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どうして、「昔のこと」について、歳を重ねるほど、「細かい違い」が気になってくるのだろう。

 音楽について、啓蒙にも、つながるような番組があった。

 森山直太朗と、高山一美が司会で、音楽の歴史を「卒業」をテーマに振り返り、語り合っていて、それぞれの視点も新鮮だった。

尾崎豊「卒業」

 その中で、尾崎豊の「卒業」についての話題になった。

 その歌がなぜヒットしたのか、について、出演者たちは話をして、それもかなり興味深い内容だったけれど、その中で、ウォークマンについても触れていた。

パーソナル

 そして、尾崎豊のパーソナルな内容が受けいれられたのは、「ウォークマンとか出てきた時代」だから、そのことと、関係があるのではないか、という話にもなった。

 その話自体に説得力もあったのだけど、そこで、細かいことなのだけど、ちょっと違うのではないかと感じたことがあった。

 尾崎豊の「卒業」が1985年で、確かに、そのヒットは、「ウォークマン」を使用していると、耳元で歌うから、よりパーソナルなことが伝わる、という理由はあったかもしれないけれど、「ウォークマンとか出てきた時代」と表現されたことに、違和感があった。

ウォークマン

 年表によると、初代ウォークマンは、1979年に発売されている。

 そのことを、はっきりと覚えているのは、個人的な記憶と結びついているからだった。

 その年、同年代の友人と、バスの中で久しぶりに会った時に、小さなヘッドフォンをしていて、それが、ウォークマンだった。そして、それを見せてくれた。

 録音機能がない、再生だけの機械。それを聞いた時には、自分は買わないと思ったのだけど、もっと音楽が生活必需品で、外出先でも聞いていたいと思って、あとは、ある程度の収入があって、初めて手に入るものだった。

初めて販売された1979年当時から世界を席巻し、今なおファンの多いソニーの看板商品とも言えるウォークマンですが、初代の売り出し価格はなんと33,000円!
当時の大卒初任給がおよそ10万円であることを考えると、とても高価な商品だったと言えます。

 それを考えると、その友人はいろいろな意味で豊かだったのか、それとも、アルバイトをして買ったのか、事情は詳しくは聞けず、(当時は、学生だった)分からなかったものの、瞬間的に文化資本の圧倒的な差を思い知らされた気になったのは、覚えている。

 それから6年後が、尾崎豊が「卒業」を発表した1985年だから、ウォークマンの普及率の詳細は分からないにしても、その時代を知っている人間の印象としては、「ウォークマンとか出てきた」という表現は違っているのではないか、と思ってしまう。すでに「出てきた」ではなく「定着」した、という印象だったからだ。

違和感を伝えたい気持ち

 その番組の視点に異議を唱えたいわけではない。そして、本当の「歴史」はこうだと主張したいのでもない。

 1985年は、「ウォークマンが出てきた」のではなく、すでに「定着した」時代だと言いたいだけで、だけど、次からは、必ず、言い直させたいという気持ちまではない。

 バブルの時代の語り方なども、自分が知っていた場所とはあまりにも違っていたりするし、その時代を生きていて、記憶に残っていたりすると、自分の印象自体が、実は、マイナーだったり、特殊だったり、もしかしたら、間違っている可能性さえあるのに、どうして、それは違う、と思うのだろうか。

 それは、おそらくは、自分が見てきたこと、聞いてきたことが、他の人の発言によって、無かったことになってしまうのではないか。もしくは、こちらが言っていることが間違っている、と言ったような見られ方をされてしまうのではないか。

 そんな恐怖心のようなものから、反射的に言葉を伝えたいと思うのかもしれない。そのことによって、歴史の見方や、その時代の事実には、いろいろあることを、証明してみせたくなってしまうのかもしれない。

 そんなことをしても意味がないことが多いのに、そういう細かい違いが、気になってしまうことは、これから、さらに生きていき、過去の出来事が増えて、しかも、遠くなっていくに従って、もっと多くなってしまうのだろうか。

 もしくは、自分がもっと若い頃、自分が直接は知らない過去の話をしたときに、どんなふうに話したとしても、こんなふうな違和感を持つ年長者はいて、その頃は、そのことに気がついていなかっただけなのかもしれない。

 だから、年齢を重ねるほど、昔の話をするのは、ただなつかしい、とか、自慢とか、自分の過去の栄光のことを言いたいだけではなく、自分が見てきた「歴史の小さい事実」について、伝えておきたい切実な気持ちが働いているのかもしれない。そんなことを想像できるようになったのは、それだけ、自分の年齢が高くなったのだと思う。

自分だけの歴史

WM-FX200
2000年(平成12年)10月21日発売。単3乾電池2本駆動。AM・FM・TV(VHF)の3バンドシンセチューナーラジオを搭載。本体内部が見える「スケルトン」構造であった。

 自分の手元にかろうじて残っていたウォークマンは、すでに動かないものの、スケルトン構造で、2000年の発売だった。

 自分の記憶では、もっと昔に購入していたと思っていたが、その印象よりは、新しいもので、しかもスケルトン構造は、この少し前に華々しくデビューしたiMac(1998年発売)に影響を受けていることも明白だから、あれだけ、「新しい」印象だったソニー製品が、「新しさ」を失なっていく時代の象徴なのかもしれない。

 それが決定的になるのは、このウォークマンが発売された翌年、2001年にiPodが登場したからだけど、そんなふうに考えると、歴史は、どうやって見るかで印象が本当に変わっていくのだと改めて思った。


 どの人にも、自分だけの歴史があるのかもしれない。
(似たセリフをドラマで聞いた)。




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