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読書感想 『自分の意見で生きていこう』 ちきりん  「これからの時代の教科書」

 考えることは大事だ。自分の意見を持ちましょう。

 おそらく数限りなく言われてきた言葉だし、何百回と目にしてきたと思うけれど、実は、学校を卒業すると、耳にすることは少なくなって、時々、誰かの言葉として文章として読むことになり、だんだん、それすらなくなっていくのは、大人になるほど本を読むことも少なくなっていくからで、それが一般的(多数派)と言われている。

 考えるとはどういうことか。意見を持つためにどうすればいいのか。

 そのことを問われて、明確に答えることができる大人はどれくらい、いるのだろうか。
 この本を、読んで、自分が、そういう大人にはなれていないことに気がついた。

『自分の意見で生きていこう 「正解のない問題」に答えを出せる4つのステップ』 ちきりん

 「意見」がどうして必要なのか。 
 その問いにも私自身は、明確に答えられないのだけど、著者「ちきりん」氏は、かなり簡潔に答えを出しているところから始まる。

 全てのことに「正解」があるかどうか。もしかしたら、「ある」と思う人にとっては「意見」は必要なく、ただ調べれば済むことかもしれない。

  このことに関しては、著者は、学校的価値観という見方を提示している。それは、「正解」をなるべく早く探して答えるという価値観でもあって、確かにそれは学校で教わった方法だったし、意外と広く深く浸透しているかもしれず、だから、この価値観を、新しく言葉を作ってでも指摘することから始めないと、「意見」がどうして必要なのかに、進めないと思った。

 さらに考えると、著者の言う通り『重要な問題には「正解」がない』のは本当だけれど、こうして確認するように書かないと、これまでの常識にとらわれていると、「人生」にも「正解の人生」があるように錯覚してしまうかもしれない。

 例えば、トルストイの「アンナ・カレーニナ」の冒頭で、「幸せな家族はいずれも似通っている。だが、不幸な家族にはそれぞれの不幸な形がある」という印象的な表現があり、作品自体が、人物の心境の描写なども豊かで的確でリアルな傑作のため、この言葉自体は、今も広く「真理」のように流通していて、この記事↑にもこんな表現がある。

「成功例に入るためには型にハマれ」という事が言えます。

 ただ、気をつけなければいけないのは、「幸せな家族」や「成功例」ではなく、ちきりん氏の著書で、テーマとなっているのは、「どんな人生がもっとも良い人生なのか」であり、それは、トルストイの時代よりも現代の方が圧倒的に豊かになり選択肢が増えたため、文字通り、本当に人それぞれであり、その「良い人生」にとって必要なのが「自分の意見」だということだ。

 そして、「自分の意見」には正誤はない。人それぞれに「自分の意見」が存在する。
 著者の伝える、このことは、現代的な、これからの課題でもあるのだと思わされる。

「意見」と「反応」

 学校的価値観、という言葉のように、はっきりと形にすることで問題や課題が見えやすくなるが、この著書の中で、「意見」と「反応」は違う、と定義づけしたことも、かなり大きい意味があると思う。

 「意見」こそに価値があり、「反応」には価値がないが、実は意識的でないと、その違いに本人でさえ気がつかない、という。

 そして、「反応」は、その名の通り、反射的に言葉が出てきてしまうが、SNSには「反応」があふれ、それも、何も考えなくてもカッコよく見える言葉の例の一つとして、著書の中では「それって、現実がよくわかってないと思うよ」があげられていたが、確かに、こうした言葉はインターネット上だけではなく、個人的には、実際の会議などでも、よく聞いていた。

 その時に、これは「反応」に過ぎず価値がないことを知っていれば、「それは思いつきにすぎない」という「反応」も含めて、それほど気にしないで済んだのに、とは思った。

「意見」を発信する方が「反応」よりも、はるかに考えなくてはいけない。それに、著者が強調しているのは、「意見」の正誤ではなく、その『「意見」が、本当に自分の意見なのか』ということであり、そのためには「考え尽くすこと」が必要だという。

 分かっていたようで、だけど、はっきりと言葉にできないことを、こうして言葉にしてもらったことで、ここを基準にし、ここから考えることができるようになる。

オリジナルの人生へ

 この見出しは、「第6章」そのままだけれども、オリジナルの人生が、より可能になり、かつ必要とされるようになったのは、やはり、現在の状況と無縁ではないようだ。

 明治以降、長い間、ごく一部のリーダーを除いて、「意見」を持つ人間よりも、従う人間の方が日本社会では重宝されてきた。その傾向が変わったのは、バブル崩壊後、日本が世界から取り残される、という非常事態になってからと著者は指摘していて、確かにそうだと思えるが、リーダーシップを持つ、「意見」を持った「個人」を育てる教育も、まだほぼ存在していないのが現実だと思う。

 おそらく、著者にとってはごく当たり前だった「正解のないことに関して考え、自分の意見を持ち、発信して、議論していくこと」が、今の日本社会では、まだほとんど問題にもされず、というよりは、それを実行している人は当たり前のように行なっていて、無縁な人にとっては気がついていない可能性まであるから、結果として、十分に説明されない「秘技」のようになっていた部分があると思う。

 だから、“言葉として説明するまでもないこと、それぐらい自分で考えろ”などと、おそらくは思われていたことを、ちきりん氏は、こうして言葉にし書籍として形にし、終盤には『「意見」をもてるようになる4つのステップ』という練習方法まで詳細に書かれているので、この書籍は、「21世紀の教科書」の1冊にもなっていて、ここからスタートするべき本でもあると思う。

 その上で、反対の「意見」でも、賛成の「意見」でも、自分で「考え尽くす」ことができれば、おそらくは社会の見え方そのものが少し変わってくるはずだ。

 少なくとも私は、「意見」と「反応」の区別がこれまでははっきりとつかなかったけれど、その違いに目がいくようになり、そして「意見」を発信することで遭遇したことについての意味づけもでき、励まされる思いにもなった。

 今回は、なるべく「自分の意見」の割合が多くなるように、こうして紹介の記事を書いたが、著者の「意見」がベースであり、さらには自分の「反応」も混じっていて、当然だけど、全部が「自分の意見」ではない。

 それでも、やや大雑把な「意見」だけれど、全体的には、この「自分の意見で生きていこう」で書かれている内容に、私は「賛成」です。

 必要であれば、さらにここから考えていけばいいと思う。

おすすめしたい人

 自分の思ったことを素直に言って、叩かれて嫌な思いをしたことのある人。  「考えること」を「考え始めたい」人。
「生きづらさ」を感じている人。
「どんなことにも正解がある」と思っている人。

 そうした方々に、年齢などを問わず、おすすめしたいと思っています。



(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。




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