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「黄色い小さいカサと、新しい小学校」。2020.9.26.

    重い空。
 午前9時前。少し雨が降っている。
 すっかり気温が下がって、ちょっと肌寒いけれど、駅までの道ですれ違う人の中には、半ソデの男性もいる。
 駅に着いたら、改札から、小さめの敷布団を何枚か背中に背負った若い男性が出てくる。
 
 改札の上の電光掲示板に、「横浜線 運転見合わせ」の文字が流れていく。10分くらい前、家を出る時には、その情報は知らなかった。

あごマスク

 ホームには、何人もいる。みんなマスクをしている。
 一人の中年男性だけが、あごマスクをして、スマホで話を続けている。けっこう大きい声で、話していると、電車が来る。そのタイミングで、改札を入ってきた中年男性は、やはりあごマスクで歩いてくる。

 あごマスクのスマホの男性は、話を続けながら、電車に乗り込んでいく。その車両をつい避けてしまう。
 
 電車内は、それなりに混んでいるが、先週(リンクあり)に比べると、人は微妙に少なくなっている。 

 温度も低いような気もするが、人によっては、暑いらしく、そばで座っているスキンヘッドの男性は、タオルで頭全体をふいている。
 車内の空気は、静かで、重苦しい。

黄色い小さいカサ

 電車を、乗り換える。
 ホームで待っていると、カラスの声が大きく聞こえる。
 すぐ上の電線に、大きめのカラスが止まっている。

 写真を撮ろうと思って、カメラをカバンから出して、また上を見たら、何の音もなく、カラスはいなくなっていた。消えたような気持ちになった。

 電車に乗った。
 車内は、立っている人が10人もいないような感じで、先週に比べると、ずいぶんと人が減っている。4連休で、あちこちの観光地が、すごく混雑している映像も見たけれど、そのことを思い出して、これからのことを想像し、少し恐くもなる。みんなマスクは、している。


 座席の一番すみっこの手すりに、名前の入った黄色い小さいカサがかかっている。
 
 そのそばに女性が座っていたが、どうもその人のものではないみたいだった。だけど、断定はできなかった。いくつか駅を過ぎて、その周りの人はいったん大きめの駅でほぼ降りたけど、誰も、そのカサに手を伸ばさなかったので、やっぱり忘れ物のようだった。

 持ち主が忘れたカサが、ただ、電車に乗って、いくつも駅を通り過ぎていく。

 電車を降りる時に、そのカサを持つだけで、微妙な緊張感があるけれど、そのまま、自分に似合わない黄色い小さいカサを持って、ホームを歩いて、エスカレーターに乗って、改札の左端にある駅員さんのいる窓口に行き、下がっているビニールの下からカサを渡したら、表情のない顔と声で、どちらにありましたか?と聞かれて、路線名と行先を言って、渡したら、思ったよりも素早く引っ張られた。

 改札を通ったら、向こうから、駅に向けて、あごマスクの中年男性が歩いてくる。
 今日で3人目、と思った。

新しい小学校

 駅を出て、歩道を歩いていたら、前を歩く4人の若い女性は、大きい荷物を引っ張っていたが、歩く速度が早く、それは、スポーツ用具のようだった。

 雨が、もう少し強く降り始めて、私もカサをさし、すれ違う人たちもカサをさしているが、4人の若い女性の中では、一人だけがカサをさし始めて、前を歩いていく。

 このところ、毎週通っていた、高いビルの工事は終わり、その隣の工事現場は、まだしばらく完成までかかりそうだった。令和4年4月に、小学校が出来る予定という表示だった。その頃には、このコロナ禍は終息しているのだろうか、と、やっぱり、未来のことを久しぶりに考えた。すごく、わざとらしいこじつけとは思ったものの、さっきの忘れ物のカサの持ち主は、たぶん、幼稚園か保育園に通っているような年代だろうから、その持ち主が、小学生になるのが、やっぱり2年後くらいで、その頃は、以前とも今とも違う未来かもしれないと、思っていた。

マスク

 午後4時半に、用事は終わり、また同じ路線の下りの電車に乗る。
 すごく当たり前の土曜日の夕方の空気に戻っているような気がする。
 みんなマスクはしているから、それが大きく違っているのに、そのことに慣れてしまっているから、もう違和感もなくなっている。逆に、マスクをしていない人の方に、目が行ってしまう。

 電車のドアの上に、今日のニュースが流れている。

 三菱自動車 希望退職募集 コロナの影響で業績不振
 GoToキャンペーン
 その表現への違和感。
 ハンコをやめろ。
 携帯電話料金値下げ。
 実は、新種。水族館のエイ。

 電車を降りて、駅に着き、改札のそばのアルコールは今日も孤独に立っていた。そこに近づいて、私は使った。他の人は、見たところは誰も使っていなかった。
 今日も、新しいコロナ感染者数は、東京都内は200人を超えたようだったけれど、もうニュースにならないのだろうか。それとも、しないのだろうか。

 
 駅で妻に電話をする。

   今日は、雨が降っているし、昨日は洗濯物干しが壊れたこともあって、洗濯物が乾かないし、まだ洗濯物はたまっているので、近所のコインランドリー(リンクあり)に行ってくれて、乾かしてくれた、と聞いた。「大丈夫?」という話をしたら、機械を使うから緊張したけど、楽しかった。「そう、よかった」だけど、もう、コインランドリーでは、みんなマスクをしてないんだね。

 冬が、やっぱり恐くなった。

笑顔

 電車を乗り換えた。
 二人とも眼鏡をかけた若い夫婦が、幼い娘と息子の姉弟と、家族4人で立ったり、座ったりしているが、柔らかい固まりに見える。

 夫妻は二人とも立っていて、夫の持っているレジ袋の中は食べ物らしく、ちょっと傾いていると思って見ていたら、シチューか何かの中身が少しこぼれていた。ビニールの中の色が変わっていて、それに持っている夫が気がついた。

 あ、こぼしたみたい。

 妻は、それに対して、

 じゃあ、早く帰らなきゃね。

 と、柔らかく答え、マスクをしていても分かるような、自然な優しい笑顔を向けていた。

 やや遠い座席に座って、見ているだけの、こちらの気持ちまで、少し温かくしてくれるような表情だった。




(他にもいろいろと書いています↓。クリックして読んでいただければ、うれしいです)。

ラジオの記憶④「心に届く声の質感」

「コロナ禍の中で、どうやって生きていけばいいのか?を改めて考える」。①「コロナは、ただの風邪」という主張。 (途中から有料noteです)。

読書感想 『コロナの時代の僕ら』 パオロ・ジョルダーノ  「不安の中での知性のあり方」

いろいろなことを、考えてみました。

とても個人的な「平成史」

「コロナ禍日記 ー 身のまわりの気持ち」① 2020年3月

「コロナ禍日記 ー 身のまわりの気持ち」② 2020年4月 (有料マガジンです)。


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