マガジンのカバー画像

異世界転移流離譚パラダイムシフター

462
数多の次元世界<パラダイム>に転移<シフト>して、青年は故郷を目指す──
運営しているクリエイター

2020年4月の記事一覧

【第15章】本社決戦 (17/27)【奮戦】

【第15章】本社決戦 (17/27)【奮戦】

【目次】

【死怪】←

──ズガガッ、ガガガガッ!

 広漠な社長室に、アサルトライフルの発砲音が反響する。疾走するシルヴィアは、宙に浮く怪魚の腹部へ大口径弾をフルオート射撃で叩きこんでいく。

 わずらわしそうに身をよじった奇怪なモンスターは、狼耳の娘に対して巨大な尾ビレを叩きつける。

 シルヴィアは、進行方向に跳躍し、さらに前転して致命的な攻撃を紙一重で回避する。殴打の衝撃で、社長室全体が

もっとみる
【第15章】本社決戦 (16/27)【死怪】

【第15章】本社決戦 (16/27)【死怪】

【目次】

【傲慢】←

「アサイラ──ッ!!」

「なにを呆けているのですわ、『淫魔』!?」

「こういう相手、私には苦手なタイプだわ……そういう龍皇女は、どうなの!!」

「わたくしは、シルヴィアどのを抱えているのですわ!?」

『くわッ! かしましいぞ、小娘どもが……』

 念入りにすりつぶすように、アサイラのいた場所に手のひらをこすりつけていたオワシ社長は、チューブ製の外殻をまとったまま立

もっとみる
【第15章】本社決戦 (15/27)【傲慢】

【第15章】本社決戦 (15/27)【傲慢】

【目次】

【社長】←

「グヌ……ッ」

 アサイラが、うめく。いまにも折れそうな老いさらばえた五本の指が、若者の手首に喰いこむ。人間離れした膂力で、無理矢理に青年の手を引きはがしていく。

 老体の全身につながれたチューブが、いっそうまばゆい輝きを放ちながら、死にかけた肉体に純粋なエネルギーを注ぎこんでいく。

「──ヌギイ!」

 枯れた枝のような指を振り払いながら、アサイラは一歩、退く。『

もっとみる
【第15章】本社決戦 (14/27)【社長】

【第15章】本社決戦 (14/27)【社長】

【目次】

【再進】←

「中枢部っていうから、どれくらいの防御網が待ちかまえているのかと思ったら……正直、拍子抜けだわ」

「たまに動くものが現れたかと思っでも、機械人形ばかりですわ……これでは、我が伴侶の手を煩わせるまでもありません」

「……『社長』は、人間を信用していないのだな。通常、中枢部にはスーパーエージェントしか出入りはできない」

 アサイラと『淫魔』、龍皇女、それにシルヴィアの四

もっとみる
【第15章】本社決戦 (13/27)【再進】

【第15章】本社決戦 (13/27)【再進】

【目次】

【覚悟】←

「──龍皇女ッ!!」

 通路の向こうから悠然と歩み寄る相手の肩書きを、『淫魔』は叫ぶ。純白のドレスを着こなす人間態の上位龍<エルダードラゴン>は、動じる素振りも見せない。

「あなた、どうやって……あの次元障壁を、超えてきたのだわ」

「ええ。ここまで駆けつけるにあたって、それは最大の難題ですわ。わたくしも、大いに頭を悩ませました」

 龍皇女──クラウディアーナは『淫

もっとみる
【第15章】本社決戦 (12/27)【覚悟】

【第15章】本社決戦 (12/27)【覚悟】

【目次】

【到着】←

──ゴオオォォォウ。

 照明を切られた暗室に、猛火のほとばしる音が響く。灼熱の火柱は、ドラゴンの口から放たれるように伸びて、壁にぽっかりと空いた丸い穴へと吸いこまれていく。

 セフィロト本社内、現在使われていない小型の倉庫部屋の中。赤焔の輝きが、ふたつの人影を照らし出す。

