15歳の少年と25歳の男の対話
これはとある15歳の少年と、とある25歳の男のお話し。
どうやら男はその少年を見かけた時、話しかけずにはいられなかったらしい。
少年もその男から声をかけられて、なんだかんだで話し込んでしまったらしい。
男「聞いてもいい?君は今何歳なの?」
少年「僕は今15歳。今年の誕生日で16歳になる高校1年生だよ」
男「そっか。僕は今25歳なんだ。今年26歳になるよ。学校は楽しい?」
少年「うん。体育の授業とか厳しかったりもするし、課題とか大変だけど、基本的には友達とも仲良くできているから楽しく過ごしてるよ」
男「そっか。それじゃあ得意な科目はあるの?」
少年「国語とか英語とかかな。あと日本史も得意な方かな。ただ理系科目はからっきしで赤点ばっかりだけど」
男「そっか。僕も文系科目だけは得意だったけど、君と同じく理系科目はとにかく苦手だったよ」
男「そうだ、部活は何かしているの?」
少年「うん。中学生の時と同じ部活を続けてるよ」
男「そっか。部活は楽しい?」
少年「うーん……。練習はきついし、まだレギュラーには入れてないから楽しいというよりももっと頑張らないといけないなって思ってるかな。
先輩も同級生も皆んな僕よりレベルが高いからなんとか追いつき追い越すために部活以外で家でもランニングに行ったりトレーニングをしたり、一応自主練はしてるんだ」
男「そっか。今なにか目標はあるの?」
少年「今の一番の目標は何よりも部活でレギュラーに入ることかな」
男「残念だけどそれは君には無理だ。君はこれから先、一度もレギュラーにはなれない」
男は少年の言葉を遮るように言い放った。
少年は突然の思いもよらぬ男の言葉に、驚きと同時に少しの怒りを覚えて訝しげな表情を浮かべて男に言い返す。
少年「なんであなたにそんなことがわかるの?そりゃまだ今は1年生だし弱いけど、これから2年生、3年生になればきっとレギュラーに入れると自分では思ってるよ?」
男「そうだろうね。だけど残念だけどこればっかりは事実なんだよ」
少年「……。僕にはさっぱり意味がわからない」
男「そうかもしれないね。でも僕は君のことを君自身と同じくらいに知っているんだよ」
少年は眼前のその男の言動が全く理解できず、ただ狼狽えるしかなかった。
男「君は今なにが起きているのか、そして僕が一体何者なのか、理解が追いついていないだろうね」
男はそんな少年の顔を見て少し淋しげな顔をしながら言葉を続けた。
男「部活のことだけじゃない。いい?これから言う言葉は覚悟して聞いて欲しい」
少年は少し怯えたような目をしているように見える。
男「君は高校2年生の温かい春が終わる頃、大切な家族を亡くしてしまう。これも変えられない事実なんだ」
少年のひどく困惑した顔を他所に男は話しを続ける。
男「そして、高校2年生の夏の真っ只中、君の前にとてつもない壁が立ちはだかる」
少年「それはどういうこと?」
男「君は病気に罹ってしまうんだよ。そしてその病気は簡単には治らない。何年もその病気と付き合っていくことになる」
少年「……その病気はどんな病気なの?」
男「うーん、今は知らない方がいいのかもしれないけど、いずれ知ることになるから今のうちに伝えてもいいのかもしれないね」
男は続けた。
男「簡潔に言えば心の病気だ。今の君には耳馴染みのない言葉かもしれないけれど所謂、精神疾患っていうものなんだ。その精神疾患のせいで君は次第に部活に行けなくなる」
少年「……そうなんだ。よくわからないけど、そしたら僕はどうなるの?」
男「お、君の方から聞いてくれたね。君は学校からも足が遠のいてしまう。他の皆んなと同じように学校に通うことすら出来なくなるんだよ」
少年「僕はそうなってしまってから大丈夫なの?」
男「うーん、大丈夫かどうかで言えば難しいところなんだけどね。僕は君のことを知っているって言ったよね?君は頑固だからどうしてもその高校を卒業しようとする。辛い思いもするけど、結論を言えばきちんと卒業自体はなんとかできるからその点は一応安心していいよ」
少年「そうなんだ」
男「君のことについて話すのはこの辺りまでにしておこうか。今君は頭の中がとても混乱状態だろうから」
少年「うん」
男「最後にひとつだけ伝えさせて欲しい。15歳の君のこれから先には沢山の困難が待ち受けている。その度に君は何度も涙を流して苦しむことになる。だけど、少なくとも君の今から数えて向こう10年はなんとか生きてはいるから。ただ、その先はどうなのだか僕にもわからないんだ」
少年「そうなんだね。正直、頭の整理は全然ついていないけど、とにかくあなたは僕に色んなことを教えるためにわざわざ僕に話しかけてくれたんだね」
男「そうだね、そういうことになるね」
その男と少年はどこか似たような表情を浮かべているようにも見える。
男「それじゃあそろそろ君とのお話しの時間は終わりにしようかな」
少年「うん、わかった。最後に僕からひとつ聞いてもいい?あなたの名前を教えてよ」
男「僕の名前か。僕の名前は"ひろき"っていうんだ」
少年「あ、僕も"ひろき"っていうんだ。同じだね」
男「それはなんとも奇遇だ。何か不思議な縁があるのかもしれないね。今はできる限り沢山のことを楽しむといいよ。いつかまた再会する時が来るかもしれないね。それじゃあ元気でね、ひろき君」
少年「うん。ひろきさんも元気でね」
その少年の声を聞いて男はフラフラとどこかへ消えてしまった。
その場にじっと立ち尽くしながら少年はまるで何かを悟ったかのように遠い目をしている。そして、ゆっくりと瞼を閉じた。──── ────
ひろき
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