【哲学対話の記録】なぜ私達は平等を求めるのか
あの子は持っているのに私は持っていない!
こんな風に、小さい頃、
お父さんやお母さんに言ったことはありませんか?
さあ、この言葉。
小さい子どものわがままと捉えるでしょうか。
それとも、平等を求めている、と捉えるでしょうか。
はじめに
空腹を刺激する美味しそうな匂い。
多くの人の談笑する声。
温かなオレンジ色の明かり。
今日の対話はいつもの場所を抜け出して、
対話空間創造社のメンバー3人だけで。
付き合い的には3年前から、
より深く関わり合ったのは昨年末から。
生まれも育ちも境遇も異なる私達ですが、
日本語というひとつの共通項をもって、ひとつのテーマに向き合います。
前回の対話は下のリンクよりご覧になれます。
「価値」とは何かについて対話しました。
私達、対話空間創造社については下のリンクよりご覧になれます。
お手すきの際に、ぜひご覧ください。
テーマと理由
今回のテーマも3つ。
「とける」について
「とける」は私たちが主催する「対話から空間を創作するプロジェクト『とける』のコンセプト。企画の参加者たちは各自「とける」について考えを巡らせているけれど、「対話」の形で話し合ったことがまだないんだよね。それぞれが考えを巡らせる中でどのような問いが生まれたのかなと思って。
平等とは何だろうか、果たして存在するだろうか
「なんか、凄い皆同じっていうのがいいって言うかそういう風潮があるなって思ってて。今回のコンセプトの「とける」もそうだし、ホントに平等がいいのかな」
内在と外在について
「何が私たちの中に内在していて、外在しているのか。そもそも備わっているもの、外から付与されているもの、それらって何があるんだろう?あるとして、何を持ってそう言えるんだろう…みたいな…まだ問いになっていないんだけど」
問いだし
いつもならどのテーマが気になったのか、そこから話しますが…
「正直さ、平等についていちばん話したいでしょ?」
とファシリテーターに声をかけると、
静かに「…うん」
彼女はこれまでもたびたびこのテーマのことを口にしていました。
「でしょ?じゃあ平等について広げようか」
いつもより和やかに進行していきます。
「このテーマについて話したい理由は納得はしたんだよね。多様性を認めるために古い考えを捨てなけらばならないみたいな感じはある気がしていて。別にそこは捨てなくてもいいのに、これは捨てる捨てないという取捨選択は、平等とは言えないのかなと思う」
「私は前にも話したけど、結果の平等と機会の平等みたいな考え方をしていて」
結果の平等と機会の平等。
以前の対話で出た内容でしたが、もう一度教えてもらいました。
様々な身長の人が塀の先をのぞく行為を例にしましょう。
機会の平等は、塀の先を覗けるように全員に一律踏み台を用意すること。
結果の平等は、現段階で背が低くて塀を覗くことが出来ない人には踏み台を用意し、塀を既に覗ける身長の人には踏み台を用意しないが、結果全員が塀の先を覗くことが出来た、ということ。
「結果の平等の政策は、その内容は不平等に見えるけど結果は平等という状況なんだよね。さっき古い考えを捨てるって話があったけれど、今平等にしようとしているものは、既に損なわれているものという捉え方も出来るよね。
今まで気付かなかっただけであって、ずっと水面下では存在していて、今認知されて、ゼロまで上げようとしている段階に来ているのかなって。だから排除みたいな考えにはならないのかな…ちょっと何言っているか分からなくなってきたけど」
「私が今聞いて思ったのは、じゃあ平等は存在するのかな、と」
今私達が気付いてきたことはあるけど、今だって見えていないものがある。
「それが本当に全て是正することが出来るのか、それから真の平等が可能なのかということも問いになるのかな。あとは、平等って今良いことみたいに話しているけれど、本当に良いことなのかというのも話せそう」
「それで言うと、私は欲がある人間だから、他者よりも優位でありたい気持ちがあるんだよ。そういう気持ちがある人間がたったひとりでもいるだけで、平等って不可能って思うんだよね。その人が行動に起こさないだけでも、その人が不平等に感じてしまったら、平等とは言えないのかな」
空腹に負けて注文した少し塩辛い味噌カツパンを頬張りながら、
えらい難しいことを考えながら食べるご飯じゃないなあと思いながら。
その間にも話は進み、以前はそもそも平等なんてなかった、平等なわけないという時代があったという流れに。
「あとは…なぜこんなにも私達は平等を求めるのか、も気になる」
「…そもそも不平等だから?生まれたときから。そういう認識がないと生まれないんじゃないかな」
「でもさ、昔の人達は不平等が当たり前だった。その不平等がおかしいと思って力を持ち始めて起こったのがフランス革命だよね。でもそれより前は、みんな食べるものないのは平等じゃん?王様はその間も贅沢なご飯を食べているわけで」
