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【連載小説】発砲美人は嫌われたくない

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#拳銃

【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_5

 スエヒロくん、と鱒沢さんの声が飛んできて、僕の背中が上下動した。
「ごめん、驚かせたかな」
 いえ、と曖昧に返事をしてパソコンの画面をチェックする。大丈夫、変なブラウザは立ち上がっていない。
「出張に行ってほしいんだけど」
「出張ですか?」このご時世に、とい言葉を吐き出す寸前で噛み砕く。「オンラインではダメなんですか?」
「クライアントがその手の機械に疎いらしくてね。使い方を覚えてくださいとも、

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【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_4

 ヤカタさんに指示された後始末の内容はシンプルだった。
 床の掃除と痕跡の消去、それからカナコの不安を取り除いてやることの3つだ。しかしシンプルと簡単はイコールではない。世の中では往々にして、シンプルなことほど奥が深く、また難しいものだと相場が決まっている。
 まず両手足を縛られたカナコを動かすのが容易ではなかった。
 触れるとおびえたように肩をすくめ、部屋に僕しか居ないのだとわかると「んー、んー

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【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_3

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 ぴちょん、ぴちょん、と水音が弱まったということは、シャワーが止められたことを意味する。烏の行水という言葉がある。ヤカタさんがユニットバスから戻ってくるのは異様に早かった。ヤカタさんがカラスだとすれば、続けて読めばヤカタカラスになり、何やらヤタガラスのような響きを醸し出す。ヤタガラスは、カラスであり、神なのだ。この上なく縁起が良いし、きっとあなたたちの出会いは、神の思し召しに違いない。このよ

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