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陽炎

クーラーで作った温度なんかに簡単に犯されてしまう体温を測ってわたしはわたしのことを分かった気になっていた。口実を編んで触れるひとの体温のことだけは信じられると思っていたけど、実際はそう信じていないとわたしがほつれてしまいそうだったから必死に縫合しようとしていただけだったのかもしれない。信じるって冒涜だから、わたしは嘘を信じたいし本当のことは信じたくない。わたしの瞼の質量はわたしにしか分からない。切

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//閃輝/暗点

きみの喉をひらいて深淵を覗く。ぼくにはそこにつかえている言葉の感触しか分からなかった。瞼を閉じて裏側の星を眺める//フラッシュ/飛散するガラスに映る光線のぼくが乱反射する。閃輝//

暗点。きみがソレを指差して白だと言ったから、ぼくの暗闇は白色をしている。公転に惑わされないメリーゴーラウンドのように。回転体のぼくたちはその尻尾を追いかけ続けて朽ちてゆく。木馬は自分を馬だと思い、ぼくらは自分を人類だ

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いつか

いつか

冬の次には春がくる。雨はいつか止むし、夜はかならず明ける。そう確信を持てることがどれだけしあわせなことか、わたしたちはひとつも分かっていないよね。眠ればかならず明日がくるって、そう信じて疑わないからわたしは今日もきみに会いたいと伝えなかった。そうしてこれからも地球が回り続けるのだと信じていられるうちは、わたしたちはだれにも殺されないし殺せない。そのまぶしい瞳の奥で光る「いつか」ということば。きみは

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擦り切れるまで

擦り切れるまで

好きな曲の好きなフレーズを何度も何度も再生する。好きな映画の好きなシーンを何度も何度も再生する。きみがくれたあの言葉を何度も何度も再生する。反芻は、あの日々を本当にしてくれるかな、反芻が、わたしの一部にしてくれるかな。イントロを聴けば口ずさめるあの曲。この季節になると再生されるあの記憶。いつか擦り切れて、空白が生まれたその瞬間に、わたしはきっと、転生する。きみがまばたきをする瞬間に死んで、ふたたび

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煌

欲しい本が2冊あって、どちらにしようかと迷った挙げ句、結局どちらも買わずに帰ったあの日にぼくは本当の意味でぼくを知った。街の中でひかりを見つけるたびにシャッターを切ってしまうのは、まだどこかできみの光芒を追いかけているからかもしれない。カメラのシャッターを切ること、今日着る洋服を選ぶこと、パンにジャムを塗ること、それは祈りとよく似ている。と、ツイッターにつぶやくことも、この書きかけの文章をインスタ

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ひかりの淀

ひかりの淀

次の季節がわたしを呼ぶから生きてしまう。終電に向かって駆け抜けた街のひかりの残像がやけに綺麗で泣きたくなった。汚い街ほどひかりは鋭くかがやかしくて死にたくなった。だけど雨が、月が、私を生かす、この月は、この空は、どこまでも、あなたの街へも、きみの街へも繋がっている、その事実が、その縁が、わたしを生かす。もう会えぬひと。この星のどこかで、同じ空の下で、同じ月を見上げている時が1秒でもありますように。

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カウントダウン

カウントダウン

きみに触れたのはきみとの破滅を望んだから。恋をすることは失敗することの決意でした。互いを呪い合う覚悟でした。あの光。深夜のブルーライト、きみからのメッセージ、「好きだよ」、6:32:14とだけ表示された無機質な最後の通話履歴。きっと霞んでも光はいつまでも光のままで、今もその先が心臓を突き抜けて痛い。過去を抉る気持ち良さは瘡蓋を剥がす気持ち良さに似ている。膿んだ傷口から溢れ出す体温。その痛みこそが今

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