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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(29)

桃虎はレイターと会話をするとそのまま仲間を引き連れて立ち去った。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版①  

 僕は警備艇に船体を調べるよう連絡をした。
 そして、レイターの言う通り、船の下部の死角となっている場所に追尾装置がセットされているのが見つかった。

「な、俺の言ったとおりだろ」
「どうしてわかったんだい?」
「あいつは『裏切りの桃虎』だぜ。簡単に引き下がるわけねぇよ。べらべらとおしゃべりして時間を稼いでいたからな。その間に取り付けたんだろ」

下から見上げる 青年ネクタイなし後ろ目む逆

「桃虎の姐さんのことホント詳しいッスね」
「やめろ」
 ちゃかすジムをレイターは見えない目でにらんだ。

 僕はレイターに聞いた。
「桃虎はグレゴリーファミリーの円卓衆だろ、ファミリーの本隊は君を追ってこないんだろうか? スペンサーとか」

 ずっと気になっている。なぜ、ダグが僕を殺さなかったのか。
 レイターが肩をすくめた。
「そりゃ、スペンサーが雑魚ざこだからだろ」
「雑魚?」
「ダグが止めてるのさ。右腕があまりに無様だと、『裏社会の帝王』の沽券こけんにかかわるからな」

ダグとスペンサーの2

「やっぱ、レイターはダグの親父んところへ戻った方がいいッスよ。グレゴリー一家をさらに拡大できるじゃないッスか」
「バ~カ。跡を継ぐ気はねぇって何回、言わせりゃ気が済むんだ」
 レイターはジムの頭をはたいた。

「僕も君にダグの跡を継いでもらいたくないよ」
 それでなくても『裏社会の帝王』ダグ・グレゴリーに警察は手が出せなくて困っている。そこへ、こんな優秀な跡取りが加わったりしたら、どう考えても厄介だ。

 ジムは僕の発言を否定するように手を振った。
「いやいや刑事さん。アホのスペンサーが跡を継いだらそれこそ大変ッスよ。第四次裏社会抗争勃発ッス。ダグの親父だから円卓衆を抑え込めてるんで」
 一理ある。ダグの前であたふたしていたスペンサー本人を思い出す。どう見ても彼は『裏社会の帝王』という器じゃない。

「でもスペンサーはダグが認めた後釜候補なんだろ? 一体どういうことなんだろう?」

 僕の問いにレイターが答えた。
「あんた、ダグのことホントわかってねぇなぁ。親父の辞書に『引退』の文字はねぇよ。スペンサーみたいな使いやすくて忠実な馬鹿に跡目継がせときゃ、一生操れるじゃねぇか。寝首も掻かれねぇし」
「でも、ダグは本心では君の帰りを待っているじゃないか」
「俺が跡を継ぐなら、ダグを生かしといたりしねぇっつうの」
 軽い口調だったが、ゾクっと身震いがした。彼なら本当にやってしまうに違いない。


* *

 パリス警部の下にマーシーさんから報告が入った。
 わたしは同じ部屋でそれを聞いていた。

 レイターたちは何とかピンチを切り抜けたようでほっと息をつく。

 千五百機もの船がフェニックス号を取り囲んだと聞いて、いくらレイターでも逃げられないと思ったのだけれど、ピンクタイガーはガーラファミリーを追い返してそのままいなくなってしまった。
 まるでレイターを助けに来たかのようだ。

「どうしてピンクタイガーは何もしないで去ったんだ?」
 モニターに映ったマーシーさんにパリス警部が質問した。

「はぁ、どうやらピンクタイガーの首領の桃虎とレイターは個人的なつながりがあるようで」

マーシー前目やや口逆

 マーシーさんの報告は歯切れが悪かった。
「個人的? 桃虎とレイターにどんな関係があるんだ」
 警部がたずねた。
「確認が取れている訳ではありませんが、男女の仲というか……」
「えっ!?」
 わたしは思わず声を上げた。

「ティ、ティリーさんいらしたんですか?」
 マーシーさんが慌てている。その様子はまるで浮気現場が見つかった本人のようだ。
「あ、あの、言っておきますが、レイターはティリーさんと別れる気は無いとはっきり桃虎の申し出を断っていましたから……」
「申し出って一体何ですか?」

t19 (2)白襟む大

「いや、あの、その……」

 桃虎という名前を検索してみる。
 グレゴリーファミリーの円卓衆。年齢不詳。父親の黒虎が殺されたことから跡を継いでマフィアの首領になった。随分と色っぽい女性だ。

  わかったことはこの桃虎という人は懸賞金の百億リルよりレイターが大切、つまり好きということに違いない。

n350桃虎

 この件は、あとでレイター本人にきちんと確認しなくては。 

 あの人には秘密が多すぎる。不安の種は一つずつ潰しておかないと不信感という名前の花が咲いてしまう。     (30)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」