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手帳の生還。

 アニメを見ていたら、紙の手帳を使っている人が、こだわりの人として描かれていて、だから、今は持っている人自体が少なくなっているかもしれないが、ずっとバイブルサイズのシステム手帳というものを使っている。

 当時の自分にとっては高価だったけれど、身内に初めてお祝いとしてもらったので、そのことがうれしくて、それで使い続けている。

 そのころは、もう少し小さい手帳を使っていたから、少し大きいかも、などと思っていたが、老眼が進むに従って、もっと大きいサイズの手帳の方がいいのかも、くらいのことは感じ始めたが、現時点では、すでに10年以上使っている、この手帳を替えることは考えていない。


紛失

 夜になって、次の日の支度をしているときに、手帳がないのに気がついた。

 ただ、自分は、何かをなくしたと思って、あれこれ探しても見つからなくて、でも、妻が探したらあっという間に、そのなくしものと思っていたのもが出てくる、という経験も少なくないので、最初は、そんなことだろうと思っていた。

 妻にもお願いをして、探してもらったが、見つからなかった。

 こういうことも少ないので、もしかしたら、本当になくしたかも、と思いながらも、どこで忘れたのかも、忘れてしまっていて、さらに違う部屋を探そうとした。

 2階の部屋から1階へ降りて、今日使ったトートバッグをいくつも見た。

 やっぱり、ない。

 ただ、どこをどう探せばいいのか、分からなくて、でも、明日は手帳は必要だし、そのポケットにはPASMOも入っているから、困ってしまった。

 モノを紛失したとき、どうしたらいいのか、まだよくわかっていない。

チャーム

 とにかく手帳以外の明日の支度はしないと、と思って、部屋に戻って、カバンを動かしたりしていたら、畳の上に、いつも手帳につけているはずのチャームが落ちていた。それも、クサリというか、その部分がはずれてしまって、その頭の部分(?)だけが残っている感じだった。

 ドラマなどで、誘拐や拉致をされたとき、被害者が、味方に見つけてもらうようにと、自分の持っているものを、道端に落としたりする何十回も見てきたシーンを思い出した。

 手帳が見つけて欲しくて、ここに落としたのか。だけど、手帳は、自分が持っていったものだから、ここにチャームの一部が落ちているのは変ではないか。そんなことをグルグル思っていたら、急に思い出す。

 あ、今日、外出して、いろいろと用事が終わった後、コンビニに寄った。そのとき、手帳をコピー機のところに置いて、そこに書いてあるナンバーを打ち込んだことがあった。

 もし、どこかに忘れたとしたら、あそこだった。

コンビニ

 お風呂から出てきた妻に、短く事情を説明し、それでも戸惑っていたけれど、とにかく出かけた。100円ショップで買った底の薄いサンダルをはいて、急いでも、それほど意味がないのをわかっていても、少し小走りになっていた。

 その間、忘れ物のことを問い合わせても、そのコンビニのスタッフが、ちょっと沈黙のあと、こちらではお預かりしていませんが、という言葉が返ってくるようなシーンが、解像度が低く、頭の中で再現されて、だけどコンビニまで5分もかからないから、何度も繰り返す前に着いた。

 ドアを開ける。どこか、ちょっと祈るような気持ちになっていて、そういう願いは無駄だと思いつつも、先に買い物をしているお客さんがいたので、その列の後ろで待って、それからカウンターに近づき、女性スタッフに聞いた。

 あの、黒いシステム手帳の忘れものが-----。

 と、言い終わる前に、スタッフの方は振り返って、背後にある棚の扉を開けた。

 その時に、そこに黒い手帳があるのは見えた。

 それを手に取って、カウンターに持ってきて、こちらですか?と確認してくれる。

 それは、ビニールに入れられて、大事に保管されていた。

 そうです。

 そのあとに、一応、持ってきていた本人確認のための免許証なども出す準備もしていたのだけど、その前に、その袋から出してくれて、手渡してくれた。

 いつも多めにメモなどを入れているので、かなりふくらんで、重そうになっているシルエットがすでになつかしく、同時に見慣れたモノを、外で見るのは新鮮だと思った。

 あって、よかった。これだけちゃんと保管してくれてありがたかった。

 午後5時頃に忘れて、午後9時過ぎに取りに行ったから、4時間ほど、その棚の中にあったことになる。

 御礼を伝えて、帰ろうと思ったけれど、少しでも、と思って、ペットボトル飲料を2本買った。袋も何も持っていなかったので、そのペットボトル2本と、手帳を両手で持って、やっぱり、少し急ぎ足で、家に帰った。

 手帳の中も、何も異常もないようだった。

 チャームも付け直した。

バス

 妻に伝えたら、よかったね、と言ってくれたあと、そういえば、バスの中で忘れて、終点まで行ったことあったよね、と続けた。

 バスに乗って、手帳を出して、そのまま座席に置いてしまい、そのまま忘れてしまったことがあった。かなり昔のことだから、手帳の中にPASMOもなかったと思うけれど、自分にとっては大事な情報がつまっていたから、焦って、いろいろと問い合わせをしたはずだ。

 それで、バスの営業所のようなところまで行った。

 そこは、都営住宅の団地が建っていて、その下か、その敷地の中にバスがたくさん停まっているような場所で、その事務所か何かに、無事に手帳は保管されていた。

 ちゃんと落とし物を届けてくれる人がいることと、保管してくれるバス会社には、やっぱり感謝する想いになったことも、少し思い出した。

新入社員

 すると記憶は連鎖する。

 さらに昔、大学を卒業してスポーツ新聞社に勤め始めて、まだ新入社員といえる頃に、公衆電話で電話をして、そこに手帳を忘れてしまった。

 駅の構内だったから、その忘れもの係のような場所にも届けを出したりした。もちろん忘れ物の中に手帳はあるようだったけれど、私のものではなかった。

 焦った。

 その手帳には、健康保険証まではさんであったから、ちょっと困った気持ちになっていて、確か、交番にも相談に行ったり、届けを出したはずなのに見つからず、もう少しそのままだったら、健康保険証の組合のようなところに連絡をしないといけないとも思っていた。

 そうしたら、会社に戻ったときに、ゴルフ担当の私の上司であるデスクから、笑顔で声をかけられた。

 ------君の常連のソープの人から電話があったよ。

 今だとありえないジョークだけど、それは、手帳を拾ってくれた人から連絡があって、その人の勤めている会社がリゾートクラブか何かを運営する会社であって、楽園とか、パラダイス的な名称と、クラブといった呼称が入っていたせいで、デスクはそのように言ったらしい。

 なにしろ、見つかったことがありがたく、急いで、その人に連絡を取って、おそらくその日にうちに、その会社を訪ねて、拾ってもらった手帳を渡してもらった。

 当然だけど、きちんとした会社だった。

 御礼はもちろん伝えたし、親切な人だと思ったし、だけど、今なら必ず手土産を持って行くのだけど、その新入社員の頃に、しかも、とても焦っていた時に、もしかしたら、何も持っていかなかった可能性もあるので、そのことまでは思い出せなくて、ちょっと恥ずかしい思いにもなる。

 ただ、今も電車の中などで忘れ物を見つけると、駅の事務所などに届けるようにしているのは、こんなふうに親切な人によって、自分自身の忘れものが見つかった、という記憶があるからかもしれない。

 そのことを今回、手帳を忘れて、それが生還する、という経験を久しぶりにしたせいで、思い出した。


 さらに、手帳をしみじみと眺めた妻が、あちこち傷んでいるのに気がついて、針と糸で修復してくれた。ありがたい。これで、また長く使い続けることができる。



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