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「舘ひろしの30年」を勝手に振り返って思うこと。

 映画「あぶない刑事」の最新作は、2024年になって公開された。

 主役は舘ひろしと柴田恭兵。

 最初は、タイトルに「さらば」がついている映画が2016年にあって、その時の設定が2人の刑事が定年間近という設定もあって、これで完全に終わりだと思っていたし、主演の二人が70歳を越えているのだから、もう無理だと思っていたのに、どうやら映画はヒットしているらしい。

 その作品を見ていないから、何かを言える資格はないのかもしれないけれど、その映画に関してなのか、ドラマ以外でも見かけることが増えた舘ひろしを見ていて、いろいろなことを思った。


西部警察

 最初に、舘ひろしを意識したのが、「西部警察」というドラマだった。1970年代の終わりから1980年代まで放送されていたはずだった。

 刑事ドラマとは思えないほど、毎回のように激しい爆発がある内容だったのだけど、その中でバイクを乗り回し、事件があると、すぐに突入したがる勢いのある若い刑事役で、視聴者の印象としては、現場の責任者の渡哲也に「突っ込みましょう」と性急な解決を求める人に見えていた。

 「クールス」というバイクチーム出身であり、かなり荒っぽいイメージがあって、だけど、考えたら、こうしてドラマを振り返ったときに、他にも人気俳優が出演していたのに、舘ひろしの演技は、細部は違っているかもしれないけれど、すぐに思い出せるというのは、それだけ印象が強かった、ということなのだろう。

 ただ、雑誌のインタビューなどで接する舘ひろしは、他の俳優もそうした要素が強いはずだけど、かなりナルシシズムを感じるし、常にスーツを着こなしている様子は、今はあまり使わなくなった表現だけど「キザ」であって、私のようにひっそりと生きている男子からは、それほどいい印象がなかったとは思う。

 とにかく味付けが濃すぎるような存在に見えていた。

刑事ドラマ

 どうして「刑事ドラマ」が人気があるのか。

 そういう理由をきちんと理解もしていないし、有名なドラマだけでも、戦後史のようになってしまうから、とても全部を語れるわけもないのだけど、自分自身が知っているのは「太陽にほえろ」からだった。

 石原裕次郎が、捜査第一係長を演じていた。係長、とは思えないような貫禄があって、子どもでも、誰だかわからないけれど、なんだかすごい、という存在だったし、「ボス」がいなければ、確かにこのドラマの印象は全く違っていたと思う。

 私だけではなく、特に男子はこのドラマを熱心に見ていて、学生時代のサッカー部の合宿中、朝から晩までやたらと練習し、ずっと筋肉痛で、眠れる時は少しでも寝ていたい時でも、旅館のテレビのある部屋に他の部員も集まって「太陽にほえろ!」を見ていたのは覚えている。

 家庭では、石原裕次郎について、それほど芸能人に詳しくなかった母親でも、日本人なのにとても足が長い人、という表現をしていたが、それは、「ボス」を演じる前に、スタートして大げさではなく日本中から人気があったスターの頃の印象なのだろう。それは21世紀に、顔が小さいことに価値があるように思われているように、昭和には「足が長いこと」が魅力的に思われていたことも表している。

 だけど、そうした過去の印象を知らなくても、「太陽にほえろ!」は人気があったし、10年以上続いた長寿のドラマにもなったから、テレビドラマの歴史を振り返るときには欠かせない存在だったと思う。

 そのためか、他にも多くの刑事ドラマが制作され、「西部警察」も「大都会」にも石原裕次郎は企画から関わり続けていたので、刑事ドラマは、完全にテレビドラマの一つのジャンルになった印象だった。

 そして、多くは捜査第一係、といったチームで事件解決にあたり、その1話ごとに一人の刑事にスポットライトがあたり、ドラマが進んでいく。だから、刑事ドラマ出身で人気が出た俳優も多くいた。

 そうしたドラマのオープニングや劇中の曲も、金管楽器なども多く使ったものだったのだけど、それも一緒に記憶している。

あぶない刑事

 フィクションとはいえ、基本的に犯罪が行われているから、シリアスなトーンでドラマは進んでいくのだけど、そうした中で、かなりコミカルな展開があった刑事ドラマが「噂の刑事 トミーとマツ」だった。

 1979年10月~81年3月までTBS系で放映された大映ドラマ製作のコミカルな大ヒット刑事ドラマ。
 やり手婦人警官の姉(志穂美悦子)を持つ刑事の岡野富夫ことトミー(国広富之)は、気が弱く、極度の高所恐怖症のダメ警官。先輩刑事の松山進ことマツ(松崎しげる)は型破りな熱血キャラだが、トミーと同じくドジばかりしている。しかし、“男女のトミコ”と言われると、いきなり逆ギレしてスーパーマンも真っ青の強者に変身! 悪者をバッタバッタと倒してしまう。

(商品紹介より)

 主演の一人である国広富之は、細身でイケメンという設定だが、弱気の人でもあって、だから「男女のトミコ」などと言われると急に強くなるという設定も、かなり突飛なことなので、当時は笑って見ていたけれど、今ではとても放送できない表現だと思う。

