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「文字という存在」の不思議さ。

 TOKYO MXは、家のテレビでは、雨が降ると画面が乱れる。

 そのチャンネルで、自分にとってのスターでもある美術のアーティストたちが、思った以上に多く出ている番組をやっている。

 他の自分達の好きな番組と重なっているので、そんなに頻繁にも見られないのだけど、ある時、渋めのテーマのとき、たまたま見た。

 「文字をつくる」人が出ていた。

古い書体

 子どもは、年齢によって興味を持つ本が違っていて、図鑑が好きな年代があるといった、かなり新鮮なことを、この本によって知ったのだけど、それと同時に、本の活字も時代で大きく変わっていることも初めてわかった。

 著者・赤木かん子によると、ある時代から書籍に使われる書体がかなり変わって、圧倒的に読みやすくなっているので、できたら、新しい書体を使っている本を読んだ方がいいらしい。

 人に言いたくなるような情報だった。

文字という存在

 毎日のように「文字」は見ている。

 最も「文字」を意識していのは、人の手書きの文字を見ている時だ。自分自身が字が下手なので、何を書いているのか分からない時があって、そういう時は、結果として、文字そのもの存在を強く意識していることになる。

 本を読んだり、インターネット上で文章を読む時も、文字は必ず目にしているし、昔は、活字という物体があって、それを素早く並べ替えることで印刷という作業をしていた時代はあったけれど、今は、フォントというものは、場合によってはデータに過ぎなくて、だから、文字は、「あるのに存在しない」というような、さらに不思議なものになっている。

 おそらく、少し似ているのがという存在だろう。
 窓そのものは、ガラスのような透明なもので、窓を見るときは、そのガラスを見ていなくて、外の景色などに意識はいっている。もし、窓に意識がいくとすれば、それは窓が汚れたりしている時だと思う。

 そういう意味でも文字と似ているのかもしれない。

文字をつくる仕事

 テレビで、文字をつくる人として紹介されていたのが、鳥海修氏という人で、その肩書きは「書体設計士」で、聞いたことがないのに、それを知った瞬間に、すごく的確な表現だと思ってしまった。

 今は、活字を物体として作るわけでもないから、デザイナーの一種になるのだろうけど、それを「設計士」という言葉を選択する意志を、その番組での話で、なんとなくわかった。

 理想のフォントのことを「水のような」と表現した。

 必要だけど、意識はしない。目立ってはいけないけれど、明確に存在をしている。そんな複雑な在り方で、そうしたものを制作する人の自己顕示欲のようなものも、複雑になっていると感じる。

 それが「書体設計士」という肩書きにも表現されていたと思う。

 だから、著書も読みたくなった。

 わりと冒頭に、これまでの疑問に答えてくれているように思った。

なぜ、新しい書体を作るのか
その理由の一つは文字を出力する方式が時代と共に変わり、それに適合させるために新しく書体を作る必要があるということだ。ざっくりいうと、金属活字、写植、DTPと書体の出力方式が変化してきたことだ。 

 それは、想像するだけでも、とても繊細な作業で、そして、文字という性格からいえば、確かに、その変化が目立ってしまっては、読むことの邪魔になってしまうことさえある。

書体を作ると一言で言っても一万字から二万字を作る必要がある。それだけでも大変な労力を要するが、いい書体を作れるようになるまでは、伝統工芸品を作るがごとく、落語を上手く話せるようになるがごとく、地道な努力と時間と経験が必要なのだ。なおかつ、作った書体はそれほど売れるものではない。特に本文書体に至っては売れ始めるまでに一〇年かかると言われる。一〇年で売れればいいほうで、日の目を見ずに消えていく書体も多いのだ。そのためには安定した雇用が不可欠となるのだが、世の中はそれほど甘くない。

 その上で、目標もはっきりしている。

私たちにとって、「水のような、空気のような」本文書体を作ることは大きな目標でもあった。

 この「文字を作る仕事」という書籍自体が、この著者の会社で制作したフォントが使われていて、今、この文章は最初はワードで書いているので、「游明朝Regular」を毎日のように使っていることに気づく。

 それも、この鳥海氏の会社が制作したフォントだった。

文字の影響

 私自身が、それほど繊細でないと思うのは、フォントの違いに対して、それほど分からない時だ。

 その一方で、そうした繊細さを持つ人にとっては、フォントの違いが、大きな差になっているのは、想像はできる。

 ただ、こんなふうに、読解力にまで影響があるというのは、こうした書体が開発されることで初めて分かることだと考えると、その凄さと、もしかしたら、書体だけではなく、本来ならば、届くはずの理解を阻んでいることは思ったよりも多いのかもしれない、とも思う。

 だけど、それは、開発されないと、気がつかないまま、膨大な人間の理解力や能力が発揮されない可能性を想像すると、少し怖くもなる。





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