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乙 まみこ
2020年4月11日 15:40
今日は特別な日だ。 頬を撫でる風はまだ少し冷たいけれど、昼間の太陽はポカポカと、もう確実に春を連れてやって来ている三月の日。ふだん滅多にアルコールを口にしない私だけれど今日だけは特別に、ちょっと贅沢なスパークリングワインと、美味しいと評判の駅前の商店街のお肉屋さんのローストビーフを夕食用に買い込んだ。テーブルには洗いたてのクロスを敷き、いつもは棚の奥で眠っていてあまり出番のない金色の縁取
2020年4月5日 20:23
その女の子とはいつも一緒だった。好みもよく似ていて、私たちが一番好きな花はチューリップで、やさしい海の色をしたレモン味のソーダがお気に入りだった。真ん中に星のマークが描かれている水色の王冠をかぶったそのソーダを私たちは“海ソーダ”と呼んでいたけれど、本当の商品名は思い出せない。海ソーダは近所の駄菓子屋やまだやでしか見たことがなく、それもいつ入荷するのかもわからないまぼろしのようなソーダだっ
2020年4月6日 22:09
僕には誰にも言えない秘密があった。それはあの日どこから入り込んできたのか、部屋の隅に落ちていたメモを手にした時からはじまった。『平田町二丁目 ひかり公園』その日会ったのは中学二年生の男の子だった。左のまぶたに黄色くなりかけたアザがあり、唇の真ん中に滲んだ血はまだ鮮やかな色をしていた。彼は怯えるでも怒るでもなく、ただ嵐が過ぎ去るのを待つというようにベンチに座っていた。その表情は感