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「またね」そう言いながら扉を閉めた、それが彼を見た最後だった

瑛人くんと関わり始めて半年くらいが過ぎた頃、彼はアニメのYouTube動画を作って公開するようになっていました。

思い起こせば、出会った当初はニコリともしなかった神経質そうな彼の表情が、この頃にはかなり柔らかくなり、時折笑顔を見せるようにもなっていました。

※このお話は前回からの続きです。
デモンストレーションに現れた花魁と排水溝に落ちた子猫

※最初から読みたい方はこちら!
シンクロニシティに導かれた「人生の転機」①【お茶会編】


無作為に生きていた彼が自発的にアニメ作りをし始めた


「僕、鬱っぽかった頃は何もやる気が起きなくて、ゆるいアニメをぼんやりずーっと繰り返し見ていたんです。
だから僕のように人生に疲れた人が、何も考えなくてもボーッと見ていられる動画を作りたい」


アニメなんて一度も作ったことがないと言っていた彼の絵は、子供のようなレベルでお世辞にも上手いとは言えませんでした。
それでも瑛人くんは、そんなアニメの進捗状況を、毎回逐一私に報告してきました。

その様子を見ていると、私には、彼がこのアニメ作りを結構楽しんでいるんじゃないかなという風に思えました。



アニメ作りは彼にとっては諸刃の剣だった?


瑛人くんが明るくなってきたことについて私は、やりたかったことに色々トライして彼なりに自信がついてきたのかな?と思っていたのですが、

彼自身が言うには「ずっとアニメを作っていると脳内麻薬のようなものが出てしまう」とのことで、
後から振り返ってみれば、このアニメ作りは彼にとっては諸刃の剣だったのかなという気もしました。



ハイから鬱への転換…涙が止まらないと言ってきた瑛人くん


脳内麻薬がどうのと言い始めてから妙にハイテンションになっていた瑛人くんでしたが、しばらくして躁鬱の波の反転がやってきました。

チャットの書き込みでも何やらメンタルを崩しているように感じたので、しばらくぶりにZOOMで話すことを提案してみたところ、
「お願いします。今日なんか涙止まらないです」という返事が返ってきました。


今、友達と言えるのはネットのゲーム友達数人だけだという彼は、
学生の頃に仲の良かったネット友達のTwitterアカウントを久しぶりに見つけ、フォローしてみたけどフォロバはしてもらえなかったと寂しそうにつぶやきました。

「でも、『死なないで』っていうエアリプ(間接的に個人に宛てたメッセージ)はあったんですよ」

聞けば、元々はLINEでも繋がっていたというその人に、瑛人くんは死にたい、死ぬかもしれないということを言ってしまっていたらしく、
だからフォロバされなくても仕方ないと納得はしていたようでした。




彼が言うには幽霊に襲われていた(妄想のような症状が出ていた)時に、パニックになって「うわーーー!!」「助けて!!」みたいなLINEを何度も送ってしまったそうで、
それが原因で結局その当時の友達はみんな、彼の元から去って行ってしまったそうです。


「そんな変なこという人とは付き合えない、みたいなこと言われて誰からも相手にされなくなって……」
そう言って泣きながら(この日は画面をオフにして音声のみで通話していました)瑛人くんは、だんだん自殺のことを口にするようになりました。

「俺いつか死ぬかもしれないです。そのうち自殺するんだろうなって思いながらずっと来たんで、俺はそういう感じなんです、ずっと」


アニメ制作で躁状態になった後の反動がやっぱり来たな、と……
それをどうやったら助けられるのか私には分からず、ただ一緒に泣くことしかできませんでした。

小康状態もつかの間、次第に状態が悪化してきた彼


ZOOM通話中の瑛人くんの様子が心配だった私は、関わりが途切れないように、対面鑑定以外の用事を作って時々事務所に来てもらうことにしました。

仕事で使うBGMの編集を依頼したり、私の友達のT子さん(Kちゃんとのお茶会で一緒だった友人)も交えてサロンの動画作りを手伝ってもらったり、
時には彼のブログ収入のことで相談に乗りながら頂きもののお菓子を一緒に食べたりもしました。