 それでも、これまでチームで事件を解決してきたスタイルではなく、二人組が主役になる、いわゆる「バディもの」としては新しく、そして、それを踏襲し、さらに成功させたのが『あぶない刑事』だったと思う。

 このドラマが始まったのが1986年だから、バブル前夜。社会がやや浮かれ始めた頃に、舘ひろしと柴田恭兵の二人が、刑事として「おしゃれ」に活躍する、という言われ方をされていて、確かにそんな印象が強かった。

 舘ひろしと柴田恭兵が、おそらくは意識して「キザ」に振る舞い、二人でジョークを連発し、銃を撃つ。絶対にそういう刑事はいるわけもないけれど、ドラマとしては安心して見られた印象がある。

 「西部警察」ではやや浮いていたように思える舘ひろしが、さらに「キザ」に振る舞う柴田恭兵と二人で動くことで、違和感が減ったし、フィクション感が強いドラマを支えているように感じていた。

 不思議なことに、この『あぶない刑事』を母親もよく見ていた。

 それは、自分たちが住んでいる横浜が舞台になっていて、横浜駅のダイヤモンド地下街を二人が走り回ったり、その当時は廃墟のようになっていた赤レンガ倉庫で銃撃戦を繰り広げていたから、なじみ感が強かったのと、やはり、娯楽に徹しているつくりが楽しかったせいかもしれない。

 ただ、それでも、舘ひろしの一種の存在のくどさのようなものは気になっていたし、その後の映画になった『あぶない刑事』のシリーズも見に行くことはなかった。

舘ひろしの30年

 石原裕次郎が亡くなり、渡哲也もこの世を去り、昭和の芸能界の気配が強く見えていた石原プロモーションも解散した。

 時代は変わっていくし、大スターとして知っている人も次々と亡くなっていく。そんなことを思うようになったのは、ただの視聴者として見てきた自分自身が歳をとった、ということなのだろうけれど、芸能界という場所には次々と若く新しい人が入ってくるから、少しでも歳を重ねると、あれだけ人気があったのに、という人でもあっという間に姿を見なくなってしまうのはわかるから、長く活躍しているだけで、運も含めて様々なことに恵まれた上に、本人の努力や工夫もすごいのだろうと想像ができる。

 そんなことを思いながらも、2020年代になってテレビドラマで舘ひろしを見かけることが増えてきたような気がしていた。『あぶない刑事』の最初からは、2020年代に入って、すでに40年近く経っていて、本人も70歳を超えているのだけど、画面を通して見ただけだけど、その印象の変わらなさは、やっぱりすごいと思うようになった。

 以前は、くどすぎるのでは、と思っていた気配も、年齢を重ねて、自然と力みのようなものが抜け落ちて、相変わらず「キザ」な(今、こういう形容詞が似合う人も少なくなったが)雰囲気を保ちながらも、それが、今の年齢とちょうどよくフィットしているように見えた。

 そして、歳を重ねているけれど、決して「おじいさん」役をしていない。そういう意味では吉永小百合と似ているポジションなのかもしれない。

 歳をとって、過剰なエネルギーが減少することで、ただ画面にいることで何かを伝えてくれる(それはもしかしたら昔の気配かもしれないが)存在になるとは思わなかった。

 それは、同世代の人たちが変わっていく中で、変わらないことがどれだけ大変かと想像するけれど、舘ひろしがこうした他に代え難い俳優になるのは失礼だけど、意外だった。

 長い時間や老いを味方につけることも可能であることを、教えてもらったような気もしていたから、それは希望といってもいいようなものだと思う。

 だけど、本人はそんなことを気にしてはいなくて、ずっと舘ひろしのまま、だけなのかもしれない。

帰ってきたあぶない刑事

 そんなことを勝手に思っている頃に、映画が公開された。

 何年か前に「さらば」というタイトルだったから、終わりだと思っていたのに、また新しい映画が始まった。しかも、刑事ドラマではしばしば主役の年齢が無視されるように、定年を過ぎても警察組織内にいることが少なくないのだけど、この「帰ってきた」では、すでに警察を退職し、探偵になった、という設定のようだ。

 そのあたりは、真面目なのかもしれない。

 興行収入も好調と言われ、その一方でシニア層が観客の中心とも分析され、それでも、70代の2人が主役で、60代の浅野温子が独特のヒロインのままで、50代でベテランと言われるようになった中村トオルが、この二人の前では「若手」といった不思議な世界のようだけど、それでも、評判がいいらしい。

 私自身は見ていないので、それほど詳細に語れる資格も能力もないのだけど、その予告編動画を見ただけで、老いているのはわかるけれど、でも、無理をしないようにやるべき無茶をしていて、その姿はなんだか魅力的に映っている。

 人によってピークの時期が違う。

 失礼かもしれないけれど、舘ひろしが歳を重ねてから、こうして、またピークのような時期を迎えるとは思ってもいなかった。

 シニアの観客が多いのは、やっぱり彼らの姿が励みにもなるからだと思うし、こうして自分たちよりも年齢を重ねた人が好評価を得ているのは、ずっとファンでもなかった人間が言う資格はないのかもしれないが、やっぱり希望につながるような気がする。 



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