銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十三話(1) 宇宙に花火が打ち上がる
・銀河フェニックス物語 総目次
・第三十二話「キャスト交代でお食事を」
部長に呼び出された。
仕事でミスをした覚えはないけれど・・・。ティリーは恐る恐る営業部長の部屋に入った。
部長はわたしの顔を見るなり機嫌がよさそうに、二ッと笑った。叱られる話ではないようだ。
「突然だが、ティリー君には、ネル星系で開かれるSSショーへ出張してもらうことになった」
次の仕事の話だった。
新型宇宙船の見本市、スペースシップショー。通称SSショーは、来週から開催される。
二年に一度開かれる宇宙船業界の祭典は、かなり前から準備が進められていて、突然出張が決まるのは何だか変。
「役員室からのお達しだ」
「え?」
わたしがなぜ役員室から?
「期間中、エース専務が会場に入る。君には専務のアテンドをしてもらいたい」
エース専務。その名前を聞いた瞬間、緊張で身体中に力が入った。
わたしの推し。
S1レーサー『無敗の貴公子』エース・ギリアム。
わたしが勤めるクロノス社の御曹司で、専務で、次期社長。彼がいたからわたしはこの会社を選んだ。
「秘書課の担当者が急遽入院することになって、役員室が君を指名してきたんだ。君なら慣れてるからってな」
思い当たることがあった。
前にもわたしはエース専務の付き人を担当した。あれは、宇宙船レースのS1プライム開催時だった。
手放しでは喜べない。
部長は知っているのだろうか。
あのS1プライムで、『無敗の貴公子』のエースに代わり、『銀河一の操縦士』のレイターが替え玉飛行したことを。
レースの途中で、エースは地元マフィアに腕の骨を折られ、操縦できなくなってしまったのだ。急遽、代理で飛んだレイターがきっちりとトップを守た。
そのことは、警察にもS1委員会にも届けていない。
だから、エースの無敗にカウントされている。
これは社内の極秘案件とされた。
さらにあの場でわたしは、誰も知らない現実のエース・ギリアムに遭遇した。
「あさって、専務はフェルナンド君のプレジデント号で会場入りするから、ティリー君も同行してくれ。専務の日程など資料は送っておくよ」
「はい。わかりました」
うれしさが半分、とまどいが半分。
憧れは憧れのままがよかった。なんて言っていられない。これは仕事なのだ。
*
席に戻るとベルがふくれっ面していた。
「ちょっと、ティリー、フェル兄の船でSSショーに出かけるんだって?」
ベルは従兄弟のフェルナンドさんに片思い中だ。
「フェル兄の情報をちゃんとわたしにあげるんだよ、わかった?」
「わかってるわよ。この間も教えたでしょ」
先日、フェルナンドさんと食事をした際に聞いた、今は好きな人はいない、という情報をベルに伝えたのだ。
「感謝してるよ。そう言えば、レイターは連続休暇を取ってるんだってね」
レイターの名前を聞くとドキッとした。
「そうなんだ」
「厄病神の船に乗らなくて済むって、みんな喜んでるよ」
まさにそのフェルナンドさんとの食事の後、偶然会ったレイターと、気まずい別れをしたばかりだ。
わたしが変な言いがかりをつけてしまった。
レイターと顔を合わせなくて済むのは、正直ほっとした。
*
フェルナンドさんの船、プレジデント号はクロノスの最高級船だ。
その整ったリビングで、実物のエースと再会した。
「ティリー、久しぶりだね。元気だったかい。今回もよろしく頼むよ」
わたしは毎週のようにレースを見ているから、久しぶりという感じがしない。
相変わらず素敵な笑顔だ。
でも、なんだろう違和感を感じる。
「こちらこそ。よろしくお願いいたします」
様子を探りながら頭を下げる。
「この前のS1プライムの際は、レース中だったから僕もテンションがおかしかった。いろいろ迷惑をかけたね」
「とんでもありません」
前に会った時より、エースの表情が明るい。
わたしが緊張しないように気を使ってくれているのだろうか。妙に親しげな気がする。 (2)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」