「ああ…そうなると、条件で見る平等不平等なのか、感情で見る平等不平等なのかになってくるなと思った。今挙げてくれた例って、物理的な事実の平等不平等だけど、私が挙げた欲のある人間の例って感情で見てる平等不平等だよなと思って」
じゃあそろそろ問いをまとめようか。
と思ったけれど、話しすぎて何があったっけとなってしまう。
その現象にひと笑い。
今日はファシリテーターが話したいと考えた
“なぜ私達は平等を求めてしまうのか”について対話していくことにしました。
対話スタート
「そもそも、私達は本当に平等を求めているのかな?」
ファシリテーターが問いかけます。
「なんか、自分が損している側にいたら平等を求めるのかなと思った。たぶん今自分が満足していたら、平等とか不平等とか思わないと思うんだよ」
「有利な側にいたら気付けないと思う。それこそ最近の男女平等の話でいくと、男性側は気付いていないんだよね。少し前に医学部の入試の話とかあったでしょ?あとは、女性に家事を一任することが多いから、とか」
最近、日常の家事の分担に関する漫画やSNSでの発信をよく見かけます。
個人の感想ですが、確かに、"不平等じゃん!"と思いながらついつい読んでしまいます…
「その考えって個人ベースで考えると納得出来るものだよね。でも、なんで国は政策とかで平等にしようとするのかな?」
民衆が政治の力を持っていることが平等に繋がるのは分かるけれど、
平等を突き詰めたらその利益が最大になるからだとは思うんだけど…
そう話していることを整理しながら、
共産主義について学んだ数年前の高校の記憶を引っ張り出します。
「共産主義の代表のソ連を例にとるけど、確か、いろんな施設が国営になって、労働者が国からお給料がしっかりもらえて潤いはしたんだよね。でも、段々、働かなくてもお金がもらえることに気付いて怠ける労働者も出てきちゃったんだよ。だから、真面目に働いてお給料をもらった労働者との間にも差が出てきてしまって」
「それだけが崩壊した理由ではないけれど、崩壊した一因ではあるよね。政策においての理想と現実というか」
利益と不利益という物理的な事実があっても、
結果としてはその人がどのようにその事実を見ているのか、
ということに左右されてしまうのではないか、という話になりました。
「だから、機会の平等と結果の平等って話が生まれるんだと思う」
「最初は機会の平等で納得するんだよね。初めから結果の平等を与えられたら、あっちはあるのに…って思う人が不平等って思うのだろうね。まあ、私がこういう考え方をする人間だからというのもあるないしれないけれど」
「でも、これまでマイノリティ側だった人の、」
「必ずしもマイノリティが不平等とは言えないじゃん?」
「あ、うんとね、私の言うマイノリティって…」
マイノリティとマジョリティについて話してくれました。
男女を例にとると、世界の人口的には女性の方が多いけれど、立場的には男性の方が優位。単に数の大きさで分類するのではなく、立場の強弱で、弱い方がマイノリティ、強い方がマジョリティという考え方。
社会学の授業で教わった考え方だから、一般的に広まってるかわからないんだけどね。と締めくくったあと、
「何話そうとしたんだっけ?」
対話あるあるですね。笑
「そうそう、マイノリティの人たちの不平等を最低限、基本的人権の水準まで是正することは必要だと思う」
「その最低限のラインって誰が決めているの?」
基本的人権というのは日本が決めたものであって、世界共通の名称ではない。そして、そもそも人権のあるなしだって国や文化、宗教によって異なる。
「そう考えると、その最低ラインは崩れてくるなと思ったんだよ。どの範囲の平等を求めているのかって。インドのカースト制度とかもあるけれど、その人達は本当に平等を求めているのかな…」
「まあ、インドもそうだけど、日本でも狭い範囲、例えば学校とか地域とかでもヒエラルキーはあるよね。それをカーストと呼ぶのは違うかもしれないけれど。どちらにせよ、今、自分がそこにいないから、可哀想とか不平等とかって叫べるのかな。実際に当事者になったら、そんなこと考える暇すらないと思う」
「仮に知っていたとしても、産業とか環境とかで、そのシステムがいちばん生き残れるからそうなっていったのもあると思う」
自然界が生き残れるというシステムで確立していったように、人間もまたそのように確立していったのかもしれません。
「是正に動けた人って、弱い立場の人たちの中でも、外の世界を学ぶことができた知識人なのかな。だから問題とか不平等とかに気付くことが出来たのかな」
「結局、置かれた環境においてその人がどう思うのか、だろうし、当事者じゃない人、傍観者であるからこそ考えられることなのかな」
「平等とか不平等とかまで考えられる余裕があるというかね」
