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読書感想 『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』 「頭の良さの、とても正しい使い方」

 瀧本哲史、という著者の名前は、何年か前に聞いたことがあって、何冊か本を読み、京都大学で講義をしているのも知り、こうした講義を受けられる京大生をうらやましく思った記憶はある。

 何しろ、頭がいい人、という印象だったけれど、その頃は年齢も非公開で、若いのだろうけど、成功の仕方も、他に例が少ないのでイメージがしにくく、どこか実在感が薄くさえ感じていた。

 読んで、感心もしたけれど、そこで学んだと思たことを、生かせていないのではないか、というような思いがありながら時間も経ち、瀧本氏の新刊も出ないようだし、勝手な話だけど、忘れがちになっていた。

 その頃、テレビのドキュメタリーで瀧本氏が40代で亡くなっていたのを知った。すごく優秀だったのに、まだ若いのに、と勝手なものだけど、残念な思いにもなり、そして改めて、ドキュメンタリーにも紹介されていた「伝説の講義」をもとにした、亡くなった後に出版された新しい本を読もうと思った。

「2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義」  瀧本哲史 

 2012年6月30日に、東大で瀧本氏の講義が行われた。
 そして、その8年後に、今日の講義を少しでも生かせて、何かをして、その答え合わせをしよう、という約束をして、解散となった。その約束の日が、2020年6月30日。だが、その前年に瀧本氏は、47歳で亡くなっていた。

 その2012年6月30日の講義の内容をおさめたのが、この書籍になる。

 仏教には「自燈明」という言葉があります。開祖のブッダが亡くなるとき、弟子たちに「これから私たちは何を頼って生きていけばいいのでしょうか」と聞かれて、ブッダは「わしが死んだら、自分で考えて自分で決めろ。大事なことはすべて教えた」と答えました。
 自ら明かりを燈せ。つまり、他の誰かがつけてくれた明かりに従って進むのではなく、自らが明かりになれ、と突き放したわけです。
 これがきわめて大事だと僕は思いますね。

 この「講義」も基本的には、ずっとこのことを語っているように思えた。
 そのために必要なことは用意するけれど、それをどう生かすかは、自分次第、ということを、繰り返し伝え続けてきて、その用意というのは、何しろ「教養」なのも、肌で分かるように語っているように思える。同時に「自分で考えられない」人間に対して、ある意味で厳しい見方もしている。

 外見だけは人間なんですけど、やってることは人間以下という人が老若男女問わず世の中にはたくさんいてですね、そういう人たちに「早く人間になってくれ」ということです。厳しいことを言うと、「自分で考えてない人は、人じゃない」わけです。
 かつてアリストテレスは「奴隷とは何か?」という問いに、「ものを言う道具」と答えました。僕がいまの世の中を見ても、けっこうな数の「ものを言う道具」の人がいます。
(中略)
 現代社会では、しっかり自分の頭で考えられない人間は、「コモディティ(替えのきく人材)」として買い叩かれるだけですからね。  

 ただ、この文章の中で著者が最も力を入れて語っているのは、おそらくは「早く人間になってくれ」。つまりは、自分で考えられる人間になってほしい、という願いの強さではないか、と読み進めるうちに思うようになる。

とても正しい「頭の良さの使い方」

 一見いますぐ役に立ちそうにないこと、目の前のテーマとは無関係に見えることが、じつは物事を考えるときの「参照の枠組み」として、非常に重要なんですよ。
 経済学しか学ばない人、学べないような人、実際あまり役に立たないんです。見方が一方的だったり狭すぎて、学問の新しい理論やジャンルを開拓していくことなんて、できないんですよ。これは仕事でもおんなじです。
 学問や学びというのは、答えを知ることではけっしてなくて、先人たちの思考や研究を通して、「新しい視点」を手に入れることです。
 だから僕は、何かの「正解」を教えることはあんまりいいことじゃないとずっと思っていて、批判し続けています。 

 こうした「教養」に関する本質的なことだけでなく、この言葉と矛盾しているようだけど、様々な「役に立つ」ような事柄も、語られている。

 例えば、交渉について。パラダイムシフトに関して。「預言者」の正しい選択について。サイボウズが広く利用されている理由。決して盗めないその人だけのものとは何か……。


 他にも様々なことが挙げられいて、それは、すぐに役に立ちそうなことにも感じられる内容なのだけど、それは、この後に引用する文章に描かれている「世界観」その全体を支えているように思えてくる。だから、偉そうな言い方になり申し訳ないのだけど、それは「とても正しい頭の良さの使い方」という印象が強くなり、優秀な人間が、こんな風に考えていたことに対して、どこかありがたい感じにさえなってくる。

 それは、「行動した後、失敗した人に対して、どうすればいいのか?」という質問に対しての答えの中で書かれている。

 基本的に僕は、生活保護とかベーシックインカムとか、その手の施策を強化するのはいいことだと思っていますが(中略)
 この中からもし成功する人が出てきたら、「自分はたまたま成功したにすぎない」と思って、隣の席にいる、同じように才能があった、たまたま失敗したにすぎない人を助けてあげてください、っていうのが僕の答えですね。
 そういう世界観で、僕は生きてますんで。はい。

「次世代」の可能性

 瀧本氏は、特に若い人に期待をし、熱心に語りかけていて、それは、当然だとも思う。それでも、こうした書籍を読むと、自分自身は年齢はもう全く若くないとはいえ、何かをしようとし続けるのであれば、生きている限りは、「次世代になれる可能性」があるかもしれない、とも思えてくる。(かなり無理がある発想とは思うのですが)。

 瀧本氏の言葉には、表立っての「熱さ」はないのだけど、そうした底支えをしてくれるような「情熱」が伝わってくるように感じたせいもある。

本を読んで終わり、人の話を聞いて終わりではなく、行動せよ! 


 ここで引用した言葉に対して、少しでも興味が持てたとすれば、読んでもらえたら、と思っています。さらに、これから先、どうやって生きていこうか、と迷っている方であれば、若い方だけでなく、あらゆる世代の方にもオススメできると思います。




(他にも、いろいろと書いています↓。読んでいただければ、幸いです)。


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