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『発掘された日本列島2020』の埴輪目撃談

2020年の列島展、1週間遅れですが、江戸東京博物館で無事開幕。
よかった。
しかも

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例年以上に埴輪がフィーチャーされています。

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ここには5体も! さすがです。

心ははやるけれど、落ち着いて、だいたい展示順に行きましょう。
展示構成は「新発見考古速報展」「特集1」「特集2」。

1.「新発見考古速報展」7遺跡の速報展示

このコーナーには埴輪なし。残念。
ですが、関連する出土品や気になったものあり。

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下側2点 大阪府堺市の土師(はぜ)ニサンザイ古墳出土のキヌガサの立ち飾り コウヤマキ製 長いほう78.1cm

この木製の立ち飾りとけっこう似た形の立ち飾りのキヌガサ形埴輪がある。

真ん中の孔はないが。木製と埴輪、並べて見たかった。

実際のキヌガサの本体は木製で布を張るらしいが、立ち飾りを知りたい。図では立ち飾りがない。

そしてこちら

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「笠形木製品」長径63cm

キヌガサじゃなくて「笠」と表記するのはなぜ?

ニサンザイ古墳からは埴輪も出ているが今回は来場せず。

馬具の説明には馬形埴輪が欠かせない。

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静岡県富士市の伝法(でんぼう)古墳群出土の馬具や大刀など

いろいろ出ている伝法古墳群から

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東平1号墳出土の大刀の卵形の鐔にほどこされた銀象嵌

整いすぎていない線が魅力的。埴輪に通ずるテイストがある。

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聖寿寺館跡(しょうじゅじたてあと)出土の向鶴(むかいづる)銅製目貫(めぬき)金具

鶴っぽい鳥形埴輪が存在する。

向かい合う埴輪時代の物としては、二頭の龍が向かい合う柄の大刀が存在する。
後述の双魚佩も向かい合う2匹の魚。

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同遺跡出土のウサギ形銅製目貫金具

振り返りながら走るって難しそう。くび痛めそう。兎はできるらしい。

兎形埴輪が存在する。

2.「特集1」日本の自然が育んだ多様な地域文化

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この掛け軸には埴輪1体。
入りましょう。中ではもっと多数の埴輪が待っています。

と言いつつ、まだ引っ張る。

縄文土器の地域性は埴輪のそれより濃い。

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センター上段の火焔型土器は新潟県三条市の吉野屋遺跡出土

縄文土器の中でも火焔型土器は特殊ということがわかる。
火焔型土器は信濃川のたまもの。

岡本太郎の文章のほか、谷川徹三の『縄文的原型と弥生的原型』が紹介されていた。帰宅後、以前読んだ時のメモを引っ張り出してみる。縄文的原型はディオニュソス的、弥生的原型はアポロ的、など。埴輪は、弥生土器と時代を接する古墳時代のものということで、弥生的原型に分類されていた。

出土遺物が脳を刺激してやまない。

後日、『縄文的原型と弥生的原型』を再読して書いた読書感想文がこちら。

埴輪に行く前に、どうしてもこれを。

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岡山県真庭市の中山遺跡出土の吉備壺(特殊壺、高さ56㎝)と吉備器台(特殊器台、高さ93.8㎝)

壺の大きさよ。重そう。
そりゃ器台にしっかりした足が必要となるわけだ。

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垂直に立ち上がった口縁。

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底の孔を何とか確認。

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器台の口縁も、ほぼ垂直に立ち上がる。

弧帯紋(こたいもん)。

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それに連動する透孔(すかしあな)。木の葉形と、扇形。

顔に見えて仕方がない。

別の紋様帯には縦縞と斜紋。

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長方形の透孔。

奈良県橿原市の葛本弁天塚古墳出土の吉備壺と吉備器台を去年見た。

壺も器台も本展のものとはかたちが少し違った。透孔と紋様も。

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中山遺跡のものは楯築(たてつき)型、葛本弁天塚古墳のものは宮山型らしい。
書籍でいちおう知ってはいたが、見比べることの重要さを感じる。
見比べることができた喜びに浸る。

