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全盲で耳も聞こえない猫、ルナとの出会い

LINEメッセージ

「なんか、両目の無い子がきたんですけど。」

LINEにそんなメッセージが入ったのは、2021年7月18日のことだった。私がボランティアをしている保護猫施設が、盲目の子猫を引き取ったという知らせだった。

のちに我が家の愛猫となる「ルナ」との最初の接点となったメッセージ。それを見た時、正直私は「え~、そんな子が…。」と少し暗い気持ちになった。

その施設では、常時200頭前後の保護猫を飼養し、里親を探して譲渡していた。その数、2014年の設立以来、1,500頭超。

それだけの数だから、当然、中には入所後あっと言う間に里親様が決まる猫もいれば、何年たっても決まらない猫もいる。ただし、短期間で譲渡が決まる猫たちには共通点がある。

見た目が可愛いこと、そして、五体満足であること、だ。

どんなに人懐っこくても、どんなに性格が良くても、団子鼻だったり、身体的な問題があったりすると、なかなか引取り手がみつからない。

猫白血病(FeLV)や猫エイズ(FIV)キャリアの子が、そもそも検討対象から外されるのは普通のことだし、猫風邪が元で片目が少し白濁していたりといった、運動能力にまったく支障を及ぼさない程度の後遺症でも、敬遠される原因となる。

なかなか譲渡が決まらないことが猫たちにとって不幸なのはもちろんだが、シェルターにとっても頭の痛い問題だ。譲渡が決まらない猫が増えれば増えるほど、それが経営の重荷となっていく。

今回引き取った両目の無い猫も、なかなか里親がみつからず、長くシェルターで暮らすことになるだろうと思った。

ひょっとして、三重苦?

聞けば、保護主さんがその猫をみつけた時、道路をひとりで歩いていたとか。生後2か月程度と、ちょうど乳離れの時期だったので、母猫が帰って来なくなったため探しに出たのか、それとも捨てられたのか…?

いずれにしても、目が見えないのによく車に轢かれなかったものだ。その強運には恐れ入る。が、当時から写真のように両眼が無かったので、おそらく視覚障害は生まれつきのものだろう。そんな重度の障害を持って生まれた子猫を「強運」と呼ぶのは果たして適切だろうか?

実は、短期間で譲渡が決まる猫たちにはもう一つ共通点がある。それは「アピール力があること」だ。

人がケージに近づくと、しきりに手を伸ばし「にゃーにゃ―」と訴えかけるように鳴く猫は、里親候補者の関心を引きやすく、引き取られる確率が格段に上がる。

ところがこの子猫は、私が近づいて呼びかけたり撫でたりしても、まったく鳴かない。愛想がない。全盲だから回りのことが分からないだけかもしれないが、愛想がないを通り越して、反応が無いのだ。

そこで、何か気を引くようなものがあれば気晴らしになるだろうと考え、ある日、私は鈴の音がするおもちゃを持ってシェルターを訪ねた。

早速、おもちゃをケージに入れ、鈴の音を聞かせる。だが、反応がない。周りのケージの猫たちは鈴の音に興奮し、右往左往し始めている。それでもその子は、音のする方向に顔を向けようともしない。

『ひょっとして???』

その時私たちは初めて、この子猫は全盲なだけでなく、耳も聞こえていないのではないかと疑い始めた。今までは、ケージの扉を開けるとエサだと分かるらしく、眠っていても立ち上がるので、音が聞こえているものと思っていた。しかし、扉を開けるとケージが揺れるので、振動で目覚めていただけなのかもしれない。

『だとすると、(譲渡は)絶望的だな』と、声を出さずに心の中でつぶやいた。これだけ障害の程度が重ければ、ほとんどの人は引き取ることに二の足を踏むだろう。

しかも、当時、この子猫は痩せこけていて、毛並はボロボロ、お世辞にも可愛いとは言えない容貌だった。

生後3カ月頃のルナ

見た目は貧相、愛想も無い、全盲で、しかも耳も聞こえないかもしれない猫を、一体、どんな人が欲しがるというのか。

この子猫がシェルターの片隅に横たわり、光も音も無い暗闇の世界でただ餌を食べ、排せつし、一生を終える光景が目に浮かんだ。その想像は、私をひどく暗い気持ちにさせた。2021年8月2日のことだった。

こちらへ続く👇

生まれつき両目の眼球がなく盲目だった黒猫ルナ。気管支拡張症という病に苦しみながらも、いつも明るく喜びを与え続けてくれた。 保護猫施設から我が家に来て2年1カ月。
これはその記録です。

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