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選択肢が多いのは、本当に良いことなのか?

はあ、
と大きなため息をつきながら電車を待つ。
よく友達から「ため息をつくと幸せが逃げる」と言われるけれど、今はそんなことを気にしている余裕はない。

今日も、いつも通りの時間の電車。終電だ。
家についたら深夜0時を回る。
それから夜ご飯を食べて、お風呂に入って、明後日締め切りのエントリーシートを書かないと。
明日は朝10時から大阪で説明会があるし、一体何時間眠れるのだろう。
たまにはコンビニで買ってきたハイボールと高カロリーのイカフライを食べながら、スパイ映画を見てダラダラ夜更かしをして、次の日の夕方まで罪悪感なく眠れる日が欲しい。

そんな馬鹿なことを考えながら電車に乗り込むと、私と同じように、いや、それ以上に死んだ顔をしたサラリーマンやOLの姿が目に映る。
良い年をして口を大きく開けながら寝ている人、今にも隣に座る人にもたれ掛かりそうな程ウトウトしている人、耳にイヤホン手にはスマホで周りの現実から逃避している人……。
あんな大人になるために、どうして就活なんて面倒なことをわざわざしなくちゃいけないのだろう。

終電という重々しい空気の中で楽しそうにしているのは、せいぜい飲み会帰りの大学生くらいだ。
「今日まじで飲みすぎたわ〜」
「分かる〜。しんどすぎる」
「先輩のイッキすごかったなあ」
「それな。俺らにはまだ無理だわ」
辛い、しんどいと言いながらも彼らの様子は和気あいあいとしている。
会話の内容からして、大学2回生だろう。
私も2回生の頃はあんな風に遊んでばかりだった。
「終電に乗っている」という点ではあの頃と変わらないのに、楽しさがまるで違う。
昔は何をするにも楽しくて楽しくて、この楽しい時間を少しでも伸ばしたいという思いで終電に乗って帰ることが多かった。
今となっては、本当は1分1秒でも早く家に帰って眠りたいけれど、仕方なく終電に乗って帰るという始末だ。
あんな風に遊んでいないで昔から将来のことを考えて行動していれば、今頃さらっと内定を勝ち取っていたのかな、なんて考えても仕方のないことばかりを考えてしまう。

現実を見ているのが嫌になって、私も社会人の彼らと同じように耳に無理矢理イヤホンを押し込み、正直もう聴き飽きた音楽を流して、スマホの世界へと飛び込んだ。
ホーム画面を開くと、無意識にツイッターのアイコンに指が吸い寄せられる。
別に見たくもない同級生のつぶやきを流して流して、ただ消費してゆく。

『自己分析し直さないと』
『ES提出完了! ギリセーフ』
『明日は面接だ。緊張する』
『就活なんかせずに早く結婚したいよ〜』

「自己分析」「軸」「ES」「業界研究」「OB訪問」「合説」「グループディスカッション」
SNSまでも就活色に染まっている。
ここにも逃げ場は無いらしい。

だめだ。寝てしまおう。そう思ってツイッターを閉じようとした時、一つのつぶやきが目に飛び込んできた。

『選択の幅が広がるからって勉強を頑張ったり色々してきたけれど、
広げまくった選択肢から、いつか一つ選ばなければならないということをすっかり忘れていた気がする』
……近頃私が感じていたことを、上手く言語化してくれていると思った。

こうつぶやいた彼は、私と同じく3回生の就活生だ。ただ、彼は一回生の時に仮面浪人をし、京都の大学へ入学し直していた。
私よりもずっと将来のことを考えて勉強して、しかもきちんと結果を残している。
すごいなあ、と親しい間柄ではないが尊敬していた。
私も、勉強をして損をすることは無いと考えていた。
いつか何かをするときに困りたくないから、と出来ることはしてきたつもりだし、目指せる中で一番の大学に向かって勉強をした。
でも、実際どうだろう。とっても困っている。将来が全く見えない。お先真っ暗だ。
ただなんとなく勉強をしてきた私よりも、一つのことに一生懸命に取り組んでいる人の方がとてもキラキラしているし、かっこいい。
将来したいことやなりたいものも明確だ。
選択肢を広げた挙句、結局したいこと・なりたいものが見つからないのなら、選択肢が無いことと変わらないのではないか。

「いつか何かをするときのため」の
「いつか」って一体いつ来るんだ? 「何か」って一体何なんだ?

みんな、そんなことをぐるぐる考えながら、答えを探しながら、毎日働いているのかもしれない。
自分の持てる選択肢を、一度整理して、その中でその時に一番良いと思えるものを選ぶ。
そんな機会の一つが、就活なのかな。
うん、きっとそうだ。

「選択肢が多いのは本当に良いことなのか?」という質問に対しての答えは、
「分かりません」だ。今は。
でも、やっぱり「あの時選択肢を増やしていて良かった!」と自信を持って言えるようになりたいし、今までの自分を否定するようなことはしたくない。
これから答えを見つけることができれば良いと思う。

パッと顔を上げて周りを見渡してみる。
相変わらず向かいに座るおじさんの口は大きく開いているし、その横に座るOLは船を漕いでいる。
この人たちも、何年か前、私と同じように悩んでいたのだろうな。

おい、そこの酔っ払いの大学生! 
君達も1年後、きっと悩むことになるよ。
覚悟しとけよ!

こんなことを考えていると決してひとりではないような気がして、
終電に揺られることも悪くないか、と少しだけ思った。


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•こちらは、web天狼院書店掲載記事です。

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