見出し画像

【短編】もうすぐ君がきて

誰でもない誰かの話

コンビニに寄って、
眠気を覚ますために飲み物を買う。
それがノンカフェインのほうじ茶だから
目的を見失ってるなって思う。

足の先が冷えてくる季節になってきた。
帰り道でも運転中に眠くなる。
いや、眠いのはいつもだ。
頭がスッキリしている日なんかほとんどない。

事故を起こさないように
寄り道をしては眠気を覚ます。
いつからか、ずっとずっと眠い。
寝不足といえばそうかもしれない。
かといって、眠りたい時には寝てしまえるし、
寝不足ではないような気もする。

コンビニの駐車場で寝ていたら
電話の振動で目が覚めた。
いや、車内が寒くて
寝ていたことに気がついた。
「はいはい…」
電話の相手は、
家に来る約束をしている友人だ。
『今どこ?』
「上保原のローソン」
『じゃ、もうすぐ着くの?』
友人は僕より先にうちに着いてしまったようだ。
「あ、ごめん。寝ちゃってさ」
『せっかく買ったピザが
冷めるから早く帰って来て』
うちは保原駅の近くだ。
このローソンからなら10分程度で着く。
「YouTubeでも見ながら待ってて。
電話切るよ。」
有無を言わさず電話を切った。

ピザはきっとイタリア料理のお店から
買ったんだろう。
ナポリピッツァじゃなくて
薄いパリパリの生地の…なんて言うんだっけ。
きっと帰る頃には冷めているけど
オーブンで少し焼くことを提案しよう。

うちには、ゼネラルレクラークがあるから
それを綺麗に切って、ピザと一緒に食べたら
美味しいだろう。
友人の好きな自然派のワインも何本かある。

ただ、僕だけが、まだ到着していない。
待たせてすまないが、
その部屋の鍵は今のところ
僕しか持っていない。

あのまま電話を続けていたら、
もっと遅くなったから
あのように電話を切って良かったんだろう。

赤信号に捕まって、
少しの時間、到着が遅れることも
僕にとっては想定内。

友人は、寒い中震えているだろうか。
子犬みたいに震える彼を見るのは好きだ。
意地悪なことを言うが、
そんな彼に少し胸が躍ってしまう。

彼が長い髪を切り落として、
今まで持っていた服を全て捨てた日、
それが今日。
本当になりたい自分になれた彼を
僕が祝うと約束している。

なのに、コンビニで寝てしまって
何も用意していない。
すまないと思いながら
マンションの駐車場に車を止める。

寒いロビーに彼がいるのを見つけて
その容姿を見つめる僕。

友人の君がなりたい君になったなら
それが君にとっての幸せだろう。

「お待たせ。」
「ピザ、冷めたよ。」
「オーブンで焼こう。」
「焦がさないでよ。」
「任せてよ」

いつも眠い僕が、君を思うと目が覚める。
君が新しい人生を見つけたことが嬉しくて。

切り分けたゼネラルレクラークと
焼き直したピザ

「寒い中、よく待っていてくれたね。」
彼が好きなワインを注いだ。
今まで見たことのない表情を浮かべた。
「もうすぐ君がきて、
あったかいピザが食べられるなら
待ってるのも悪くないって思ったから。」

水曜日の夜に、彼の新しい日々に
ワイングラスを合わせる。

眠くない瞬間はこの夜にあり、
彼がいなくてはこの夜はない。

翌日、眠くても今、
彼と過ごせれば後悔はないだろう。

そう思って、
ずっとずっとこれからも
毎日毎日
眠くて眠くてたまらないんだ。

#短編小説 #小説 #オリジナル小説
#寒い #眠い #寝不足 #睡眠負債
#オシャレな文言並べてみたかった
#しかしいつも通り
#ワイン
#ピザ #ピッツァ #洋梨
#ゼネラルレクラーク

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?