壺の大きさに驚嘆したことは同じ。

ほかでも見ている。

ありがたや。
やはり実際に見て打たれないと。

いよいよ埴輪。ようやく埴輪。

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埴輪でなければ出せない空気を吸う。

埴輪はケースの中だが…
壁置きしかないのは残念。
昨年のような島置きで直置きがいいな。反射がないし、いろんな角度から撮りやすいし。

いや贅沢言っちゃいけない。

今年は種類豊富。
しかも、同じ種類でもバリエーションがあることがわかる。

まずは
埴輪の中でも今年の顔。

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群馬県太田市のオクマン山古墳出土の鷹を腕にとめる人物埴輪

これが埴輪のサイズ感。高さは138㎝説と147㎝がある。どちらにしても大きい。本展では最大の埴輪。
鷹を乗せる腕に展示用の支えがつく。たすきのよう。鷹が重いか。鷹にしては小さいと思うが。

そして鷹にしてはかわいい丸い目。

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くちばしは鷹らしく尖っている。

飼い主の右頬は削れてしまっているが、気にせず笑顔をキープ。
鷹の尾に鈴。羽は割としっかり線刻されている。
てっぺんが前に突き出す、つばの広い帽子。モデルは革製?

このコンビには何度かお会いしている。去年も。

これまで見落としていたが

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彼の大刀、知りませんか?

顔と言えばもう一体。

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群馬県佐波郡玉村町の小泉大塚越7号古墳出土の人面つき円筒埴輪 高さ63.4㎝

1500年前から哀愁というものがあった。
埴輪時代が今と直結していると感じる。

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頭部のカットは冠であろうか?

人面つき円筒埴輪は数体見ている。

昨年の列島展にも出ていた。

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千葉県成田市の龍角寺101号墳出土の鹿形埴輪(左、レプリカ)と犬形埴輪(右)

四つ足のはずが二本足。前足1本、後ろ足1本。
大胆な省略技が光る。
足に突帯が1条まかれている。円筒埴輪からの流れを汲むもの、ということか。

同じように二本足に突帯が巻かれた鹿形埴輪が茨城県つくば市でも出土している。

ところで右の埴輪、犬形埴輪と記載されていましたが、そうか?
ツノのない鹿では?

なぜなら

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尾が出土していない。しかも復元した尾が巻いていない。

雌鹿説を提唱します。牡鹿より大きいから子鹿ではないでしょう。

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顔は犬とも鹿とも言えない。

図録で確かめようと思ったら、いなかった。

追記(2020/06/22)
『モヤモヤさまぁ~ず2』(2020年6月21日(日)放送)を見ていたら、国立科学博物館を訪れていた。剥製の解説で、鹿の仲間はツノが枝分かれしていて、ツノが枝分かれしていないのは牛の仲間、とのこと。
レプリカのあいつは鹿じゃなくて牛!?
と思ったが調べてみると、ニホンカモシカはツノが枝分かれしていない。名にシカとつくが牛の仲間だそうだ。
埴輪のモデルがニホンカモシカの可能性がある。その場合、鹿形埴輪と呼んでも、まあいいか。
分類も大事だが、人にどう呼ばれ、どう人と関わってきたかの歴史も重要だ。
家畜化されていたら牛かな。牛形埴輪は少ないがある。

本展のサブテーマは魚とみた。

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千葉県流山市の東深井古墳群第7号墳出土の魚形埴輪 高さ23cm

魚は埴輪に作りにくいのに作ったのはなぜか。
作りにくいからか、魚形埴輪は少ないが。

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群馬県高崎市の保渡田八幡塚(ほどたはちまんづか)古墳出土の鵜形埴輪 高さ63.6cm

くわえた魚の種類は魚形埴輪の魚と同じなのか?

