諸星颯太

八王子在住の会社員/noteでは短い書き物を中心に投稿/明日死ぬかのように生きる/好き…

諸星颯太

八王子在住の会社員/noteでは短い書き物を中心に投稿/明日死ぬかのように生きる/好きなことはサーフィン、映画、読書、ボクシング、弾き語りなど

マガジン

  • 掌編小説・ショートショート・短編小説

    ジャンルは特に決めていませんが、気ままに投稿していきます。

  • 日常のあれこれ

    日記・エッセイ・何となく思っていることなどを適当に書いていこうと思っています。

  • 寒空の下 [中編小説]

    西山拓己は両親をはじめ、周囲の大人から過度に甘やかされて生きてきた。結果、特別な才能もないくせに、プライドだけは非常に高い人間に育ってしまった。彼は単位が足りず、大学を留年することになった。結果、長い間避けてきたアルバイトをすることを母親から命じられる。そして、警備のアルバイトを始めるのだが・・・

最近の記事

  • 固定された記事

衝動|ショートショート

 私にはかれこれ3年以上付き合っている彼氏がいた。  彼がもともと1人で住んでいた高層マンションの部屋で同棲をした。親にはまだ何も言っていなかったけれど、私は彼と結婚したいと思っていた。  長身で脚が長く、肩幅は程よく広くてスーツが良く似合っていた。かといって、素敵なのはその容姿だけじゃなかった。私が苛立ってきつく当たってしまうことがあっても、年上の彼は広い器で受け止めてくれた。心穏やかな、とても優しい人だった。  外食をすることはあまりなかったが、その夜は彼の提案でレ

    • 腕時計|ショートショート

       土曜日だというのに駅のホームは都心に向かう人々でひどく混み合っていた。秋が深まり、外気は澄んでいた。反対に、到着した電車のドアが開くと中は見知らぬ人々の吐息で濁っているように見えた。引き返そうと思ったが、前にも後ろにも人がいて後戻りできなかった。流されるまま乗車するしかなかった。普段あまり乗ることがないせいで、どこに立っていればいいか分からなかった。中程はもうすっかり人で埋まってしまっていて、入口付近から先には進めなかった。この先もまだまだ人が乗り込んでくることが予想された

      • うらがえし|ショートショート

        数日前からTwitterの裏垢が勝手に想いをつぶやくようになった。 まるで私の代わりに涙を流すかのように。 自分の知らないところで誰かが操作をしているという事実に、一瞬は薄気味悪さを感じたけれど、どうせ裏垢だし放っておいてもいいやと思った。それに、全てカタカナでつぶやかれるメッセージは読んでいて面白かった。 今朝も通勤電車の中で内容を確認した。起きてから一時間も経っていない寝ぼけた状態で読みと、カタカナの羅列は違う言語で構成された呪文みたいに思えた。 「アナタハワタシヲ

        • 醒めない夢|掌編小説

          ―たまに夢だとは思えない夢を見ることがある。  夢がついさっき起こったことだと錯覚し、  目覚めてからも本当の現実を忘れてしまうほどに深く考えてしまうー  台風ばかりやって来て、ぐずついた天気が続いていた。二学期が始まってからもう何週間か経っていた。憂鬱な毎日だった。  その日、僕は古典の授業で寝てしまい、先生に怒られた。落ち込んだ気持ちのままお昼休みに食堂でご飯を食べていると、友達から沙也香先輩が帰ってきていることを知らされた。彼女は生徒会なんかもしていたので、学校内では

        • 固定された記事

        衝動|ショートショート

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          27本
        • 日常のあれこれ
          7本
        • 寒空の下 [中編小説]
          20本

        記事

          少しだけ特別な人間|エッセイ

           全てが中途半端になってしまい、いろんなことに自信を失っていた。  4月から戻った営業の仕事でも、これといった進歩は見えなかった。  いくら客先を回っても売上には繋がらず、自分の存在が無意味に思えた。  会社自体の業績も悪く、未来は明るくなかった。  プライベートで取り組んでいるnote投稿をはじめとした創作活動も  限られた時間の中で納得のいくような作品を作ることができず、  消化不良だった。    どうして自分はこんなことをしているんだろう、  誰も必要していないので

          少しだけ特別な人間|エッセイ

          イン・ア・センチメンタル・ムード|ショートショート

          「おじいちゃんが心臓発作で倒れた。救急車で藤山総合病院に運ばれた」  僕は朝一から大学で西洋哲学の授業を受けていた。母からの知らせに気付かなければ、難解な内容にノックアウトされたまま席から立てなかったかもしれない。まだその日は授業が残っていた。けれど、おじいちゃんに万が一のことがあったら、単位が取れたとしても後悔することになる未来は明白だった。  母からの返信はなく、一行の情報しか得られなかった僕はひどく不安になった。すぐにでも安否を確かめたかった。おじいちゃんから譲り受

          イン・ア・センチメンタル・ムード|ショートショート

          掌編小説|あの日のままで

           仕事が終わり、私は地下鉄の構内に入る前にコンビニへと立ち寄ることにした。甘いものと冷たい飲み物を少しだけ口にしたかった。  こういう無駄使いがあとから自分の首を絞めることになるのだろうけれど、少ない給料を節約したところでストレスになるだけ。自分を甘やかす理由ならいくらでも見つけられそうだった。  晩夏の夜。街にはまだ日中の猛烈な暑さが渦巻いていた。息苦しかった。  コンビニの前に立つと、自動ドアが開いた。熱気と冷気が入り混じって、妙な空気が生まれた。背筋がぞっとした。

