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銀塩浪漫(3) OLYMPUS-35SP✖️東京・中野の桜🌸

『銀塩浪漫』3回目の今回は、国産レンジファインダー機のベストセラー〈オリンパス35SP〉の登場。5群7枚という贅沢なG.ZUIKO 42㎜/F1.7レンズを搭載した、オリンパス35シリーズの最高峰です。

時代を感じさせる当時のカタログ

 1969(昭和44)年の発売当時、大卒の初任給が34,000円ほどだったことを思うと、23,000円という定価はけっして安いとは言えなかったでしょう。
 それでも売れたということは、高度経済成長、割賦販売の普及という社会背景に加え、当時増加していたアマチュアカメラマンたちを満足させるに足る高品質とハイスペックとをこのカメラが持っていたからだと思います。

新井薬師(梅照院)

 機種名の「SP」とは「スペシャル」のことだと思われがちですが、じつは〈スポット測光〉を意味しています。
 従来の標準であった平均測光では、画面全体を文字どおり平均化した「可もなく不可もない」露出の写真となりますが、スポット測光では、作家の意図をより反映させることができます。そのスポット測光を、35㎜コンパクトカメラに初めて搭載したのがオリンパス35SPなのです。

新井薬師(梅照院)

 さて、搭載のG.ズイコー1.7/42レンズ。その写りはどうかというと、前回のコニカヘキサノン2.8/40の作例と比べてみると、なんだかコントラストの低い、いわゆる「眠たい」写りだと感じるのではないでしょうか。

哲学堂公園

 よく欠点として「眠たいレンズ」という言われ方をしますが、言い換えれば、それは高性能・ハイスペックなレンズだということ。つまり、ヘキサノン2.8/40のような3群3枚という低コストのレンズではどうしても解像度が低くなるため、結果としてコントラストの強い、いわゆる「エモい」写りとなるわけです。

哲学堂公園

 これに対し、本機のような5群7枚のレンズでは、相対的に高解像度・低コントラストの、言い換えれば「繊細で緻密」な画像が得られるのです。(※「眠たい」写りのもう一つの要因として、レンズコーティング技術が現在よりも未熟だったことが否めませんが、それはここではあえて触れずにおくこととします)

哲学堂公園

 つまり「眠たい」と「繊細で緻密」とはコインの裏表の関係にあります。メリハリの効いたエモい画を好む人は35SPの写りを「眠たい」と評し、反対に、高解像度で精緻な画づくりをしたい人は、コニカEEマチックのスペックでは物足りないと感じるわけです。

哲学堂公園にある六賢台

 そのように考えると、ハイスペックの高価なレンズと、低コストの安価なレンズとは、けっして優劣の関係にあるのではないことがわかると思います。
 作家自身が、それぞれのレンズの特性を生かしたモチーフを選び、また生かすような作画技巧を施すことで、そのレンズは最大限のパフォーマンスを発揮してくれることでしょう。

哲学堂公園

前回のコニカヘキサノン2.8/40の写りと、今回のオリンパスG.ズイコー1.7/42の写りとを比較しながら鑑賞してみてみることで、自分の求める写り、自分の目指す画づくりとはどういうものかを考えるきっかけになれば嬉しく思います。

哲学堂公園

 オリンパス35SPは、チープなトイカメラが作り出すそれとは対極的な画づくりをするカメラです。しかし逆に、その優秀なレンズとフィルムのもつ特性とを生かすことで、ロースペックカメラとは一味違った「繊細かつレトロな味わい」の写真を撮ることができるのです。(了)

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