なので、この頃にはサロンの裏方的作業を彼に随分手伝ってもらっていたように思います。

◆◇◆


――そんな小康状態もつかの間、確定申告の時期が訪れると、その頃から再び瑛人くんの状態が目に見えて不安定になってきました。

次第に言葉に一貫性がなくなり、話が通じなくなることが増え、
『これは私一人だけでは手には負えないかもしれない…』という不安が私の心をよぎりました。


「夕貴さん、頭がボーッとして車の運転ができそうにないんです。すみませんが俺を病院に連れて行ってもらえませんか…このままだと俺死ぬかもしれないんで、診察の日も早めたいです」

「うん、私で良ければ一緒に行くよ。じゃあ診察日を早めてもらえるように電話しようか?瑛人くんが希望するなら先生にも私が話をするけど」


彼が衝動的に自死を決行してしまうことを恐れた私は、その時彼が激しく心配していたお金のことを一緒に市役所に相談に行き、病院にも付き添うことにしました。

「俺の人生、夕貴さんに出会えてラッキーだった」


病院では、彼の希望で一緒に診察室にも入って、今の彼の状態を私からも先生に説明しました。
先生からケースワーカーさんに繋いでもらって、少しだけ今後のことを相談もしました。

病院から家まで送り届けた際、彼が私に向かってこう言いました。

「俺の人生、夕貴さんに出会えてラッキーだった。夕貴さんがいなければとっくに自殺していた」


それを聞いて、私も心底ホッとしたのです。瑛人くんにとって気がかりな問題が少しでも片付いたなら、とりあえず急場しのぎにはなったのかな、と……。




「……瑛人くんってすごくきれいなんだよね、心が。表面的なきれいごとを言う人はいっぱいいるけど、どこか裏が透けて見えるっていうか。
だけど瑛人くんは本当にすごく純粋だから、だから私は失くしたくないし、ずっとここ(地上)にいて欲しいし……絶対に死なせない」


そう言うと、彼は泣き出してしまいました。

「俺、いつもはそういうのあんまり刺さんないんだけど……何か嬉しいですね」

眼鏡を外し、嗚咽しながら目頭を押さえ、そんな風に答えたのでした。

それから二日後、彼の表情は一変していた


――が、それから二日後、市役所に支援の相談に行く約束になっていたため彼を迎えに行くと、彼の表情は一変していました。

「何しに来たんですか。夕貴さんがいると何も出来ない、早く帰ってください」

「帰ったら何するの」
「夕貴さん帰ったら死んだり、作業したり……」


それを聞いて、私はきっとまだ彼は大丈夫だなと思い、市役所には断りの電話を入れて帰ることにしました。
彼がその時手掛けていた仕事があることを知っていたので、私が帰ったらその作業をするのだと思ったのです。



「夕貴さんいると何だか見張られているみたいで。ああ、見張ってるのか」
「夕貴さんには色々良くしてもらったけど、やっぱり悪縁だったな」
「夕貴さん帰ったら今から死にます」

せわしく喋りながら、ずっとウロウロと歩き回っていた彼。
「バイバイ」と私が玄関先で声をかけると、瑛人くんも「あっ、バイバイ」と反射的に半分手を挙げかけ、そしてすぐに下ろしました。


「またね」――そう言いながら扉を閉めた、まさかそれが彼の姿を見た最後だったなんて。

それ以降、失踪した彼とずっと連絡が取れないまま、数か月後に訃報を聞かされることになるのです。



瑛人くんの「生前のお話」は、これで終了となります。次回以降は、彼の「亡くなった後のお話」について、書いていきたいと思います。

長くなりましたが、ここまでお読み頂きありがとうございました。

次回はこちら!
身体は失っても魂は消えない…亡き瑛人くんからのコンタクト


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▼ シンクロニシティ・ストーリーズまとめ。現在もまだ謎解きの途中です。


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