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【編みlog】出来そこないのマインドフル・トラウマディスコ

編み物をはじめて1ヶ月くらい経つ。

不器用でせっかちな自分とは
世界の逆側くらいに縁遠いところにある
針と糸を手に持つ。

どんなに手痛い失敗があっても
心のない言葉で叩かれ傷つけられるほどのことになりづらく、
どんなに上達しても、社会通念上立派であることとして取り上げられづらい。

編み目のひとつひとつが
唯一無二の偶然的産物。

どれも違ってどれも同じ。
良いも悪いもない。

だって毛糸がくるんと絡まって作られた穴だ。

きれいだと胸ときめく模様に
理由づけをして答弁することにならない。

小さく慎ましく、
透明度の高い白の時間が
するすると編み目に吸い込まれ、
沈殿していく。

個人的で暮らし密着型のこと。
合理性や価値の論理の網目から
思いっきり漏れ出すもので、
素朴な生命に寄り添う側にある。

蹴り落としのし上がり、
欺瞞や暴力を飲み干して加担者となる
生き残り競争に埋没していたら、
きっと編み物をする人を見下すくらい、
生存正当性が脅かされる
恐ろしさからの自己防衛に
出てしまうだろうと想像する。

「これほど利益を産まない、時間コストの悪いことに勤しむと発想するだけで恐ろしい。
おれはそんな負け犬の発想が浮かぶほどダメな奴じゃない無駄だ舐めてんのか嫌だ嫌だ拒否反応う゛ぇ゛ぇ゛」

とな。

つまりは自由なのだ。
闘争や資本の星系の外。
月裏のクレーターの温度。
私のボロボロの意識を解体するシェルター。

当然ながら手先は不器用なので
なかなか上手くいかなかった。
指が腫れ、肩の筋を痛め、視力がガタ落ち。

でも編み物に魔力があって、
見合わない労力だとか痛手を負ったものにならないだとか思わせない魔力がある。

ダメンズメーカー。
ダメンズis私。
あたしがいなければと思う女子is私, too。

だから今もちまちまと、気まぐれに
いびつでヘンテコなものたちを産み落とす。

こんなのや

メガネケース


こんなの

ハンドクリームカバー

第三者の目にはゴミに映って終わるだけの
子どもたちだとしても、

うみの親にとっては
人生で最高に愛着が湧いてしまうメモリアル。

なんでも出来損ないの私に必要なものは
自分による自分に寄り添う
愛しき出来損ないたちほかないと気づく。

ものを編む。
空白を糸で包む。
価値の枠組みから外れる。

そのうちきっと
ふわふわ、さらさらに意識が漉されていく。


でも実際のところ、
これもなかなか
算段通りにうまくいっていない。

編み物はマインドフルネス。
マインドフルネスは
トラウマの炙り出しマシンでもある。

目の数がわからなくなったり、
編み地が予想外の形によれたり
広がったりして
完成の形に辿り着けるか不安になって
手が汗ばんでくると

決まって脳内は
絶叫ペンチに打たれる人間失格地獄。
えげつないトラウマは我が意を得たり。

猛々しく渦巻く
人生の出来損ないエピソードの業火。
トラウマに舐められ炙られる
心はガタガタクタクタだ。
一層灰に燃え尽くしてくれれば
まだ風に飛ばされて楽になるのに。

剥き出しに晒される
痛ましく無惨なバラバラ死体の
記憶が連なり、
死へ向かう時と共に立ち塞がり
出来損ないの私のすべてを否定し嘲笑う。

息が詰まる。
震えて固まる。
手足が冷えて汗だくになる。

息を吐ききってもう一度糸を指にかけ
編みかけた断片の凸凹をなぞりながら
編み目をチェックし、3段先の計算をし直す。

力と勢いを持つ邪悪なものたちよ。
呪いの歌を叫び散らかさないでおくれ。

禍々しい焚き火に燃えゆく意識。

ああ囲って輪になって
呪いの歌を叫び散らさないでおくれ。

進化の末、私ミシンになりたい。

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