 ひとつは、長い黒髪を後頭部でまとめ、着流しを身にまとう灼眼の女だ。爆ぜ音を立てる劫火は、彼女

もっとみる
【第15章】本社決戦 (11/27)【到着】

【第15章】本社決戦 (11/27)【到着】

【目次】

【窮鼠】←

「とはいえ、どうしたものだわ」

 ため息とともに、『淫魔』は独りごちる。目の前の敵兵たちを、自身の幻覚能力で無力化するのはたやすい。そして、それは根本的解決にはならない。

 ここは、敵の本拠地だ。いくら撃退しようとも、増援は無尽蔵にやってくる。さらに、こちらが動けないとわかれば、セフィロト側もいくらでも打つ手はあるだろう。

「四面楚歌……だっけ。こういうの」

 警

もっとみる
【第15章】本社決戦 (10/27)【窮鼠】

【第15章】本社決戦 (10/27)【窮鼠】

【目次】

【遅馳】←

「人の心を、幻覚で支配するように……視線で、魔法文字<マギグラム>の機能を乗っ取ったというのかね!? まるで、ハッキングのように!!」

「……ほんの、少しだけだわ」

 慌てて『伯爵』は、右手に持つ漆黒の札を、ダストシュートの底へと投げ捨てようとする。だが、スーパーエージェントの反応よりも、異変の発現が速い。

「うグ……ッ!?」

 燕尾服のスーパーエージェントがうめ

もっとみる
【第15章】本社決戦 (9/27)【遅馳】

【第15章】本社決戦 (9/27)【遅馳】

【目次】

【無粋】←

「『伯爵』──ッ!」

 大きく胸元が開いたドレスの女は、一瞬、息を呑むと、スーパーエージェントに向かって橋のうえを一直線に駆けはじめる。一人、二人……全部で、五人。

「『淫魔』。貴女のことは報告書でよく見ているが、五人姉妹だったのかね?」

 シルクハットの影に冗談めかした笑みを浮かべる『伯爵』は、手近なところに浮かんでいた鉄球をステッキの先端で突く。

 力場でバウ

もっとみる
【第15章】本社決戦 (8/27)【無粋】

【第15章】本社決戦 (8/27)【無粋】

【目次】

【逆向】←

 アサイラは、『伯爵』の顔を踏み台にして、格闘戦の間合いに着地する。常人であれば首がねじ切れるほどの衝撃を受けてなお、スーパーエージェントは踏みとどまる。

 もうろうとした意識のまま、体勢を立て直そうとする『伯爵』の胸ぐらを、青年はつかむ。相手の躯体を、ゼロレンジまで引き寄せる。

「ウラアッ!」

「おグぅ──!?」

 燕尾服の伊達男の額に、アサイラの強烈な頭突きが

もっとみる
【第15章】本社決戦 (7/27)【逆向】

【第15章】本社決戦 (7/27)【逆向】

【目次】

【決闘】←

「ふむ。あまり、我輩を失望させないでくれたまえよ。『イレギュラー』?」

 次なる弾体が、壮年の伊達男のステッキから打ち出される。さきほどとは異なる軌道を描きながら、ダストシュートの空間を巡りつつ、鉄球は速度を増していく。

 アサイラは、聴覚と皮膚感覚を研ぎ澄まし、飛翔体の動きを捉えようとする。風切り音とともに、球体の殺傷能力が高まっていくのを感じる。

「そこ、か……

もっとみる
【第15章】本社決戦 (6/27)【決闘】

【第15章】本社決戦 (6/27)【決闘】

【目次】

【爆破】←

「おい、クソ淫魔……聞こえているのなら、返事をしろ」

 アサイラは、こめかみに指を当て、実際に声を出して『淫魔』との数度目の念話を試みる。先ほどまでと同様に、脳内に直接響く返事は来ない。

 地下空間で待ち伏せしていたエージェントと戦闘したあたりから、『淫魔』との連絡が取れなくなっている。なんらかのトラブルがあったのかもしれない。

「とはいえ……止まるわけにもいかない

もっとみる