銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十六話(2) 将軍家の鷹狩り
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・第二十六話(1)
・第二十六話のまとめ読み版
確かにわたしが謝ることじゃない。
けれど、レイターが怒っている原因はわたしに関係があって、しかも、わたしはレイターの顔を見たら、つい、動揺して大きな声を出してしまった。
先週末にジョン先輩から、思わぬことを聞いた。
レイターにとって大切な人だという『愛しの君』は、レイターの前の彼女で、すでに亡くなっている、というのだ。
その話を聞いてから、きょう初めてレイターと顔を合わせた。
自分でもよくわからないけれど、心の準備ができていない状態でレイターと会いたくなかった。
わたしは気持ちを落ち着かせて、フェルナンドさんにあいさつした。
「あらためましてティリー・マイルドです。よろしくお願いします。ベルからお話うかがってます」
「僕もです」
フェルナンドさんが仕事のできる人だ、と言うことはその打ち合わせだけでよくわかった。
綿密な行程表が渡された。
「これはあくまで目安です。事態にあわせて臨機応変に対応しますから」
レイターから行程表が示されたことはない。こちらから到着時間を伝えればそれで終わり。
ルートそのほかこちらから聞けば答える、という態度。
フェルナンドさんの行程表には食事のメニューも記されていた。しかも、わたしの好物がそろっている。
「食事のメニューも変更可能ですから」
「わたしの好きなものばかりです」
フェルナンドさんが微笑んだ。
「警護対象者ということで、ティリーさんのこと、調べさせていただきました」
わたしのことを調べた?
そうか、この人は普段社長を相手にしているのだ、いろいろと気を使うことが多いのだろう。
*
フェルナンドさんの船プレジデント号は、クロノスの最高級船ハイグレード。ランクが一番上の船だ。自社の船だけれど初めて乗った。
普段は社長が利用しているハイスペックな船。乗り心地も抜群だ。
そして、仕事はまさに行程表の通りに進んだ。
フェルナンドさんの警護は素晴らしかった。
車のドアの開け閉めから、わたしとの距離の取り方から、何から何までスマートで、自分が重要人物になったように錯覚しそうだ。
「具体的な日付を詰めておかなくて大丈夫ですか?」
と、さりげなく仕事のフォローまでしてもらい、非の打ち所がない。
グラードの売買契約はスムーズに終わり、帰途についた。
何のトラブルもなかった。厄病神とは大違いだ。
*
帰りの船の中で、フェルナンドさんと食事をした。
プログラミングによって調理された料理も、美味しかった。
食後のコーヒーも香りがいい。
「ティリーさんはコーヒーにうるさいとベルから聞いたので」
と微笑むフェルナンドさんに、お礼を伝えた。
「今回は、ありがとうございました。わたし、とても気持ちよく仕事ができました。『厄病神』のレイターが一緒ではこうは行かなかったと思います」
と、つい余計なことまで言ってしまった。
「『厄病神』というのは、レイターさんにとって酷な気がしますね」
フェルナンドさんはレイターをかばうような発言をした。
「彼は報酬に危険手当を上乗せしてもらっています。そもそも、レイターさんが行くところはリスクが高いですから」
「そうなんですか?」
初めて聞く話だった。
レイターとフェルナンドさんは、同じボディガード業界だから知り合いだ、ということはわかるけれど、二人の関係はそれだけではない気がする。
わたしは聞いてみた。
「レイターとは、どういうご関係なんですか?」 (3)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」