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第7回 『芋粥』 芥川龍之介著


 こんばんは、JUNBUN太郎です!

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 今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
 ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
 ラジオネーム、バカ社長さん。

 JUNBUN太郎さん、こんばんは。
 オレは中学2年。笑えるくらいマジヤバくって投稿しました。
 クラスに宇野って同級生がいて、奴が突然、転校することになったんです。最後の送別のときにオレが「元気でな」って声かけたら、宇野はちょっと困ったような顔をしてから言ったんです。
「いままで黙ってたけど、僕は君のことを友達と思ったことはなかった。でも元気でね」
 なんすかこれ!? いつもつるんでる中の一人だったから、マジビビって、家に帰ってもムシャクシャして親父の酒のもうとしたら、大学生の兄貴にみつかって、で、話したんすよ、何もかも。そしたら、兄貴がこれ読めって。

『芋粥』って本です。
 え? イモの入ったおかゆ? なんか貧乏くさそうな話だなーなんて思いながら、ページをめくりました。

 ささやかな幸せを夢みる男の幻滅と悲哀を描いた不条理ドラマ『芋粥』をまだ読んでないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!

 

 ああ、そういうことか!、って思いました。
 この小説の主人公、いつかは好物の芋粥を飽きるほど食べたいっていう彼のささやかな夢が、ある日、思いもよらず叶ってしまい、幻滅してしまう。それどころか、貴重だったはずの芋粥が目の前で大量生産品のようにしてつくられたうえに、野狐さえも食ってるっていう屈辱的カオスな状況に、プライドっていうか尊厳? みたいなものが踏みにじられてしまう。この悲劇の主人公が宇野で、彼を知らず踏みにじった利仁がまさにこのオレだったってことに気がつきました。

 オレんち、金持ちなんです。物心ついたときから欲しいものはなんでも与えられて育ちました。宇野は小遣い少なくて、買い食いするとき、よくジュースとかおごってやってたんです。宇野は、少ない小遣いで毎月決まった駄菓子を買っていて、それに付いてるクジの当たりのシールを何枚だったかな、とにかくたくさん集めたらいつか野球のグローブが手に入るんだって、あるとき教えてくれたんです。うちにはちょうど親父に昔買ってもらって殆ど使ってない新品同様のグローブがあったから、ちょうどいいと思って、宇野にあげたんですよ。それ、利仁が芋粥を彼に食わせてやったのとまったく同じですよね? おれは宇野のささやかな夢を踏みにじった。この小説を読み終わったとき、いつかグローブをあげたときに宇野がみせた笑ったような困ったような、寂しげな顔をオレは思い出しました。

 オレは宇野のことを友達だと思っていたけれど、宇野はオレのことをそうは思っていなかった。考えてみれば、オレも、友達とは思いながらも、宇野のことをバカにして、蔑んでいたのかもしれません。だって、ビンボ宇野! って宇野のことをふざけて呼んだりしていたから。すかさず、社長野!(オレの苗字はチョウノって言います)っていつもふざけ返してきた宇野は、笑っていながらも、きっと本当には笑っていなかったんだよなー。

 ちょっと待て。オレとつるんでる連中はみんな、オレではなく、オレの金目当てなのだろうか……。試しに、放課後の買い食いでおごってやるのをやめると、一人また一人、取り巻きの連中が減っていく……。
 なんと、今日なんて、一人ぽっちで下校しましたよ!笑
 オレには友達が一人もいなかったっていう衝撃の事実!!泣
 笑っちゃうなーまったく。欲しいものはなんでも手に入れてきたと思っていたのにさー。もう笑うしかないでしょ。
 現場からは以上です!!笑

 バカ社長さん、どうもありがとう!!
 友達がいないことに気がつくことができて、まずはよかったよね。おめでとう。
 友達、いなくっても、いいんじゃない? ダメ? 一人ぽっちも楽しいもんだよ。本、たくさん読めるよ? ぼくも人間の友達は一人もいないけど毎日楽しいよ?
 ところで、この本を勧めてくれた大学生のお兄さんとはその後、話したかな? ぼくの推理では、お兄さんも中学生の頃にバカ社長さんと同じような経験をしているんじゃないかな。そのときに、誰かに勧められて、もしくは図書室や本屋さんでこの本と出会った。まずは、お兄さんと『芋粥』トークでもしてみたら? 何か思いもよらぬ道が開けるかも?!

 それではまた来週をお楽しみにー。

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