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言葉を考える①「ファーストフード」と「ファストフード」

 もう10年ほど前に、「ファーストフード」ではなく「ファストフード」と使った方が厳密には正しい、といったことを聞いたことがありました。

それは「fast food」、つまりは素早くできる、といった意味の飲食店だから、「ファースト」という言葉を使うと「first」という意味にとられてしまう可能性も出てくる。そうなると、飛行機の「ファーストクラス」と同様に、「第一の」といった意味で、場合によっては、高級な飲食店といった意味にもなってしまう。

 といったことなので、厳密にいえば、確かにそうだと思いました。英語の発音でいうと、「ファースト」でも「ファスト」でも同じといったことを聞いたこともありますが、そこで、微妙にひっかかったのは、自分自身の「ファーストフード」への意識の問題だと思え、だから、頭では「ファストフード」のほうが誤解なく正しく伝わりやすい、と思ったのですが、抵抗感がありました。「ファストフード」と使うのは、おおげさにいえば、なにかを裏切ってしまうような気持ちでした。


「ファーストフード」の記憶

 その抵抗感は、自分の、これまでの「ファーストフード」への記憶に関係があるみたいでした。
 
 いつから、普通に「ファーストフード」という言葉を使い出したのかは、はっきりとは覚えていませんが、それは、ハンバーガーショップが出てきてから、だと思います。

 ただ、その段階で、すでに微妙な感覚になるのは、ハンバーガーの王道といえば、マクドナルドのはずですが、私が最初に食べたのはドムドムバーガーでした。それでも、家で母親が作ってくれるハンバーグとは違い、こんなに薄く作れるんだといった驚きと新鮮さで、うれしかったのですが、地元のドムドムバーガーには失礼ですが、「その上に」マクドナルドがあると思っていて、だから、もっとおいしいのではないか、という根拠の薄い思い込みがありました。たぶん、マクドナルド を食べたのは、それから1年以上あとだったと思います。

 だから、ハンバーガーの中では、マクドナルド が、第一の、という意味での「ファースト」という意識が、知らないうちに身についてしまっていました。その後は、モスバーガーなど「別枠」のハンバーガーも登場するので、ややこしくなるのですが、今回は、マクドナルドの話に絞りたいと思います。

日本マクドナルドの戦略

 実は、歴史としてはドムドムバーガーの方が早いと、恥ずかしながら、今回、初めて知ったのですが、マクドナルドが「上」と思ってしまっていたのは、日本マクドナルドの戦略に子供も乗せられていた、ということなのだろうと、今なら思います。
 
 マクドナルドは、日本では最初の店舗を、1971年に、銀座の三越に出店しました。銀座、という名前が、今よりも輝いていた時代で、銀座=高級というイメージは圧倒的でしたので、マクドナルドは高級なんだ、と思っていました。当時は、実際に値段も高かったと思います。

 今振り返ると、よく銀座の三越に出店した、と思うのですが、日本マクドナルドの初代社長は、ビジネスの世界でも、とても有名で、いろいろな発言をしているので、私のように、そんなに関心がなくても、本当は「マクダーナルズ」という名前を、日本人にはなじめないからという理由で、アメリカ本社の反対を押し切って「マクドナルド」表記にした、といったエピソードも知っていました。

 そうしたこともマクドナルドのイメージを強くしていったと思います。「ファーストフード」の王道のマクドナルドが、特に日本では複雑なニュアンスをまとっていることも、「ファースト」の意味合いが、多少揺さぶられているように思っています。


 それから年月がたち、「サンキューセット」は、ハンバーガーとポテトとドリンク(S)で、390円の頃には、さすがに「高級」というイメージはなくなっていました。そして、多分、その頃から、フライドチキンやドーナツなど、いろいろな「ファーストフード」チェーン店が、どこに行ってもあるようになって、「ファーストフード」という言葉も定着してきたと思います。

