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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十三話(2) 宇宙に花火が打ち上がる

銀河フェニックス物語 総目次
第三十三話まとめ読み版 (1) 

 会期中のエース専務の大きな仕事は三つ。

 一つ目は、SSショーのオープニングを飾るシンポジウムのパネラー。
 二つ目は、今月発売した写真集のサイン会。
 そして、三つ目の仕事がメインで、新型船の発表会対応。

 わたしの仕事は、時間の管理だ。「まもなく次の予定が入ります」と伝えて、仕事をうまく切り上げ、スケジュールを円滑に進める。

 ボディガードのフェルナンドさんは、エースの前では一言もしゃべらない。

n26横顔A前向き真面目色

 影のように気配を消していた。

 SSショーが開かれる、ネル星系に到着した。
 小惑星帯を多く持つネル星系には、公営のレース場がいくつもあって、宇宙船好きにはおなじみの場所だ。
 うちの会社も、ネル星系に独自の試乗コースを持っている。

 巨大な球体の人工衛星がその会場だった。
 表面は広告パネルになっていて、各社のプロモーション映像がチカチカと光っている。

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 プレジデント号がゲートから球体の中へ入る。

 球の内側に張り付くように重力場の地面が形成され、その上に街が造られていた。
 街の外れはぐるりと人工林で囲まれ、球体の中心部には人工太陽と空が投影されているから、室内という雰囲気はかなり打ち消されている。

 人工林の外に宇宙空港はあった。
 フェルナンドさんが操縦するエアカーで、エースと一緒に会場がある街の中心部へと向かう。
 
 SSショーの入場ゲートとなっているコンベンションセンターを抜けると、色とりどりな各社のパビリオンが連なっているのが見えた。
 巨大テーマパークといった様相だ。
 
 明日の開幕を前に、会場はすでにプレス公開され、報道陣でごった返していた。同業他社の知り合いによく会う。

 うちのパビリオンの外観を確認しておこうと、一人外に出る。
 コーポレートカラーである鮮やかなオレンジの外壁は華やかだ。
 時間を司る神クロノスをイメージし、時計の針が一時五十二分を指した弊社のエンブレムが飾られた横に、巨大なデジタルポスターが張られていた。

 サイン会の宣伝が映る。写真集を手にするエースのさわやかな笑顔を前に、つい、顔が緩んでしまう。

上向きカラー2s

 かっこいい。

 ポスターに見とれていたら、背後から聞き慣れた声がした。
「およっ。どうしてここにティリーさんがいるんだよ?」

 いきなり現実に引き戻された。
 この人は休みを取っているんじゃなかったんだろうか。心の準備ができないまま、わたしは振り向いた。

 レイターが立っていた。
 パーカーを羽織って、随分とラフな格好をしている。

「どうしてってお仕事です。専務のアテンドで来たんです」
 淡々と事実を答えた。
「貴公子さまの付き人ですか。そりゃ、楽しそうなお仕事で」
 エースのポスターを見あげながら嫌味を言う。

逆振り向き

「そういうレイターこそ、休暇を取ってたんじゃないの?」
「そうさ、俺はこのSSショーのために休暇をとったんだ。完全プライベートだぜ」
 と、幸せそうに笑った。つられてこっちまで笑顔になる。
「あなたって、ほんとに船が好きなのね」

「おーい。レイター!」
 警備員の制服に身を包んだ大柄な人が、手を振りながら近づいてきた。銀河総合警備のクリスさんだ。SSショーの警備は銀総が仕切っている。

 クリスさんにはS1プライムの際お世話になったし、一緒にバスケをしたこともある

n135クリス笑顔

 レイターが露骨に嫌そうな顔をした。
 昔から知り合いだと言うクリスさんは、レイターを子ども扱いするのだ。

「やあ、レイター、一度はここへ顔を出すと思ったんだ。おまえって携帯通信機がつながらないからさあ」
 レイターへの連絡はフェニックス号から転送される。
 基本的にマザーが応対し、本人にはつながらないという話はよく聞く。

 ただ、わたしが架けてつながらなかったことはない。

 レイターは口をへの字にしてクリスさんをにらんだ。
「言っとくが、俺は休暇中だからな」
「闇の品はもうあらかたさばけたと聞いたぞ。随分稼いだそうじゃないか」

 この人、また悪いことしてお金儲けしていたんだ
「これから純粋にSSショーを楽しむんだっつうの」
「まあまあ、聞いて損はしない話さ。仕事を頼みたいんだ」

 クリスさんが肩を叩いてレイターを連れ出した。

* *

 ティリーに聞かれない程度に離れたところで、クリスがレイターに耳打ちした。
「せっかくのSSショーが爆弾テロにあったら、お前も楽しめないだろ」  「あん?」

 クリスは声を潜めて話を続けた。
「情報ネット上に『打ち上げ花火でSSショーを吹き飛ばす』って書き込みがあがってな、爆破予告の可能性がある」
「で?」
 レイターはクリスを上目遣いでにらんだ。     (3)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」