柿の枝を切った夜に、「野生」と目があった話。
妻の髪をカットした。
コロナ禍で美容院に行けず、本格的に髪をカットしたのは、2度目だから、少し慣れてきたみたいで緊張感は減った。それは、妻の髪の質が強めで、カットする時に弾力を感じて、安心感もあったし、この前カットしてから、(リンクあり)1ヶ月くらいたって、本当に元気に伸びてきてくれていたので、それも信頼できた。
柿の枝を切った
次の日に、庭の柿の枝を切った。
この季節になると、柿の木は実をつけ始めて、それはまだ完全に緑色をした小ぶりなものなのだけど、アトランダムに落下する。洗濯干し場の上の波板(半透明のプラスチックみたいな素材)にも、夜中にダン!と強い音がして落ちて、そのために穴があいてしまうくらいの破壊力はある。
家の前の道路側にも柿の枝が伸びていて、そこから柿の実が落ちて、通行する方に当たるかもしれない、といったことを妻が気にしていたから、枝を切ることを頼まれていた。でも、それを言われてから、すでに1週間以上がたっていて、こちらも気になっていた。
当日、妻に、切ることを伝えたら、外にある机の上に、道具をきれいに並べていてくれた。申し訳ない気持ちもあったが、ありがたかった。蚊取り線香の2カ所に火をつけて、煙の量を増やして、それを足元に置いた。
家には、高枝切り鋏が2つある。片方は、切れ味がそこそこ大丈夫だが、使いにくく、のこぎりがついてない。片方は、刃が明らかにさびかかっていて、切れ味が悪いが、ちょっとさびたようなノコギリがついていて、それを使うと、少し太い枝も切れる時がある。
どちらを使っても、うまく切れない。なんだか、イライラする。
家の裏から、脚立を持ってきて、それに登って、少し距離が近くなって、やや太くて、「この枝が道路側に張り出している元凶」と、勝手に思っていた枝をノコギリで切り続けることが出来、枝がシナっと頭を垂れるように下を向いたのだけど、そこから、まだ切れなかった。
最後は、ウーっと思って、高枝切り鋏で枝をはさんで、ゆさぶっていたら、妻にねじったほうがいいよ、と言われて、ねじって、とれた。ちょっと恥ずかしい。
あとは太いのはあきらめて、細くて、緑の柿の実がある細い枝を、地道に切っていく。どうやら道路側の、柿の実が落ちそうな感じのところは、ほぼ全部切れたようで、よかった。
私は、枝を切ったりはしたけど、最後の道具を片付けたり、掃除をしたりは、妻がしてくれたので、申し訳なかった。切っている姿の撮影もしてもらった。それでも、頼まれていたことが終わって、ちょっとほっとはした。
だいたい40分で、作業は終わった。ほぼ夕方になっていた。
昨日は、妻の髪を切って、今日は柿の枝を切って、明日は、何を切るのだろう、と思ったら、さびて、開きにくくなっていて、明らかに使いにくそうなキッチバサミを、どれにするかは妻と相談して決めていたから、「明日、注文をしよう」と思った。これで、カットの3連日になった、と勝手に思う。
それから、妻が蒸しパンにバターをつけて、本当はホットサンドメーカーを使うところを、アルミホイルで包むなど工夫して、デザートを作ってくれた。それに、箱で買っていたバニラアイスで、残っていた分をたっぷりと添えてくれた。とても、おいしかった。
違う世界の視線
夜中の12時頃。
家の外でカチカチと、軽い金属音みたいな響きが聞こえてくる。雨かと思ったら、違っていて、外を見たら、へいの上を歩く動物が見えた。
猫かと思ったが、もっと細長いし、きつねっぽいし、と思っていたら、すごくスムーズに今日枝を切った柿の木をのぼっていった。
何の動物かを、確かめようと思って、引き戸をあけて、そちらを見たら、その生き物は、柿の木を登りかけていた動きを、ピタッと止めた。3メートルくらい先。ちょうど頭が見えない位置だった。
そこから、体は止まったまま、頭をさげて、のぞきこむように、首を伸ばすように、まっすぐに、こっちを向いた。顔に白い筋がある。思った以上に長い顔。少し光る目。ただ、見られている感じがした。
ネコなどとは違って、意志の疎通はまったくできなさそうな気配。家に時々出る、ネズミでも、ここまで異質な視線ではなかった。
それが、「野生」に近い、ということなのだろう。
目があった時、ちょっと怖かった。こちらの怯えが伝わったように、冷たく笑ったようにさえ見えたのは、自分の気持ちの反映だと思う。
視線があった気がしていたのは、ほんの数秒だった。その生き物は、向こう側へ走り去ると思ったら、急に動き出し、柿の木の幹から、こちらに向かって、跳んできた。私にとっては、ほぼ真上の位置。約1、5メートル頭上。洗濯干し場の、波板の上に、ボンッと、思った以上の重い音をたてて、飛び移ってきた。自分からは、もう見えない。
そういえば、以前、天井裏で、ネズミにしては、すごく大きい音を立てていたのは、これかと思った。もし、また家に入られたら、あの生き物がいるのは、ちょっとたまらないので、少し迷って、水をまくヒシャクで、波板を下から突いたら、完全に気配はなかった。
最初に飛び移った音がしてから、そのあとは、無音だった。どうやって、また移動したのか、分からなかった。
そのあと、検索をして、画像を見たら、あれが、ハクビシンだと思った。
たぶん、ちゃんと正面から顔を見たのは、初めてだった。
画像で見たよりも、もっと顔が長くて、そして、静かで、得体のしれない、ちょっと怖い存在に見えた。野生の動物を、本当に知っている人にとっては、ぬるい話なのかもしれないけれど、意志の疎通ができない存在の恐さを、改めて思った。
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