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「香り」を、書こうとしたこと。
香木の映像を見た。
沈香と、伽羅。
知らなければ、ただの歪んだ形の木材のようなもの。
一時期、「香り」を文章で書くには、どうしたらいいのだろうか、と思い、自分としてはお金をかけて、お香を買ったことがあった。
「窯変 源氏物語」
このすごい作品を読んだ時、当然だけど、平安貴族ばかりが出てきて、その中では「香」が、自然に存在し、でも、センスのあるなしが、瞬時に厳しく判断されていて、その「香」の表現が様々にされているのを読み、そういえば、「香り」を書くのは難しいと改めて気がついた。
そのころはライターをしていたから、どうすれば少しでも質の高い文章を書けるのだろうか、などと生意気かもしれないけれど、考えていて、そういう時に、この本を読んで、橋本治というすごい作家と同じにできるわけでもないけれど、香りも書けるかもしれない、などと思った。
お香の店
私が知っていたのは、仏壇などに備える線香だけで、そうなると「青雲」といった名前が頭に浮かぶだけで、それが、どんな香りの種類かも知らなかった。それに「源氏物語」に描かれていた時代とは、どうやらお香は変わってきているらしいので、何にも分からないままだった。
お香の専門店が、銀座にあるのは分かった。とても乏しい知識だけど、「銀座」と「お香」と、二つの要素が揃えば、なんだか凄そうなので、何かの用事の時に寄った。
店の中には、知らない言葉だけが並んでいる印象だった。
日常的に使うような線香が「白檀」だというのは分かった。
そして、これも大雑把な認識だけど、その希少さも含めてランキングをつけるとすれば「白檀」の上が「沈香」。さらにトップクラスのものが「伽羅」らしいと、スタッフの方が親切に教えてくれたことで、初めて知った。
そこで、もちろん香りを確認をしたけれど、自分が思っている「すごくいい香り」とは隔たりがあった。乏しい自分の認識だと、「いい香り」は、香水に限られていて、それは西洋由来だから、すでに東洋発祥の「沈香」や「伽羅」の価値が分からなくなっているのかもしれなかった。
沈香
そして、恥ずかしいことに読み方も分からなかった。「伽羅」は「きゃら」というのは分かったが、「沈香」は、最初「ちんこう」だと思い込んでいて、何度も使ったことがあるし、人前でもその発音をしたことがある。
しばらく経ってから、「じんこう」と呼ぶのを知って、過去の自分の愚かさも知って、恥ずかしくもなった。
東大寺
銀座のお香専門店で、迷ったけれど、おそらく2度と買わない可能性も高いので、思い切って、「伽羅」を買うことにした。
とても小さい蚊取り線香型で、10巻入っているコンパクトなシリーズにしたのは、自分にとっての経済的な力の限界があったせいだけど、それでもその中では最も高額で、一箱5000円した。
自分としては思い切ったのだけど、その分、期待も高まる。
買う前に香りをかいで、慣れていないせいもあって、その値段の価値もわからなかったのだけど、その時にお香をたてる小さい容器と、そこに敷く灰も購入したので、火をつけると違うはずだ、と思いながら、帰宅した。
火をつけたら、浮かんだのは、修学旅行でいった大きなお寺の光景だった。
確か、東大寺だったと思う。
記憶の再生と匂いが強く関係しているということ。大きなお寺は、「いいお香」を使っていること。
その二つが確認できたような気がした。
記憶
しばらく、家の中で「お香」をたく生活が続いたけれど、やはり、それだけのお金を使う余裕もなかったし、「香り」を書くのは、やっぱり難しくて、東大寺の光景が思い出された、みたいなことしか表現できず、そのうちに飽きてしまい、お香をたくための小さい器具も、灰も、どこかへ行ってしまった。
それでも、「お香」と聞くと、今でも「沈香」と「伽羅」という言葉はすぐに思い出すし、「伽羅」は確かマレーシアなどでごく少量しか手に入らなくなっているから、今では、もっと値段が上がっているのかもしれない、といったことも、反射的に思う。
「伽羅」の香りは、自分にとっては、東大寺の記憶だけではなくなったようだ。
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