 同時に、国内にあった牛丼屋も、早い、安い、というイメージとともに、「ファーストフード」の仲間として、見られるようになってきたと思います。

 1人で外食の時は、「ファーストフード」をよく使うようになり、値段も安くて、助かっています。ただ、それだけでなく、マクドナルドが輝かしく見えていたような、子供の頃の思い出も、どこかでわずかに残っているようで、「ファースト」の意味の中に、ただ「早い」というだけでなく、「第一の」というイメージを、個人的に、とても微妙ですが、感じることもあります。

さらに違う「ファスト」の登場

 そういった頃に「ファストフード」という言葉を聞いて、それは、英語の発音的には、「ファースト」よりも誤解を生みにくいということで、正しいのですが、どこか「頭がよさそう」に感じて抵抗感があるのは、自分の卑屈さが生んでいる印象だと思っています。

 ただ、それに加えて、抵抗感を増やしていたのは、「ファーストフード」という言い方になじみがあり、そこには、とても微妙なあこがれの思い出が残っていた、ということも、こうして考えると明らかになったように思います。

 さらには、「ファストフード」という言い方は、「マクドナルド」ではなく「マクダーナルズ」に近い響きがあって、自分からは、少し遠いように感じていたことも、分かったように思っています。それは、完全に個人的な感覚ですが、それに加えて、自分としては新しい「ファスト」を知ることで、混乱を招くようになりました。

 「ファスティング」という言葉が「ダイエット」とセットでよく見かけるようになりました。この場合の「ファスト」は「断食」という意味合いで、そのイメージが、少しでも浮かんでしまうと、「ファストフード」が、違うのはわかっていても、断食のイメージと、自分の中で結びついてしまい、余計に「ファストフード」という言葉が使いにくくなりました。

 そんなことで、おそらくこれからも「ファストフード」ではなく「ファーストフード」の方を使ったほうが、言葉が通っていく時の、口触りみたいなことも含めて、抵抗感が少なく、自分の中で自然なので、個人的なことですが、「ファーストフード」を、使っていくと思います。

 ただ、情けないことに、他のほとんどの人が、「ファストフード」と使うようになり、「ファーストフード」と言うと、変な意味で注目をされるようになったら、そういう圧力に負けて、「ファストフード」という言葉を使っているかもしれません。

これからの「ファーストフード」との距離感

 そして、自分にとっても、今、食事としてマクドナルドに行くことは少なくなりました。ハンバーガーやフライドチキンなどではなく、どちらかといえば、牛丼屋のチェーン店で、1人の外食をすることのほうが多くなったので、今は「ファーストフード」は、個人的には牛丼屋を利用することが圧倒的になってしまいました。

 しかも、コロナ禍以来、外食自体を避けるようになっています。時々、外からみる牛丼屋は、席を減らしていましたし、この前入ったマクドナルドでは、一つおきにイスに「使用中止」といった表示があり、ソーシャルディスタンスを意識した変化がありました。

 昨年まで、マクドナルド を一番使う時は、寒い季節になって「チョコパイ」が出てきた時でした。仕事などが終わって、チョコパイを買って、帰りの電車内で食べて、コーヒーを飲んだりしていました。パイなので、床や周囲に散らばらないように、と注意がそれてしまうことが、欠点ですが、(というよりも車内での飲食は元々よくないとも言われそうですが)、それでもちょっと充実した時間でした。何種類からの「チョコパイ」がある時は、その種類分は試していました。

 ただ、今年は寒くなっても、電車内で何かを食べたりすることは、おそらくはできなくなると思います。食べたりしても、これまではマナーの問題で怒られそうでしたが、今後は、感染の観点で、厳しい目を向けられそうです。それもアフターコロナの変化なのかもしれません。



(参考資料)



(他にも、いろいろと書いています↓。クリックして読んでもらえたら、うれしいです)。

『「新しい」マクドナルドで、ソフトを食べた真夏日』。 2020.6.10

「脳内記憶倉庫」の機能低下が、「興味」を奪うことを考える。

読書感想 『たとえ世界が終わっても その先の日本を生きる君たちへ』    「普遍の人」 橋本治



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