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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(31)

ガーラファミリーは物量に物を言わせて航路の逆走を始めた。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版①   

 レイターの言うとおりだった。この近くの航路を飛んでいる船のほとんどが警察関係船だ。
「止まれ! そこの逆走船! 止まれ!」
 向かってくる船の一隻が赤色灯を回し始めた。その横をすり抜ける。

 背後からガーラの船が集団で逆走しながら、追いかけてきた。ライトレーザーを撃ってくる。
 下り路線を飛行していた一般船は、次々と路肩へよけて道を開けていく。

 前から多数の赤色灯の明かりが見える。サイレンとともに近づいてきた。あれは機動警備隊だ。デリポリスから飛んできたのだろう。

「レイター、もう少しでターンポイントっス」
「了解。ガーラの相手は警察にお任せするぜ」
 ターンポイントの標識を吹き飛ばす勢いで、フェニックス号が急旋回する。ポイントラインから上り路線へ入る。

 機動警備隊の何隻かが上り路線へ追いかけてくる。
 デリポリスまではあと少しだ。僕はパリス警部あてに通信機をセットした。

 下り路線では機動警備隊とガーラファミリーが激突している。
 高速航路は大混乱だ。

 上り路線に入ったフェニックス号に真っ白なパトロール船がサイレンを鳴らし近づいてきた。
「こちら銀河警察高速交通隊だ。そこの船、止まりなさい」
「マーシー! こんなところで停まったら、逆に危険だって言ってやれ! っとに馬鹿だな警察は」 

「僕が事情を説明するよ」
 レイターは僕を無視してジムに問いかけた。
「ジム、最新鋭のホワイトP6型だろ?」

n205レイター横顔@2にやり

「そうッス」
「いやあ、こんなところで会えるとは。俺、ついてるな。アレなかなか飛んでねぇのよ。行くぜっ」
 フェニックス号の速度が加速する。

 真っ白な最新鋭機P6型との距離が開く。
「今度は警察サツとの鬼ごっこッスね。イエーイ!!」

ジム1笑顔

 ジムが楽しそうに雄叫びをあげた。
「警察のお墨付きで高速航路でバトれるとは、最高だぜ」
 二人ははしゃいでいるが、誰もお墨付きは与えていない。

 僕はさっきからパリス警部へ連絡を取ろうとしていた。
 だが、通じない。どうしたんだろう? オープン回線に切り替える。

 フェニックス号はさらに速度がアップした。警察の最新鋭船が振り切られていく。一体どうなってるんだこの船は。

 あっという間にデリ星系に入った。小惑星のデリポリスへ近づいていく。施設全体にバリアスクリーンを張り機動隊が完全警備体制に入っていた。
「さてとゴールはちゃんと用意されてんのかな、マーシー?」
 彼は全く警察のことを信用していない。

「ダメならダメと早く言えよ。次の場所へ移るから」
 通信機を再度、動かしながら答える。
「ちょっと待ってくれ」

「ここがダメだったら、次の場所ってどうするんッス?」
 ジムが聞いた。
「俺は銀河一の操縦士だぜ。どこにだって逃げ場はあるさ」
「桃虎の姐さんちッスか?」

 桃虎と聞いて僕は一瞬びくっとした。ティリーさんに変な情報を伝えてしまったことを思い出した。
「ば~か。あいつんちなんて行ったら監禁されるぞ。いいこと教えてやるよ。昔ダグが俺に賭けた十億の懸賞金の行方知ってるかい?」 
「ガーラも誰も、もらえなかったんッスよね」
 ジムが当たり前だという顔で答えた。

 ちっ、ちっ、ちっ。
 レイターが指を立てて左右に揺らし否定する。
「桃虎がダグからもらったんだよ。俺を裏切ってな」

桃虎と

「え? 意味がよくわかんないッス」
「とにかくそういう女なんだ。あいつは」

 おかしい。
 パリス警部ともデリポリスとも通信がつながらないのも変だが、本部はこの船が保護すべきフェニックス号だということは分かっているはずだ。

 なのに、バリアスクリーンが開く気配がない。

「こちら、火星七番署のマーシー・ガーランドです。デリポリス、応答願います。フェニックス号の針路確保を願います」
 ようやく通信機が反応した。と思ったら思わぬ人の姿がモニターに映った。

 頬に傷がある禿げ上がった男性。マフィア対策課のモーリス警部だ。
「ガーランド警部補、レイター・フェニックスをデリポリスへ入れるわけにはいかん」

モーリス警部にやり

 レイターが愉快そうに笑った。
「モーリスの親父か。ま、警察の考えることは、そんなこったろうと思ってたぜ」
「レイター、お前に言っておくが、デリポリスのバリアスクリーンは本庁と違って最新だ。いくらお前でも破れん」

 僕はいらだって声を荒げた。
「モーリス警部、どういうことですか? 彼は重要参考人ですよ」 
「マーシー、こいつは警察で保護しないことになったんだ。パリスはガタガタほざいていたが、上層部の決定だ」

 レイターがつぶやいた。
「ダグの人脈は昔と変わらず広いねぇ。さってと、どこへ行こうかな」
 裏社会と警察の上が繋がっているということか。そんなことを許すことはできない。

「警部、再考願います」
 モーリス警部は鼻で笑った。
「無理だ。そいつはマフィアのクズだ。保護する理由はない」

 困った僕はあせりながら”先輩”にメッセージを送った。
『【緊急】ご検討の程、よろしくお願いします!』
 書き途中の報告書をあわせて添付する。

 PPPPPP……

 警戒音が船内に響き渡る。
「おっと」
 フェニックス号が急旋回した。

 白い光がすぐ脇を通り過ぎる。砲撃だ。ガーラの声が聞こえた。
「レイター、お前の命を俺に渡せ!」

 警察の封鎖線を突っ切ってきたのか。
 ガーラはライトレーザーではなくレーザー弾を撃ってきた。一斉砲火だ。本気でこの船を撃ち落そうとしている。
「俺の手下たちの恨みをここで晴らしてやる!」

 百億の懸賞金のためではなく私怨を晴らそうとしている。
 援護すべきデリポリスは動かない。機動警備隊も見て見ぬふりだ。

「マーシー、ガーラを撃ち落したら正当防衛だっつって証言しろよ」
 レイターは雨のように降り注ぐレーザー弾をよけながらフェニックス号を反転させた。     (32)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」