確かに。という気持ちと、なんか違う。という気持ちが混ざり合ったようなそんな表情をファシリテーターが浮かべます。
「今までのことには納得出来るんだよね。ううん…例えば、セクシャルマイノリティの話をしたときに、いろんな名前があるでしょ。あとはダイバーシティと言ってたり… 差別とかが少なくなってるようには感じるの。でも、その言葉を作った時点で、平等ではないんじゃないかとは感じる。平等にしようと思ったときに不平等が生まれるのかなって」
感情は別に気にしなくてもいいというだけなのに、
わざわざ区別をしようと名前をつける。
平等にしようと思っているはずなのに。
「私も名前を付けることで差を明確にしてしまうことがあるとは思う。だけど、これまでは同性愛の人がいても、隠されてきたし、それが当たり前とされていた。だから当事者以外の人は、隠されていることによって存在すら知らずに生きることが可能で、たまたま存在を知った時には『変わっている』と感じてしまう。だって見たことがないんだからさ。」
例えば、小指に指輪をはめている人しか見たことがなければ、「指輪は小指にはめるもの」と思ってしまう。それが「当たり前」だと思ってしまう。
そんな状況で、親指に指輪をした人を見たら、きっと「変わってる」と思ってしまうだろう。
それと同じ構造で不平等を作り出してしまっている。
「だから、名前を付けて、まず知ること・気づくことができるようにしている側面があると思う」
「勘違いしないでほしいのは、ジャンル分けをするのが悪いのではなくて、平等のために、といってすることにとても不平等を私は感じるのね」
支援をするためには必要なんだろうけど…
互いが悩みながら話します。
「今はいつか来るだろう平等のための過渡期なわけじゃん?来るかは分からないけれど。そのためには必要な現象なのかなあとは思う」
「認知してほしくて名前をつけるとか?」
「もちろんそれもあるよね。でも今、みんなの話を聞いてみて、平等というものは、当たり前に何だろう?って考える必要がないことが平等なのかなと思っていて、だから平等はあり得ないのかなと思って」
平等にしようと思って何かしようと頑張る。
この時点で不平等というのは事実で。
しかし、平等のために頑張ろうとしなくても、
ご飯を食べなければ生きていけないという事実は平等。
だったら、何かを付与しなくても良いことが平等ではないのか。
「だから、生きている、存在していることのみ平等かな、と私の中では見えたんだよ。だって、ご飯を食べることにだって平等ではないから。この考えもどこかで間違っているのかもしれないけど…」
「うーん。"同じ"って使うのか"平等"って使うのかによっても印象は変わるなって今の話を聞いてて思った。生きていることは"同じ"とも言えるし、"平等"とも言える。でも、"平等"だとなんか思想が入ってくる、というか」
友達と"同じ"ペンを持っていた。
母親と"同じ"位置にほくろがあった。
平等という言葉は日常使いすることはあまりないと思います。
平等という言葉の重みを無自覚にでも感じているのか、軽率には使わない気がします。
「だから平等と捉える時点で、本人の思想が絡んでるんだなって。物理的に見て"同じ"で済む話を、わざわざ、"平等"という言葉に置き換えている段階で、そこに本人が求めるものが何かしらあるんじゃないかな」
「そして、その求めているものは必ずしも"同じ"ではない、というね」
「そうそう!ひとりひとり違うから、"同じ"ではないから、みんな平等平等言うのかなって思ったの。だからいつまでも求め続けるのかな」
「確かに…平等って言葉を使う時点で多少なりとも思想は入っていると思う」
「思想が入ってなければ、こういう話をしたときにこんなに議論が広がることはないと思うんだよ。みんな同じでいいのにね~で終わると思うんだよ」
人それぞれに求めているものが違うから、
条件やハードルなどを付与して考えたくなってしまう。
より強い等しさを求めてしまう。
何か平等を求める理由が見えてきたかな…?
ってときに限って、終わりの時間が来てしまうものですね。
終わりに
いつもと違う環境。
私達以外の人達も、それぞれがそれぞれの話に花を咲かせたり、
ひとり机に向かったり。
その一方で私達は平等という難しいテーマについて対話をする。
物理的にも、なんとも不思議な空間にいたなあと終わってからしみじみ。
こんなに深く平等を考えたことはありませんでした。
今でも分かっていません。どうして私達は平等を求めてしまうのか…
みなさんは平等を求めているでしょうか。
求めているとしたら、どのような平等を求めているのでしょうか。
そもそも、平等は本当にあるのでしょうか。
みなさんはどう考えますか?
今日はここまで。
読んでくださり、ありがとうございました!!
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