水野しず
水野しずの考えを最も率直に届けるコーナー。 毎週金曜日の夜に配信予定ですがわりと前後します。
私は幼少期から現在に至るまでずっと「バナナ」の存在は「ドッキリ」ではないかと疑っている。疑っているというか、あえて心の底から信じないようにしている。バナナを真に受けないようにして生きている。もっと言ったら、フルーツ全般にやすやすとは信じがたいフィクション性というか、アイドルの演じる「像」を本気で受け取ったらいけないだろうといった、一線を引く気持ちを抱きつつ、生活に丸め込まれる形でなし崩し的にバナナ以外は受け入れている。バナナだけはちょっと、度を越してファンタジーがすぎるのでは
親切な人が 「ありのままでいいんだよ」 と言ってくれることがある。 久々にこれを言われて、「おお」となった。 正確にはもっとこう、日本語では表現できないニュアンスで 「oh.…」といった感じになる。迷惑ではない。し、特に不愉快でもないが、どうリアクションしたらいいのかわからない。この「おお」は初対面の人に不謹慎なギャグを言われて、どこまでウケていいのか判断がつかないので、なんとなく感心しているような雰囲気になってしまうときの「おお」と似ている。 「ありのままでいいん
どんな服でも本人が自信満々に堂々と着ているとオシャレに見える(ことがある)。美味しいとされているものを味わうときも「今自分は根拠がわからない味の暴論をがんばって信じているだけなんじゃないか」と思えることがある。 「キャビアがスーパーでひと瓶30円で売っていたら誰も食べない」 と言っている人がいた。言われてみると、なんだかそうなのかもしれない。なんでしょう。 なにがよかったんだ。キャビア。口内というステージで様々なダシというか、コンブや海老の殻から抽出されたような旨味と塩
・女の話はつまらない SNS上で「女の話はつまらない」という意見が話題になっていた。結論から言うと「人による」としか言いようがないので、こんなことを本気で言っている人物はバカである。 バカとはどういうことなのか。 人間は自分が置かれている狭い環境の中で対自した少ない経験則からなにか普遍的な法則を見出したような気分になることが多い。これをアブダクション(仮定推論)と言うらしい。 たとえばパチンコをやってビギナーズラックを引き当てた人物は「パチンコ=儲かる」という推論をし
以前、 という質問をいただいたことがあります。 ただこれだけのシンプルな問いかけがずっと心から離れませんでした。 質問の内容よりもこういった質問が生じてしまう背景にはどのような考えがあるのか気になってしまったからです。 どうして気になるのでしょうか。 質問者は相手のために何かをする気持ちがあるし、その行為によって自分もまたいい感じになりたいという(一見)前向きな動機があるにも関わらず、結果的には無駄な骨折りにしかならないことを試みているようで不可解だったからです。 ・
・【驚きの事実】愛想は多少よくしておいた方がむしろめんどう(性カチコミ)が起こらない
先日 「水野さんは結婚ってわかりますか?」 と聞かれたので、その場で真面目に考えてみたが、結論から言うと「わからない」。結婚がわからないというより、全てがわからない。なにもかもが。 人間がやることは、基本的に全てわからない。私だけがわかっていないのか、他の人もわかっていないのか、それすらもわからないが、おそらくほんとうのところは誰もわかっていないんじゃないか。 なぜなら、大体のことはわかっていたらやらなくて済むから。 世の中には「本当はまったくわかっていないことをわ
宝石業界にはビーフブラッドよりもピジョンブラッドのほうが上という価値観がある。らしい。牛血と鳩血。どちらもルビーの色彩を表すための語彙である。 これに私は「意義あり」と思う。 この場合のビーフブラッドとは、食肉用に生物にとって優れているとは言えない環境で成長ホルモンを投与され大量生産され機械的に処理(殺害)された牛肉が、冷凍処理をされて流通を経たのちに、慌しく人が往来するキッチンに常温放置されて流れ出したドリップの、赤黒く濁った人類の業を表す地獄の贄色のことを言っているのだ
とうとうクレアおばさんが煮込み終わったのか、といった方面の感慨があった。 『perfect days』を劇場で観たら、役所広司が普段以上に向こう側に行っているように感じた。向こう側とは、人々がうっすら信じてはいるが、特に信用はしていないまま運用されている「善意・善人」の向こう側のことだ。ベルマークを集めているときの漠然とした失望、お台場で開催されているイベントにあらかじめ漂っている「素直に騙されておいた方が楽ですよ」といったムード、朝のニュース番組で放送されているエンタメコー
・他人事パワースポット
毎月通っている心療内科の医師は、毎度、江戸前寿司の大将みたいなノリで「へイラッシャイ!」と薬を出すだけの診察をやる。私はこれを「握り」と呼ぶ。「診療」と思っていると、こちらの精神状態に不具合が出るかもしれないからだ。「医者と患者が国民皆保険制度という名のブラックボックスに共依存し悪貨が良貨を駆逐している」など、いますぐ考えなくてもいいことを熱心に考え、通っている原因をおのずから悪化させてしまうかもしれない。そうなったら元も子もない。あらかじめ「握り」と呼称しておくことで、ス
・おじさんが居座ってるけど大丈夫 朝目が覚める直前に、絶対に起きたくないという気持ちが猛烈に高まったので 「あえて覚醒に気がついていないフリをしよう」 と思って覚醒をシカトしていたら、よこしまながんばりへの天罰かもしれない。おじさんの顔が私の瞼と眼球の間の空間に現れた。現れたというか、記憶の断片がフラッシュバックしているだけなんだけど、むやみに実在感がある。おじさんの顔(頭~肘下くらいまで)は、私が覚醒を拒んでいるせいで生じた湯船みたいな空間に居座るので困った。居座る
・ダサい大人は勘弁してもらえない時代 最近、ダウンタウンのメンバー松本人志休業の報道が話題になりました。 これについては言及可能な切り口が無数にあるので一概に言える話ではないのですが、ひとつ「ヒエーっ」となった点として、「ダサい大人は本格的に勘弁してもらえない時代が到来したんだな」ということを思いました。 というか、今まで勘弁してもらえていた方がリラックスのし過ぎだったのかもしれません。考えてみると、立場が上の人間だけがリラックスできるというのも変な話です。ダサい大人。考え
・「ちょっとまってください」 と言いたくなる 最近「ネガティブ・ケイパビリティ」という語をしばしば目に(あるいは耳に)する機会があります。これは を指しているそうです。 確かに、生産性や効率、結論、要約した意義のようなものばかりが過剰に求められ、誰しもが自らの価値の総額について深刻にならざるを得ない現代人にとって「バズりそうなひとことを言わずにグッと留めておく」みたいな感覚はすごく大切なんだよ、ということが言いたいのはよくわかります。そうなんですけれども。 でも、なん
外に出ると疲れる。 脳の中がクリアーじゃなくなってザワザワしちゃって空間がよくわかんない感じになってグニャグニャして平衡感覚もなくなってまっすぐ立てなくなって、人の気配が入ってきて家に帰るだけで精一杯になったりして、なんだか外に出るのが苦手で、何にもないとわりと家にいる。 私の家はコンクリート製なので外界の音がほとんど聞こえてこない。シェルターみたいだ。豪雨の時に僅かに髪の毛に湿度を感じてそれと気づくことがあるくらいで、きっと外界でたくさんの人が死んで世界がほとんどなくな