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ラジオの記憶⑲「伊集院光とらじおと」最終回。

 始まった時のことは覚えている。

 これから、伊集院光は、ラジオの顔として、70歳でも80歳でも、この番組を続けていくのでないか、と思っていた。「ラジオ」というジャンルを支え続けていく一人であり続ける決意と覚悟を持って、朝の帯番組を始めたと思っていた。

パワハラ報道

 それが急に風向きが変わったのが、2021年のことだった。

 そういえば、元の記事を読んだことがないから、語る資格もないのだけど、それでも、「伊集院にパワハラ疑惑」という報道が出たということも、それを伊集院本人が否定したことも、知っている。

 それだけ、あちこちに、この情報が広がったのだと思う。

 詳細は分からないし、組織の中の話になると、本当のことは、おそらくはほぼ永遠に分からないのだろうけど、番組内のことが、週刊誌に出たら、もし、自分がその番組の出演者だとすれば、次もあるかもしれない、と思ってしまうだろう。それが、本当のことがどうか検討される前に「そういう報道が出た」という「事実」が意味を持ってしまうことを、マスメディアの現場にいるのであれば、知っているはずだ。

 そして、この報道に対して、TB Sラジオが「公式」に何かしらのコメントを出したという話は、聞いたことがない。

 その報道が、今回の降板につながるきっかけを作ったのは、間違いないと思う。もしも、他の理由があったとしても、このことから起こった様々な動きが、やめることへ背中を押したのだと、ただの、それほど熱心でないラジオリスナーでも思う。

「伊集院光とらじおと」

 私自身は、こうした記事↑も書いているので、熱心でないとはいっても、世の中の人間を大きく2つに分けるとすれば、明らかに「伊集院派」の人間だと思う。

 朝の番組は、そんなに聴いていなくて、それでも、2022年の3月で終わるという意識は、どこかで持っていて、最後の週は聞こうと思っていたのに、3月末だから、勝手に「最終回は、4月1日では」と思い込みすぎて、情けないことに、3月26日の最終回を聞き逃していた。

 今は、「ラジコ」という有難いサービスがあるので、その「最終回」を聞くことができた。すでに、放送は終わり、特に最後のあいさつのようなものは、嫌でも目に入っていたから、純粋に、次が分からない状態で聞くことはできなかったから、自分の落ち度だけど、ちょっと残念だった。

最終回の内容

(以下は、ラジコを聴いて、自分でまとめたものなので、詳細は違うかもしれませんが、ご了承ください)。

「最終回だよ、最終回」
 そんな言葉と、あとは、この心境を「変な感じ、変にテンション高くて、緊張したり、お調子者のおじさんの葬式みたい」と伊集院が表現して、たぶん、こういう言い方をした人は、今までいないのだろう、などと思う。

 そして、6年間の思い出を振り返るコーナーのようなものになり、伊集院が「表現」に関して、ということで、忘れられない、あるリスナーからのメールを紹介した。

 その「あらすじ」は、こんな内容だった、という。

 雨が降っていて、外を見ていた。広いグランドのような場所。隅っこから、大きな蛇が現れた。そうすると、その全く逆方向から大きな蛇が出てきた。両者が進んで、正面から、ぶつかると思ったら、上手にすれ違って、何これ?と思っていたら、隣に上司が、いつの間にか立っていて、「主だよ」と言って、去っていく。

 ただ、それだけの内容で、また、一見、蛇という言葉が多かったり、無駄な表現も多いのだけど、でも、少しでも切ってしまうと味がなくなる。こうした文章に接すると、上手なおしゃべりとか、うまい文章ってなんだろう、と思ったりしますね。

 そんな伊集院の感想を聞いていて、これは、深夜のラジオを聞いている時に感じる感触と近くて、とても、分かるような気もするものの、これは、何か作業をしながら聞くというよりは、つい手を止めて聞くための話ではないか、と思ってしまう。それは、さりげなく、すごいことを言っている、と感じ、自分でも考えたくなってしまうからだ。

自由律俳句

 朝の8時半から、午前11時まで、フルで聞いたことは一度もなかったから、改めて、本当に何かを語る資格はないだけど、それでも、最終回だけでも、色々と思うことがあった。

 例えば、「自由律俳句」のコーナー。

 ラジオでは、川柳や、俳句などをリスナーが応募するというパターンは、他の場所でも知っていて、それは個人的な偏見かもしれないけれど、どうしても、サラリーマン川柳、のような「ほっこり」や「うっかり」といったことをイメージしてしまい、このコーナーも素通りしてしまっていた。

