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異世界転移流離譚パラダイムシフター

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数多の次元世界<パラダイム>に転移<シフト>して、青年は故郷を目指す──
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2019年10月の記事一覧

【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (5/12)【躊躇】

【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (5/12)【躊躇】

【目次】

【救難】←

「いったい、なにがあったのよな……と尋ねても、答えられる様子ではなし」

 女鍛冶の刀の切っ先が、刃にまとわれた赤炎とともに、異様な獣人へと突きつけられる。武人のごとき、隙のない構えだ。

 幼少の頃からリンカは、たしなみとして刀術を習わされた。刀の作り手は、刀の振るい方も覚えねばならない──至極、合理的な理由だった。

「ブオォーッ!」

 野牛の大男は、けたたましい咆

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【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (4/12)【救難】

【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (4/12)【救難】

【目次】

【不穏】←

「……マノだけでも、逃げるんだよ」

 リスの尾の獣人は、かたわらの少年に語りかけながら、立ちあがる。猿耳の子の目には、彼女の両脚が小刻みに震えているのが見て取れる。

「リシェ、無茶もな!」

「リンカさまに伝えるんだよ、マノ!」

 リシェは、マノに背を向けて、懐から鋭利な刃の小刀を抜く。迫り来る異様な獣人に対して、切っ先を向ける。

「むおー! マノには、指一本ふれ

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【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (3/12)【不穏】

【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (3/12)【不穏】

【目次】

【昼餉】←

「ん。まあまあ、といったところなのよな」

 薪置き場のさらに奥には、鉱石や砂鉄が山と積みあげられている。リンカが獣人たちに頼んで集めてもらった製鉄の材料だ。

 砂鉄を手ですくいあげた女鍛冶の赤い瞳は、鷹のように鋭い眼光を放つ。何事もどんぶり勘定なリンカだが、鉄の仕事に関わるとなれば話は変わる。

 大きめの土器に質のよい砂鉄と純度の高い鉱石を詰めこみ、抱えあげる。ずっ

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【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (2/12)【昼餉】

【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (2/12)【昼餉】

【目次】

【獣人】←

「さもありなん。これだけの量、さすがにアタシ一人じゃあ食べきれないのよな」

 眼下に並べられた山盛りの食材をまえに、リンカは腰に手を当てる。

「というわけで、二人とも! ここで、一緒に食べていくかい?」

「わぁい、やったー!」

 マノとリシェは、歳相応の子供らしい歓声をあげる。
 
「当然、料理は手伝ってもらうよ!」

「もちろんもな、女神さま!」

「もちろんだ

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【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (1/12)【獣人】

【第8章】獣・女鍛冶・鉄火 (1/12)【獣人】

【目次】

【第7章】←

「クギャ──ッ!!」

 つんざくような鳥の鳴き声が、鬱蒼と茂るジャングルに響きわたる。猛禽の絶叫に呼応するように、周囲の枝葉に潜んでいた獣たちが慌ただしく遠ざかっていく。

 鳴き声の主は、両の翼を羽ばたかせながら、大樹の枝から枝へと飛び移っていく。

 時折、背後を気にしつつ逃げるのは、大柄で空を飛ぶ能力を持たない鳥種だ。そのかわり、脚力に優れ、短距離ならば滑空もで

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【第5章】剛敵は、深淵にひそむ (2/4)【坑道】

【第5章】剛敵は、深淵にひそむ (2/4)【坑道】

【目次】

【野伏】←

「他のエージェントに貸しを作るのは気に入らないのだが、仕方ないものなんだな」

 グレッグは、『機械化鳥隊<バード・カンパニー>』を前面に展開し、自身は岩壁の隙間に身を隠し、導子通信を起動する。

「CQ、CQ……こちら、グレッグ・コクソン。ミッション遂行中に、崩落によって、洞窟内に閉じこめられた。救援を求む……」

 ザリ、ザリザリ……救難通信に対するオペレーターのレス

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【第5章】剛敵は、深淵にひそむ (1/4)【野伏】

【第5章】剛敵は、深淵にひそむ (1/4)【野伏】

【目次】

【第4章】←

 赤茶けた荒野の所々に、濃い緑色の下草が群生している。控えめな彩りの花々を飾る茂みも、それなりの頻度で見られる。

 大地は、岩山が起伏を刻み、地下水脈が頭をもたげた場所には樹々が背を伸ばして、林を形成する。

 一見すると荒々しい自然におおわれたように見える次元世界<パラダイム>は、しかし、化学物質によって汚染されている。

 無人の荒野には、錆びて朽ち果てた機械……

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【第3章】魔法少女は、霞に踊る (10/10)【都市】

【第3章】魔法少女は、霞に踊る (10/10)【都市】

【目次】

【蒸気】←

「クソが! 重い……ッ!!」

 ガードのうえからでも背筋まで貫くような回転リングの衝撃が、ダルクを襲う。あまりの威力に、一瞬、身体が浮かんだほどだ。

 それでも紙一重で攻撃を耐えきったエージェントは、よろめきながら魔法少女のほうを振り返る。

 ダルクを翻弄した円輪は、持ち主のもとには戻らない。魔法少女とエージェントの中間地点を隔てるように、回転しつつ、垂直に浮遊する

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【第3章】魔法少女は、霞に踊る (9/10)【蒸気】

【第3章】魔法少女は、霞に踊る (9/10)【蒸気】

【目次】

【妖精】←

「……んっ」

 魔法少女は、衣装を飾り付けるリボンの一部をちぎりとる。フリルスカートの内側に手を突っこみ、股間にこびりついた体液をふきとると、ショーツをはきなおす。

──ヒュン、ヒュヒュンッ。

 己の得物である二輪一対のフラフープを素振りすると、メロは、まじめな顔で背後を振り返る。

 そこには、憔悴した表情でレンガ壁に背を預けるアサイラの姿がある。ゆっくりとなら移

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