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大阪府羽曳野市の峯ケ塚古墳出土の金銅製双魚佩(そうぎょはい)

向かい合う2匹で一組。魚の種類は何だろう。
本展の解説では大刀の飾りということだった。腰につける装飾品という説もあるらしい。
薄手。保存方法のパネル解説あり。

このへんに、わざわざ魚を埴輪に作った理由がありそう。

一方、動物埴輪では馬に次いで出土数の多い鳥。なかでも鶏は鳥形埴輪の3分の2を占める。

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大阪府大阪市の長原87号墳出土の鶏形埴輪 高さ32.3㎝

線刻がアーティスティック。埴輪時代にセンス職人がいた。
写実性など、もはや問題ではない。

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もちろん鶏だとわかる。

くちばしが欠けていても鶏。
目は線刻。その左右に耳朶(じだ)らしき円板がつく。

頭部が欠けている埴輪もある。

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鳥取県北栄町の土下(はした)211号墳出土の鹿形埴輪 高さ36.9㎝

鹿の子まだらくっきり。
蹄もはっきり表現されている。

頭部が復元なのは残念だなと思っていたら、図録によると「昭和18年の鳥取大地震で頭部が失われた」とのこと。なんという…
でも実測図から復元してもらえたのはよかった。

尻尾はない。出土しなかったか。

埴輪をぜんぶ載せたいけれど、そうもいかない。

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つらいけど割愛。いずれ紹介します。

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本展最大のショック。

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百足塚古墳(むかでづかこふん)出土の埴輪出演せず。
コロナめ!
巡回展なので、江戸博以外の会場では展示されるかもしれませんが…

見たかったなあ。特に太鼓形埴輪とストリップ埴輪。

3.「特集2」記念物100年 ―我がまちが誇る史跡・名勝・天然記念物―

埼玉古墳群は令和2年、史跡の国宝「特別史跡」に指定されました。

埼玉古墳群の稲荷山古墳出土の金錯銘鉄剣のレプリカ、銘を研ぎ出す前と後のもの両方あり。
離れた場所にパネルあり。なぜ同じ場所に展示しないのか…
そもそも解説は文字が多すぎると読んでもらえないが。
鉄剣の銘も長いんだよなあ。だからこそ世紀の発見なんだけど。

しばらくさきたまに行っていない。行きたいなあ。

岩橋千塚古墳群も特別史跡。

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岩橋千塚(いわせせんづか)古墳群出土の円筒埴輪(左がレプリカ、右が出土品)

パネルによると、最下の突帯(とったい)は工程が違うと思っていたら手数が少ないだけだったらしい。
吉備器台とは違い、埴輪は脚部を埋めて立つので、たぶん見えなくなる最下突帯の工程は省いたのでしょう。
しかし、なぜ却下された説をわざわざパネルに載せるのか…

全体にパネル使いがうまくないのよ。
文字数を減らして写真を拡大するとか、どうよ。

4.2020年6月14日の江戸東京博物館の状況

予約は不要。
いつも利用している三笠會館近くの出入り口は出口専用。
15:30頃、3階から入館。
1階は正面玄関からしか入れないもよう。
チケット購入前に体温測定。窓口に列なし。

館内マスク必須。
消毒液多数配置。
ソファは一つ置きに使用。
トイレのハンドドライヤー使用中止中。
冷水器使用中止中。
スタッフや警備員はいるが、解説員おらず。
混雑と言うほどの混雑はなし。
いつもより年配者が少なく、比較的若いカップルが目立った。時間帯のせいかもしれない。企画展から流れて来た人たちかもしれない。

展示室内に図録なし。
ミュージアムショップの書籍立ち読み禁止。

だからというわけではないが図録を購入しました。

裏表紙は埴輪が独占。城山1号墳の3体。

扉には小泉大塚越7号古墳出土の人面つき円筒埴輪。

5.開催概要

第26回 発掘された日本列島2020 新発見考古速報
文化庁主催の巡回展。平成7年度から毎年開催。
年間約9,000件の発掘調査から、特に注目される遺跡や出土資料をまとめて紹介。

会場および開催期間
東京都 江戸東京博物館:2020年6月13日(土)~8月3日(月)(当初の予定の6月6日(土)~8月10日(月・祝)から期間が変更)
新潟県立歴史博物館:8月22日(土)~9月27日(日)
福島県立博物館:10月10日(土)~11月15日(日)
愛知県 一宮市博物館:11月28日(土)~12月27日(日)
大分県 中津市歴史博物館:2021年1月16日(土)~2月21日(日)

来年も行くぞ! 列島展!

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鷹に魚を取られるなよ。


お読みいただきありがとうございます。サポートいただきましたら、埴輪活動に役立てたいと思います。