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初めてのひとり旅

2018年8月。
場所は愛媛県、松山市。

松山駅からひとり電車に乗り、八幡浜(やわたはま)駅へと向かう。
途中の車窓は松山市内の街並みから、山の合間にある町々へと変わり、田舎らしいゆったりとした時間を感じる。前日まで友人と小さなツアーに参加しており、ツアーを終えたこの日からは、ひとり大分県を目指していた。

八幡浜駅から八幡浜港までは約2km。いい時間帯のバスがなく、駅前でタクシーを拾う。今回は初めてのひとり旅。通常の旅ではほとんどレンタカー、たまに電車を使うくらいで、タクシーに乗ることはほぼない。それ故に旅先でのひとりタクシー移動は、なんだかちょっとだけ特別さを感じ、出張で来ている人の様な気分を味わっていた。

10分程で八幡浜港に到着し、チケット売り場で大分は臼杵(うすき)港までの切符を買う。待合室のベンチで少し待ち、船に乗り込む。臼杵までは約2時間半。自動車やトラックなども船に乗り込むが、夕方着の便で平日ということもあるのか、船内の人はまばらだった。

船内に観光客風の人はあまりおらず、作業着姿で仕事の為の移動や、買い物や病院など生活の為に通っているご婦人、のような方が乗っていた。

畳が敷いてある床があり、そこの窓側に荷物を置いて腰を下ろす。愛媛から大分に近づくにつれ、太陽が沈んでいく。初めてのひとり旅で、内心どきどきしながらも、少しずつひとり旅が進んでいくことにホッとしながら、窓からぼーっと夕日を眺めていた。

船上から見える景色は、海の藍色と夕暮れ前の空が水色からオレンジ、ピンクから薄紫へと滲む様に混ざりとても綺麗で、ひとり思う存分眺めていた。

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船旅は好きだ。遮られるものなく海に浮かびながら、ひたすら前に進んでいく。360度を青い海に囲まれ、心地よい揺れと、デッキからは潮風を感じ、自然のにおいの中に思いっきり浸かっている感じが好きだ。

大分に到着する頃には辺りも薄暗くなっていた。船から降りた大型のトラック達は、迷う事なく目的地へと向かっていく。船内にいた人達も、それぞれの目的地を目指して散らばっていく。

辺りに人が居なくなり少しずつ暗さを増していく中、次の目的地、別府駅へと向かうため、臼杵港から臼杵駅を目指して歩く。

15分程、見知らぬ薄暗い土地を早歩きで進み、臼杵駅に着く。駅までの薄暗い道ではほとんど人とすれ違わなかったが、駅には高校生が何人かいて、人気に少し安心する。

駅の券売機で切符を購入し、夜の電車で別府駅へと向かう。ゆったりとした席に座り、一時間ほどで別府駅に到着する。別府駅前は、お店や行き交う車などで夜道も明るく、そこから今日の最終目的地の宿へと向かう。

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街の明かりに照らされた道を進み、海沿いまで歩く。海のすぐ側に、今日の宿があった。お値段が安く、部屋が綺麗そうで選んだ普通の宿だが、ロビーは広く和をメインに少し洋が混ざった感じ。建物も内観も少し古めではあったが、鍵を受け取り部屋へと向かう。

人生で初めてのひとり旅。

部屋に着いて荷物を下ろす。窓のカーテンを開けると、その右側には真っ暗な海が広がっていた。(部屋の真正面が海というわけではかなかったが、部屋の窓からは宿の駐車場の左奥に小さな砂浜が見え、その砂浜から右側に向かって別府湾が広がっているのが、翌朝綺麗に見えた。)

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愛媛から大分までひとりでの旅路を終え、ひと息つく。宿には露天風呂もあり、せっかく来たのだから、と早々に露天風呂へと向かう。着いたばかりの露天風呂には誰も居らず、真っ暗闇の海と朧げに光る月がちょうど見えた。

一日の疲れを海と月に癒されながら、露天風呂に浸かり大きく息を吸った。夜なので海は見えなかったが、それでも海が目の前にあると思うだけで、とても癒された。そのすぐ後には家族連れがやってきて、一人の空間から現実に戻る。

次の日も大した予定は組んでいなかったが、別府を観光するつもりだったので、コンビニで買っておいたビールを飲み、部屋の明かりを消し、窓を少し開けてもう一度海の音を聞いてから、眠りについた。

初めてのひとり旅。
少し寂しさもあったが、わずかな達成感をも感じた初日であった。

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