上原 果

文章と、あと、動物の写真。 誹謗中傷、盗作禁止。

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龍が如く短歌

就活と大学の卒業制作に苦しんでいた2021~今年をメンタル面で支えてくれたコンテンツがある。それはゲーム「龍が如く」だ。 最初は実況動画から真島吾朗を知り、そのうちコントローラーを握って画面内でヤクザを倒すようになった。 じつを言うと、いままでテレビゲーム自体をプレイしたことがなかった。あまり興味がなかった。と、いままで人に言ってきたが、実際のところ人と違うことをしたくて、あえてゲームに興味がないふりをしていただけなのかもしれないと、ゲームの味を知ったいまなら思う。 以

    • 就活と無職時期の短歌

      今年、わたしは無事に大学を卒業した。 けれど、就職はできなくて、そこだけ無事じゃなかった。これらの短歌はいちばん憂鬱だった時期に詠んだもの。 履歴書に書けないことが多いんだ英検四級やそれ以下のこと 建前を諳んじつづけた就活期 抑圧の本音 じんましんになる 万人の千尋あらわる春先だ ここで働かせてください 肩書きがなければ昼の桜すらあおぐことすら罪悪おぼえ ほかにもいろいろあるけれど、とくに気に入っているのがこの四首。 どうしていまこの短歌を公開したかというと、明後日

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        上野動物園 時間を消化させる毛玉たち

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          2020 2月 上野動物園~インカアジサシ~

        龍が如く短歌

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        • 短歌とエッセイ
          2本

        記事

          +18

          池袋サンシャイン水族館

          池袋サンシャイン水族館

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          水鳥の光景

          水鳥の光景

          +26

          双 ツイン

          黒いチュールレースのフリルに彩られたドレス。私はそれを抱えて部屋に入った。 「新しい服ができたから。今日これ着てよ」  暗闇の中でかすかな息づかいが聞える。私は壁を手探って、明かりのスイッチを入れた。天井から垂れ下がる白熱電球がパッと光が灯る。ウィスキー色の室内にひとつ置かれた赤いソファ。その上に寝転がる彼女は、うぅんと唸り腕で目元を庇った。もう学校に行く時間なのに呑気な奴だ。ほら、起きてよ、と私は彼女の腕を引っ張って、上半身を起こす。 「無理に起こさないでよォ」  私と同じ

          双 ツイン

          是々

          「壺を殺処分してください」 一瞬、耳を疑った。婦人は即座に紫の風呂敷を受付カウンターに広げると、本当に壺があらわれた。龍が描かれた青磁の壺は素人目でも、たいそうな値がつくように思われた。 「しかし、ここは保健所ですよ。犬猫の処分なら、お話をうかがわなくてはなりませんが、ゴミは受けつけかねます」 けれど、私が言い終わらぬうちに婦人は 「私にもどうしたら良いのかわからないんです」 と、声をあげた。鼻水がかった声は、いつしか涙声に変わる予感がして、とりあえず面談室に案内した。 ご

           雪がちらつく。風が宙の雪をプラットホームに押し込む。 「まもなく高校前行きが発車いたします」  雪の日はやけに音が良く響く。背後の電車は多くの人を吞んで、プシュウと荒い鼻息を立てた。乗らなければならない電車。一時間目まであと三十分もない。早くしないといけないけれど、そうしたらば、今日も型通りの一日がぼうと流れていく。 「ドアが閉まります。ご注意ください」  自分の中の常識が「立て」と尻が冷えるベンチから引っ張り上げようとしていたが、虚しくも背中で冷たさが刺す風が吹き去ってい

          悪夢の終わり

          獣のうなり声のようなパトカーのエンジン音が、最上階のスイートルームまできこえてきて、もう潮時だな、と貴方は言った。 「脱出ルートはある。そこから逃げよう」  この日を想定して厨房の床下に通路つくったんだ。そこから逃げれば、奴らをまくことなんて簡単だ。けれど、貴方はベルベットソファに沈めた腰を上げようとしなかった。酒の密造、賭博、血嵐吹き荒れる抗争。今までのすべてに、もううんざりだと、葉巻ののぼる煙を見つめる目は疲れ切っていた。 「これで国から出ていけ」 ソファの肘掛に仕込んだ

          悪夢の終わり

          琴古主

           午前零時の中華料理店「蓬莱」は、すでに閉店をむかえた。最後に残った私が出入り扉、窓の施錠もした。それなのに、どうして。窓の席に少年が座っているのだろうか。隠れていたのか。それはない。戸締りをしたあとにモップがけをしたが、人が隠れている気配すらなかった。もし隠れていたとしても、冷蔵庫の中を確認している短い間に、音もなく席に着くのは不可能だ。「霊」の一文字が頭をかすめる。とっさに厨房のかげに隠れた。どうせCG、と小馬鹿に観ていたいつかの心霊特番の投稿動画に似た状況が、現実、今、

          梅蘭芳訪日100周年記念公演・感想文

          ※演目のネタバレ含む。閲覧注意。  前々から、京劇に興味があった。衣装のさばきやシナのつくりかた、コスプレが趣味な私だから、あの目の周りのほのかな桃色の化粧に惹かれるものがあった。動画サイトでそれらをつぶさに見て回ったけれど、どんなものでもそうだけれど、やはり液晶を隔てない、同じ空気の中で感じるものが一番だった。  「京劇」の最初の印象は、「中国の古典をあつかった、お堅い芸能」だった。 けれど、実際は登場人物に愛嬌があって、意外だと思うかもしれないけれど、笑いを誘う場面もあ

          梅蘭芳訪日100周年記念公演・感想文

          ふりそで

          霧のような雨が降りしきる日だった。いつもの時間に店は開けたものの、こんな日に着物を借りて鎌倉で遊ぶ客がいるわけがない。着物レンタルショップ「あや」の店内は、時計の音だけが響き渡っていた。 全部の着物、虫干しだな。カビが生える。 「だから雨は嫌いなんだ」 店の奥の座敷に引っ込んだ店主の瑠璃は、窓を伝う水滴の流れを目で追った。膝の上には、長襦袢が広がっている。さっきまで半衿をつけかえようと無心に針を動かしていたが、針先で指を刺した痛みで気が散った。それから、ずっとぼんやりと窓を眺

          ふりそで

          チャイナ服の袖でオパールを拭う

          結婚指輪を売った金でチャイナ服を買った。裾の丈が長いやつじゃなくて、ジャケットだけれど、非日常な格好は不安定な心を少しだけ軽やかにしてくれた。  五時にもなれば、帰宅の足取りが駅構内を埋め尽くす。改札を抜ける人々の流れに逆らって、私はただぼんやりとフラフラと、足を動かしているだけ。時折、肩にぶつかる人は、この格好をいぶかしそうに物珍しそうに、好奇な目を向けて行き去っていく。家に帰って夕飯の準備をしなきゃ、と思いかけたけれど、あの人が帰ってくる前に料理を済ませておく必要はもうな

          チャイナ服の袖でオパールを拭う