          掌編小説|あの日のままで

          始まってもいなければ終わってもいない|ショートショート

          「ただいま」とは言わず、静かに彼の部屋へと戻った。まだ彼は仕事から帰ってきていないようだった。私は半年も経たないうちにウェイトレスの仕事を辞めた。同僚から労いの言葉をかけられることはなかった。当然、送迎会の提案もなかった。いつものことだ。寂しいとは思わない。むしろありがたいと思う。  私がもともと所有していた荷物はクローゼットの中にある限られた衣服と、ドレッサーの引き戸に忍ばせてある化粧品くらい。荷物をまとめるのにはいつも一時間もかからない。引っ越し業者に頼む必要もなく、五

          始まってもいなければ終わってもいない|ショートショート

          めぐみ先生|短編小説

           黄土色をした斜面には顔を出したモグラがそのまま死んでいた。放射状に広がった触覚はむりやりかさぶたを剥がした傷口のように不自然なピンク色をしていた。小さな前足で必死に日光を遮ろうとしていたが、間に合わなかったのか。身構える前に銃殺された人間のようで薄気味悪かった。モグラは見慣れない生き物だった。大人になった今でも怖いと思うかもしれない。ぼくは小学二年生で8歳だった。うわっと大声を出して、登っていた斜面から転げ落ちそうになった。もうすぐ休み時間は終わりだった。親友のゆうとは先に

          めぐみ先生|短編小説

          His Secret|ショートショート英訳

          I had a partner, we've been together for three years. We had lived together in a high-rise apartment where he originally lived alone. I had not told my parents yet, but I knew he is the one I want to marry. He was tall, had moderately

          His Secret|ショートショート英訳

          チャイナドレスの女|短編小説

           後悔する気持ちをさえぎるように、定時を知らせるありふれた音階のチャイムが鳴った。仕方なく、デスクの上をゆっくりと片付け、席を立った。周りの同僚はまだ忙しなく動いていたが、私がいる空間は時間が止まっていた。  同じ部署の中でオフィスから出てきたのは私一人だけだった。すぐ近くの駐車場にやって来る人間はおらず、静まり返っていた。ドアノブに手をかけると、車のキー音がやけにうるさく響いた。    仕事からの帰り道。外はまだ明るかった。フロントガラスを通して見る遠くの山々は、薄いピン

          チャイナドレスの女|短編小説

          ダカールの朝|ショートショート

           外はまだ薄暗かったが、辺りには無数の音が響き渡っていた。どこからか風のように流れてきて、僕の睡眠を妨げた。神のために定められた時間ではあったが、気持ちよく目覚めるためには少し早すぎた。  統一感のない、異なる種類の音が重なり、独特なハーモニーだった。主旋律を奏でていたのは、誰かがスピーカーを通して歌う、イスラムの歌だった。歌い手は神妙な声色で、波打つように歌っていた。そのメロディーだけが聞こえていれば、まだ我慢して眠っていられたかもしれない。だが、ダカールの朝は容赦なかっ

          ダカールの朝|ショートショート

          連載小説|寒空の下(20)

           勤務を終えた足で、駅近くにある会社の事務所に向かった。最後の給料をもらうためだった。いよいよ30万円が貯まり、約二ヶ月という労働生活から逃れようとしていた。到着した頃には夜の八時を過ぎていた。事務所には佐藤しか残っていなかった。可愛らしい女の子たちでもいれば別だったが、彼しかいないせいで、余計に陰気な雰囲気だった。目を合わせることもなく書類を出した。 「改めてお聞きしますが、今日で辞めてしまうんですね?」佐藤の鼻息はいつも以上に荒かった。 「そういう約束だったでしょ?」

          連載小説|寒空の下(20)

          連載小説|寒空の下(19)

           最後の数日も相変わらずショッピングモールの「東側平面駐車場出入り口」に立ち、仕事を続けた。あと数日で辞めるということを責任者の佐藤にもに伝えていたし、ショッピングモールで働く他の警備員たちもそのことを知っていた。もうすぐいなくなるのだから、藤本たちは俺のことを放っておいてくれると思っていた。しかし、彼らは嫌がらせのためにわざわざ仕事を増やした。駐車場が満車になったときに一方通行の路上で停車して、駐車場が空くまで待とうとする客が大勢いた。彼らを注意して停車させないようにしろと

          連載小説|寒空の下(19)

          連載小説|寒空の下(18)

           あと一週間働けば、母親と約束していた30万円を貯金することができるというところまできていた。それはつまり、正義を証明するための時間は余り残されていないということでもあった。だが、虫けらのような大学生が死ぬ気になったところで、一人の人間を変えることができるかどうかも分からない。ましてや数人の大人を説得し、自分の味方につけるなど夢のまた夢。  ショッピングモールで働く警備員はますます仲が良くなり、俺のことを陰湿ないじめによって弾圧していた。トイレにいるときに電気を消されたり、

          連載小説|寒空の下(18)

          君の部屋で|ショートショート

           僕たちは口裏を合わせ、体調不良だと嘘をついた。  午前中の授業を終えると、二人とも頼れる友人に伝言をお願いし、給食を食べることもなく、学校から逃げ出した。卒業まで一ヶ月ほどだった。変な噂にならなければいいなと思った。  学校の裏にある曲がり角で、彼女は先に待っていた。髪をショートカットにしているせいか、白く艶やかな肌をした首筋が、際立って美しく見えた。 「ごめん、待たせて。誰にも見られなかった?」僕は言った。 「たぶん大丈夫」前髪を整えながら、彼女は言った。  肩を

          君の部屋で|ショートショート