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雑多なもの

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#小説

萱草に寄す

萱草に寄す

 すっかり日が暮れた後、ベランダに出て煙草をふかしていると、日中に軽く汗で濡れた半袖のシャツの袖を静かに揺らす風が、随分と冷たくなってきたことを感じる。短い夏が終わり、秋が来る。なんだかんだ忙しく過ごしていたから、余計に短い季節だった。これからもっともっと、短くなっていくのだろうか。
 昨日が中秋の名月の日だと誰かが言っていて、そう言われてみれば、仕事からの帰り道、川べりの堤防の向こうの、うすら雲

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風景はどこにあるのか?

風景はどこにあるのか?

 風景はどこにあるのだろうか。この問い自体、極めて現代的な意識によって初めて可能になるものだろう。そういう意味ではこの問い自体が既にして答えを内包しており、立論は不適切なことのようにも思われる。しかし私はあえてこの問いを発しよう。世界の美しさのために。
 風景はかつて存在しなかった。風景は近代において初めて発見された、わたしの内面において。そしてついには再び見失われてしまう。それに気づいているかは

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