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【連載小説】発砲美人は嫌われたくない

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#恋愛

【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_3

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 ぴちょん、ぴちょん、と水音が弱まったということは、シャワーが止められたことを意味する。烏の行水という言葉がある。ヤカタさんがユニットバスから戻ってくるのは異様に早かった。ヤカタさんがカラスだとすれば、続けて読めばヤカタカラスになり、何やらヤタガラスのような響きを醸し出す。ヤタガラスは、カラスであり、神なのだ。この上なく縁起が良いし、きっとあなたたちの出会いは、神の思し召しに違いない。このよ

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【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_2

 ぱしん、ぱしん、と残業つづきの体にムチを打つ。隅をホチキス止めした資料を抱えた僕は、やっとの思いで会社の非常階段を上り終えた。
 といっても、資料はものの6人分で、上った階段はたったの3階だ。
 どちらもそう多くない。問題はそれが定時を過ぎてから与えられたタスクであることと、そういう仕事の振られ方が常態化して、僕の体がこってり疲れ切っていることにある。
 ひとつひとつの仕事は小さいが、終わったそ

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【連載小説】発砲美人は嫌われたくない_1

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 ぱあん、ぱあん、とリズミカルな音が聞こえてきて、僕は世界を閉ざした。
 ここのところ、ずっとだ。具体的には、四日連続になる。
 はじめて聞こえたのが三日前で、腹を立てて壁を叩いたのが二日前。それを管理人に注意された昨日から、イヤフォンで大音量の音楽を流すことにした。サブスクリプション・サービスのランキング上位を独占する、素性が謎に包まれた二人組ユニットの曲。
 ハイハット・シンバルを打ち

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