色は赤く染まっており、いわゆる、出来上がっていた。
3品注文し、料理が来るまでの間は自宅での過ごし方などを話して待った。
「ねぇ、なんで彼女いないの。」
唐突に彼女は聞く。
「なんでなんだろ。」
間髪いれず返す。
僕らはもう恋愛仲にあるのではないかと思った。
でも一応伝えた。
「好き」
3秒後
「恋愛感情で好き」
彼女の目が少し開いた。

「ついこの前元彼と別れたばかりだし、当分彼氏はいいや。」
付き合ってほしいとは言っていないが、まあいいやと思った。
続けて彼女は今後の展望を語り出した。
「実はまた風俗始めてて、25歳、あと3年くらいは稼ぎたい。」
僕の心が大きく収縮した。
「どうして?」
少し声が大きくなってしまった。
「今まで縛られていた分、遊びたいの。今しかできないことだし、私にはこれしかない。」
抱きしめたかったが、テーブルを挟んで向かい合った席に寄るほどではなかった。

「嫌いになりそう。」
嫉妬心や独占欲から生み出たであろう言葉が、僕の理性を無視した。
既に彼女の酔いは覚めていた。
「あっそ、別にいいよ。それが普通だよ。
そもそも私たちは生きてきた世界が違うの。あなたには絶対に理解できないし、する必要もない。」
「嫌だ、理解したい。」
何を言ってももう手遅れだった。

彼女はスマホを取り出す。
誰かの連絡先を探しているようだ。
「もしもし?今から行っていい?
新宿駅まで行くから迎えにきてくんない?」
どうやらこの後どこかへ行くようだ。
「だれ?」
「ん、ホスト」
なるほど、そういう女だったか。
風俗で稼いでホストで使う。
そんな遊びがしたかったんだな。
なにもかも醒めた。
「ホストかー。おれも行ってみてーなー。ホストって男も入れんの?」
本当に行きたいと思っていた。
「また今度連れってってあげるよ。初回3000円のとき。」

#やってみた大賞

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?