電車の座席で、上を向いて、口を開けて寝ている人は、いい人に見える。
東京・表参道。
おしゃれな街。
地下鉄を降りて、外へ出ると、個人的には、その通りによってはおしゃれすぎて、異世界に来たような気持ちがいまだにして、ちょっと気後れまでする。
東横線の渋谷駅がかわってしまってから、なるべく使わないようにしたけれど、そこから地下鉄に乗って表参道に行く場合は、半蔵門線を使うことが多くなったのは、それが乗り換える時間がもっとも短くてすむからだった。
それでも、東横線を降りて、少し高速のエスカレーターに乗って、地下鉄に乗るまで、どのルートを通っていいのか、ちょっと迷うことさえある。
東京都内に住んで30年は経つけれど、西のはずれに住み続けていることもあって、まだ東京に慣れていない。
上を向いて寝ている人
だから微妙な緊張感のまま東横線を渋谷駅で降りて、やや小走りの移動で半蔵門線に乗り換える。押上行きの表示を見て、その地下鉄の車両に乗る。出発すれば、表参道まで3分くらい。
昔、知っている人と住んでいる街の話になり、その女性は、表参道と答えてくれたのだけど、表参道の価値がわかっていなかったので、あいまいな反応しかできないことが、なんとなく申し訳なかったこと。そのときは東京都内の大学に通っていたのに、そして、東横線沿線の学校に毎日のように通学していたのに、どれだけ無知なのか、そんなことを思い出すと恥ずかしい。
そういえば、同じ頃、いつも使っていない路線だと、五反田さえ、どうやって行ったらいいのかを、そこで待ち合わせを約束した人に聞いたこともあって、ただ都会に慣れていないだけでなくて、何かの能力に決定的に欠けていた自分を自覚する。
都心に来ると、そんなことをたまに思い出すのだけど、表参道に着いて、そこで降りるから、車両の出口に向かって歩く。
横に長い座席の一番隅に、若い女性が座っている。
その人は、背もたれに深く背中をあずけ、顔を上に向けて、口が開いているのがはっきりわかる程度に、口を開けて、寝ていた。
ほんの数秒しか見ていないし、あまり見てはいけないとは思いつつも、その表情がちょっと笑っているように思えるくらい、完全にリラックスして見えた。
それだけ眠っているのは、今は夕方だから、ここに来るまでにとても疲れることがあって、つい眠ってしまったのかもしれないから、勝手な推測をするのは失礼だとは思いながらも、こうして上を向いて、口を開けて、眠っている人は、無防備すぎて大丈夫だろうかと感じながらも、いい人に思えてしまう。
頭をぶつける人
電車の中で眠る習慣がある国は珍しい、らしい。
国によっては治安がよろしくないので、そんなことをしていたら、何かを盗まれたりするから、といった話をどこかで読んだか、聞いた記憶はあるが、それでも、そんなふうに寝ても大丈夫な安全性があるのは、ありがたいことだとは思う。
最近、交通機関であまり寝なくなったのは、外出する機会が減って、慣れがないから、やはり微妙に緊張しているせいだと思うけれど、それでもふと眠ることはあって、そういう場合は、はっと起きた時に、乗り過ごしたのではないか、と焦るけれど、たいていは、2駅ほどしか乗っていない。
それとは別に、確か地下鉄でのことなのだけど、座席に座って眠っている女性がいた。
首の揺れが大きい。
前に大きくうなずくように首をおり、そのあとに後ろにのけぞる。
その振れ幅が、電車の揺れと共振したのか分からないが、少しずつ大きくなり、後ろにあるガラス窓に頭がぶつかるようになった。
そのくらいのことならば、よくある光景の一つだったのだけど、そのときは、さらに頭の振り幅が大きくなった。
ゴン。
ゴン。
その音が何度かにいっぺん、すごく大きくなり、もちろんその程度で割れるわけはないのだけど、ガラス窓が破壊されるかも、というようなニュアンスがあるほど、思い切った大きな音だった。
少なくとも、あまり続けると、頭にダメージが出てしまうのではないか、ととても勝手で迷惑な思いだけど、これほどの大きな音を立てている人は、それまで見たことがなかった。
だから、ゴンという音が大きく、しかも、連続で何度も続くようだったら、気持ち悪いかもしれないけれど、声をかけようかどうしようか迷っていると、時々、音がしなかったり、小さかったり、起きるかも、というようになったので、少し安心していると、またゴンという怖い音が響いて、を繰り返して、こちらがためらっているうちに、私自身が目的の駅についてしまった。
大丈夫だとは思うけれど、いろいろな眠り方があるのは、わからされた。
電車で眠るということ
一番、電車の中で日常的に眠っていたのは、学生時代かもしれない。
車両に乗って、座れると、降りる駅までの時間がわかっているから、あと30分眠れると思って、寝ようと思う前に眠れた。
それほど睡眠不足でもないのに、眠かった。
それに通学で電車を使っていたから、その車両や路線になじみがあって、そのために緊張感も薄く、それで余計に眠れたのだと思う。
だから、電車の中で眠っている人を見ると、その眠る姿で、勝手にすごく疲れているのでは、とか、上を向いて、ちょっと笑っているように、口を開けて眠っている人を見ると、やっぱりちょっと幸せそうに見えてしまったり、だけど、同じように口を開けても、疲れ切って、眠らざるを得ないのかもと思える人もいる。
もし、誰も電車で眠らない日が来るとすれば、それは、誰もが睡眠を十分にとれるのか、それとも電車の中が安全でないときなのか、と思うけれど、今のところ、あまりいい方の想像ができない。
上を向いて口を開けて眠って、リラックスしているように思える人が、いい人に見えるのは、とても勝手な思い込みだけど、それが現時点での平和の象徴みたいに思えるからかもしれない。
#最近の学び #電車 #睡眠 #口を開けて眠っている人 #座席 #いい人
#考えてること #今月の振り返り #出来事 #日常 #生活 #駅
#毎日投稿
記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。