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全盲の猫か、下半身不随の猫か

👆こちらから続く。

『三重苦の猫のことを、ヘレンケラー猫と呼ぶらしいよ。』ある日、弟がそう教えてくれた。

その頃私は、全盲の子猫が、耳が聞こえないせいで鳴くこともできないのではないかと疑っていた。「ぎゃ~」とか「ふにゃ」とか声は出すのだが、この月齢(生後3カ月程度)のほかの子猫が「ニャ~」「みゃ~」とうるさいほど鳴くのと対照的に、人間にアピールするための鳴き声をほとんど立てなかったからだ。

ネットで検索すると、いくつか記事や動画がみつかった。さすがに三重苦の猫の情報は数えるほどだが、全盲や耳が聞こえない猫の情報はやや多い。

全盲でも普通の猫と変わらない、と書かれたものも結構ある。ただ、耳が聞こえないと、してはいけないことをした時、それを伝えるすべがないので大変だと書かれていた。

確かに、耳が聞こえれば「ダメ!」と口で言えばすむが、耳が聞こえない場合、身振り手振りで教えなければならない。しかし、この子の場合、目も見えないので、身振り手振りも通じない。一体、どうやって必要なことを伝えればいいのだろう…?

トイレ問題

そんなことを考えながらシェルターに行き、くだんの子猫を見る。今日は「トイレ」の中で寝ている。

トイレで寝る猫は多い。それは普通のことなのだが、ちょっと様子が違う。ケージの中のトイレ以外のスペースに、ペットシート(尿を吸収し、閉じ込めるシート)が敷き詰められているのだ。

「これ、どうしたの??」

スタッフに尋ねると、『なんか、最近、いつもトイレの中で寝て、トイレじゃないところでオシッコしちゃうんですよねぇ。』とのこと。

「えっ・・・。」

猫は、トイレに対するこだわりが強い動物だ。きれい好きで、排せつ後、早く片づけてほしいと飼い主にせがんだりする。自分以外の猫の臭いがするトイレでは排せつしないという猫も多い。

猫は本来、肉食の動物で、先祖が獲物を狩って暮らしていたため、排せつ物など自分の臭いを隠そうとする習性があるからだ。猫がトイレの猫砂を自分の排泄物の上にかけるのはそのため、という説もある。

トイレの形状や猫砂にも好みがあり、自分好みのトイレでないと排せつしない。(そのためシェルターは何種類もの猫砂を用意し、それぞれの猫の好みに合ったものを使っている。)

そして猫は、足の裏の感覚でトイレとそれ以外の場所を区別し、一度覚えれば、人間同様、問題なくトレイができる。それが普通だ。

シェルターには常時150頭ほどの猫がおり、たまにハプニングでトイレ以外の場所で粗相をすることはあっても、基本的にどの猫もちゃんとトイレで排泄ができる。なのに、この子はトイレが出来ない???

次に行ったときには、さらに状況が変わっていた。
ケージの中のトイレが取り出され、ペットシートと毛布だけになっていたのだ。どうやらこの子は猫砂が嫌いで、猫砂だと排せつしないため、ペットシートをメインで使うことにしたらしい。

しかし、「ちゃんと、ペットシートでオシッコする?」と聞くと、『いや~、ダメですねぇ~。』とのこと。毛布とペットシートの別なく「出して」しまうとのこと。『どこでもトイレ~』なのだと歌うように言うが、それは重大問題だ。

下半身麻痺の猫

同じ頃、シェルターにはもう1頭気になる子猫がいた。下半身麻痺の猫だ。

猫が下半身麻痺になる原因は、先天的疾患、椎間板ヘルニア、血栓症など様々だが、子猫の場合、交通事故や高い所から落ちた時の外傷などが原因の場合も多い。

この子は脊椎損傷による麻痺で、後ろ足が2本とも伸びきってしまい、後ろ足での起立や歩行が出来ない。そのため、上半身と前足の力だけで足とお尻を引きずって移動する。

下半身麻痺というと、足が動かないので「移動(運動)」が一番の問題のように思われるが、最も深刻なのは移動ではなく「排せつ」だ。多くの場合、排尿をつかさどる神経も麻痺してしまっているので、自力で排泄ができない。

尿が垂れ流し状態になってしまう猫もいれば、全く出ない猫もいる。出ない猫の場合はもちろんだが、垂れ流しの猫も、それだけで完全に膀胱内の尿が排出されるわけではない。

そのため、人が下腹部にある膀胱を指で直接押し、排尿させる必要がある。(圧迫排尿法と呼ばれる。)また便は、排尿時、一緒にポコッと出ることもあるが、出なければ腸を外側から押してやったり、浣腸をしたりして出さなければならない。

便は1日くらいなら出なくても支障はないが、尿が出ないと膀胱炎になる。膀胱炎を放っておくと、尿路閉塞(尿が出せなくなる状態)を起こしたり、急性腎不全や尿毒症(尿中の毒素が体の中にたまってしまう病気)など、重篤な病気に進行するおそれがある。

そのため、たとえ何があろうと、尿を1日2回朝晩、必ず出してやらなければならない。これが下半身麻痺の猫の最大の課題である。

しかし、この子猫は幸い、五体満足な子猫に負けないくらい元気だ。両足を引きずりながらも、驚くほどの速さで移動する。しかも、顔立ちや仕草が可愛らしく、猫らしい魅力に溢れている。

これならきっと貰い手が現れるだろうと思った。その見立てのとおり、里親候補の方々の関心を集め、最終的に、シェルターでボランティアをされていた優しい方に引き取られた。

ほっとした。

気になっていた2頭のうち、1頭に明るい未来が開けたのだ。同時に「やはり、うちに来るのは全盲の子なんだな。」と思った。

しかし、我が家に猫を迎えるには難題が控えていた。

こちらに続く👇

生まれつき両目の眼球がなく盲目だった黒猫ルナ。気管支拡張症という病に苦しみながらも、いつも明るく喜びを与え続けてくれた。 保護猫施設から我が家に来て2年1カ月。
これはその記録です。


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