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塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えてシリーズ

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以前にnoteで公開したお仕事小説「ワーク、アフェア、ジョブ」をリメイクしたものです。読み返して自分に刺さったので、もっと納得いく形に推敲を追加で重ねた物です。ストーリーの流れは… もっと読む
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2022年7月の記事一覧

【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第3章その1「激変、劇変」

【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第3章その1「激変、劇変」

“2020年 ほころび”

 パンデミックが宣言されて以来、病院の様子は変わっていった。発熱外来が新設され、通常業務と並行して稼働しているし、院内放送では1時間ごとに感染対策を呼びかけるアナウンスがかかっていた。合間に患者急変を知らせるチャイムが鳴ると、どの知らせか分かりにくいのでとチャイムが変更されたり、近隣の病院が救急外来の受け入れを制限したため受け入れ患者数が増えて手が足りないので院内応援の

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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第2章その2「その歴史は繰り返すか」

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    “2020年/2019年度 疾風怒濤の”

 手術の終わった部屋を片付けながらりりかはふと、昨年末のニュースを思い出した。武漢市の感染症は確か新型のウイルスだったはずだが、このご時世、そいつの越境は容易にできてしまうのではないか?
 一度気になると妙に仕方がなかったので休憩時間にテレビを見たが、持続可能な経済開発についての話題が繰り返されているだけだった。いや、一瞬だけワールドニュースのコ

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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第2章その1「事の始めに事がある」

【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第2章その1「事の始めに事がある」

     “2020年/2019年度 仕事始め”

 年初、仕事始めは怒濤の如く開幕した。緊急手術に次ぐ緊急手術で看護師たちは走り回り、後回しになった予定手術が積み重なっていき、休憩時間はどんどん削られていった。しかし、何事も終わりがあるように、その波を乗り切ればまた凪が戻ってくるのだ。

「なんなの、この忙しい時とそうじゃない時の差は」

 全部で6部屋ある手術室のうちの一室で電子カルテを操作し

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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第1章その2「ワーカホリックにつける薬は」

【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第1章その2「ワーカホリックにつける薬は」

    “2019年 仕事納め”

「疲れたー!」

 そう言ってこの日のリーダーである静男が休憩室に入ってきた。
りりかは休憩中だった。静男はりりかを見るなり彼女が担当する午後の手術についてあれこれ言ってきた。りりかは休憩中は仕事について考えたくない派だったので、内心では不承不承、先輩の静男に合わせて相槌を打つのであった。

「…嫌そうだな?」

どういうわけだかこの男はこういったことにすぐに気

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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第1章その1「会話の潤滑剤に下ネタはやめていただきたいが」

【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第1章その1「会話の潤滑剤に下ネタはやめていただきたいが」

      “2019年 昵懇”

「おー、昨日はお疲れさーん。ちょうどつかやんが話題になってたとこだぜ」

 翌日りりかが出勤すると、さっそく手術室の先輩である尾花静男が声をかけてきた。それともう1人、静男と一緒にいたのは昨日のあの修羅場で共闘したレジデントスタッフだ。名前を原久瑠偉と言うのだが、静男に色々とどんなに大変だったか話していたようだ。瑠偉は、りりかを認めるとまるで宴会場で会ったかのよ

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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:プロローグ

【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:プロローグ

 塚山りりかは険しい表情で抹茶ケーキをつついていた。
ケーキを思いきり、ひと思いに頬張りたいのに、つついた端から地滑りのように崩れてボロボロになるので、結局はちまちまと食べざるを得ないのだ。
 それに今は修羅場明けで、遅い朝食をなんとか終えたところであるのも、表情が険しくなる要因の1つだろう。
さらに、使っているフォークと相性の悪い洒落た焼き物の皿が、何気なく擦れるたびにキーキーと不快な音がする

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