 今回は、最終回なので、他の曜日のパートナーも参加し、リスナーから寄せられた「自由律俳句」から、それぞれがセレクトする、ということになっていたようだ。

「流した涙を吸うマスク」
 
「往復、向かい風って」

「ついて、すぐに土産を買う」

「ピザはLサイズ。飲み物はダイエットコーラ」。

「隣の芝生も、薄茶色」

 そして、最後は伊集院が選んだ「自由律俳句」。

「もうないところが、かゆい」

「一人だけウェットで、ごめんね」と言いながら、その句のことを伊集院は、話した。

 これは、医学的なことだったりもするのだろうけど、来週から、自分がこうなるんじゃないかな、と思っている。このコーナーは、もっとこうすれば面白いのではないか。この人に、このことを伝えた方がいいのではないか。そんなことを、もう番組は終わっているのに、考えてしまうのではないか。そう思って選んだことを、伊集院は話していた。

「咳をしても一人」

 ここまで聞いて、どこかで、この自由律俳句が伝えるようなことまで、このコーナーで目指していた可能性はないだろうか、と思ってしまった。

 もしそうであれば、このコーナーは、一種の「啓蒙的」なものになり、それはすごいことでもあるのだけど、気楽に聞けるラジオと思っているリスナー(もしくは、それを目指すスタッフ)からは、敬遠されてしまうかもしれないと感じた。

ゲストは「伊集院光」

 午前10時からは、ゲストのコーナー。いつもと違い、最終回は、伊集院光自身がゲストとなり、アナウンサーが話を聞くという形になっていた。

 いくつか印象に残るやりとりがあった。

「いつぼーっとするのか?」と聞かれて、「それが弱点だけど」という前置きをして、「ラジオのことを考えてる。ずっと」という答えを語っている。

 それは、プロの姿勢だとは思う。だけど、そこを共有できる人も少ないとは感じる。

「いいラジオ」

 そして、「いいラジオ」という質問に対しては、微妙に言葉が重くなりながらも、できるだけ正確に誠実に答えようとしていたように聞こえる。


 自分が面白いと思っている理想は、人とは違う。かなり違う。

 自分が、ここまでやらないと意味ない。と思っていたことが、自分だけだったのではないか、とも思う。

 来週からの向のラジオも、いいラジオだと思う。うるさいラジオが終わって、普通に聴けるラジオが始まった、と思う人がいるはず。

 もっと色々なことを詰め込みたい。だけど、それが他の人が求めているものではない。自分が、いいラジオ、と思っていることが、人とは違うことに気がつくべきだし、やっと気がついた、と思う。

 
 伊集院は、そんなふうに語っていたが、これだけ考えている人と、同じように目標を見ることができる人は、プロの中でも、そう簡単にいないし、大げさに言えば、聞いた後に、世界が違って見えるようなラジオを目指していたのではないか、とも思った。

 この求めているものの違いによって生じるズレが、結局、うまらなかったのかもしれない。

いいお客

 そのコーナーの後にラジオショッピングの時間があって、その最後に、伊集院が、わざとらしくならないように、でも、なるべく正確に伝えようとしていたのは、こんな内容だった。

 いつも、不安だった。おためごかしになるのでは、と。だけど、いつも、本当に美味しいと思えるものを揃えてくれて、感謝しています。


 番組の、本当の最後の方で、とても嬉しかったこととして、「二人会」の時に、師匠・三遊亭円楽から、かけられた言葉をあげている。

「お前、いいお客さんがついているな。言葉の芸術を、これだけ理解できるお客さんが集まることは、お前よかったな。ラジオやったおかげで、これだけのお客さんついてるぞ」。

 そう言われて、その誇らしさ、ということを、伊集院は語っていて、それは、同時に、その「ラジオのお客さん」について考えてしまうことだった。

 確か、この「二人会」のことも、三遊亭円楽が「伊集院光とらじおと」のゲストとして登場した時の約束のはずだったのだけど、落語を言葉の芸術としてとらえて、「いいお客」として存分に味わい、楽しめるのは、おそらくは蓄積がいるはずで、それができるラジオのリスナーは、かなり水準が高くなってしまうのではないか。そして、もちろん、そのリスナーが推す事になるラジオ番組の質も、かなり高いものになると思う。

 そして、「二人会」で、リスナーに対して、誇らしさを感じてしまったラジオパーソナリティとしての伊集院光は、その質を下げることは、もう出来ないのではないか。

 そんなことを、改めて思った。





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