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梅蘭芳訪日100周年記念公演・感想文

※演目のネタバレ含む。閲覧注意。

 前々から、京劇に興味があった。衣装のさばきやシナのつくりかた、コスプレが趣味な私だから、あの目の周りのほのかな桃色の化粧に惹かれるものがあった。動画サイトでそれらをつぶさに見て回ったけれど、どんなものでもそうだけれど、やはり液晶を隔てない、同じ空気の中で感じるものが一番だった。
 「京劇」の最初の印象は、「中国の古典をあつかった、お堅い芸能」だった。
けれど、実際は登場人物に愛嬌があって、意外だと思うかもしれないけれど、笑いを誘う場面もあった。
「貴妃酔酒」という演目。酒宴にこなかった皇帝に苛立った楊貴妃が、ヤケ酒をあおるという内容だ。翡翠や瑪瑙をあしらった金の冠や蝶や花の刺繡がふんだんにあしらわれた衣装がかすむほど、ホンモノの楊貴妃がいる、と思うほど綺麗な役者さんの登場に会場がどよめいた。そんな美人が酒をあおって、泥酔気分の千鳥足になってしまう様子は、ギャップ萌えは必至。挙句の果てに、口に盃をくわえたまま背中を大きくのけぞる(ようはブリッジ)をしたときは、笑い半分、ハラハラさせてくれた。何枚も重ね着した漢服に派手な金細工の装飾が施された冠はきっと想像するよりも重いはず。それらをものともせず、三回もブリッジをやってのけるところに、プロの技術を感じた。
「琴桃」と「秋江」の二部にわかれた、学生と尼の恋物語では、人物の掛け合いや仕草が可愛くてしょうがなかった。月明かりの下ひとりで琴を奏でる尼に、学生が子供がするように背後から、わっ! と驚かしたり、対応がしょっぱい尼を仕方なくあきらめて帰ると見せかけ、草木の陰に隠れて、尼の本心を盗み聞きしたり、俗にいう残念なイケメンっぷりが炸裂していた。本当にデリカシーがない。ちなみに学生は近く科挙という試験を控えている。勉強しろ(笑)。
尼も言い寄る学生を琴の歌詞にのせてクールにあしらったりするのに、一人のなったとたん(隠れた学生が聞き耳をたてています)、胸に秘めた想いのたけをさえずるように口にするのだから、ツンデレを感じた。
後編の「秋江」では、想いが通じ合った二人が、それぞれの環境のせいもあってしばらく離れ離れになる。葦がしげる水辺で飛び行く雁に自分たちの恋路をなぞらえ、衣の袖を翼のように広げて舞う様子は切ないものがあった。
日本ではなかなか観る機会が少ない、京劇。それまでお堅いイメージがあったけれど、現代の感覚でも十分に楽しめるエンターテイメントだった。
また、機会があったら、脳に響くあの声量を感じたい。


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