【哲学対話の記録】「価値」とは何かー良いところは価値か。
はじめに
「はじめまして」
今回は、一人の自己紹介から始まりました。
私たちは現段階では、決まったメンバーで定期的に対話を行っているけれど、今回はいつものメンバーとは違う参加者がいました。そして、年齢も少し上で経験もいつものメンバーとは異なる。
私は、新たな皆の一面を垣間見えるのではないか、と期待しつつ、少し不安もあった。本当は普段出会えない人と出会い、真剣に向き合うことが私たちの目標なのだけれど。
メンバーの明らかな戸惑いの表情。誰、という視線が私に向けられる。
「えっと、」
私は新たな参加者の紹介をする。よろしくお願いします、という挨拶と、結局目の前の人のことがよく分からないという環境で対話が始まっていく。
けれど、私はそれで良いと考えていました。立場も年齢も性別も出身も職業も、そんなことは対話を行う上で必ずしも必要ではない。目の前の誰かが、どんな前提で、どんな考えを持っているのかをじっと耳を傾け、理解しようと努める、それがこの時間の目的なのだから。
前回の対話はこちらからお読みいただけます。
私たち、「対話空間創造社」については以下の記事をご覧ください!
問い出し
今日も一人がテーマを持ち寄って、みんなで話しながら、「問い」の形にしていく。
テーマ1:「消費」に関して
「私たちは、毎日いろんなものを消費、しているけれども、そのことに関して考えてみたいなと思ってこのテーマを挙げました。これと言って、何か話したい問いがあるわけではないんだけど、消費について考えたいなと。だって、誰かのものすごく努力したモノも大切に思いを込めたものも、私たちはそれを知らなければ、対価を払えばさも当たり前かのように消費する。いや、別にそれが悪いとは思わないけれど」
テーマ2:「価値」について
「割と消費と結びつくと思うんだけど、価値について話したいなと考えています。「価値」って何なのかって最近凄く考えていて。価格で表せる価値もあると思うし、それは分かりやすいんだけど、そうじゃないものもあるよなって。芸術とか、それこそこの時間とか、私、少なくとも私は価値があるって思ってるけど、それって何だろうってモヤモヤしてて。じゃあ、価値って何なのか?価値があることが良いのか?とか」
「価値」とは何か―お金と価値。評価軸。数値にできない価値。
「どうですか、話してみたいテーマとか、問いとかありますか?」
皆、じっと目線が斜め下や斜め上を向いて、何かを考えている。少し時間をとってもいいかもな、と考えていた。
「あー、いいですか」
早速、初参加の方が声を上げた。
「凄くビジネス的な視点だけど、価値ってお金の源泉とも言えるんですよ。まぁ、時間をかければなるだろうけど、それが価値となるのかの見極めについて聞いてみたい」
別の一人がその発言に続いて、手を挙げる。
「お金って言ったときに、価格が高いと価値が高い、みたいな印象があるけれど、僕はプロでもないのにめっちゃ高いミシンを買ったんですよ。だけど、僕はそのミシンを金額とかそのものの価値?みたいなものには注目してなくて。僕はなんか、そのミシンとの未来を買ったというか。ちょっと恥ずかしい言い方かもだけど、結婚相手を見つけるみたいな感覚で、このミシンとこの先やってくぞって気持ちで買うことを決めたんだよね、だから、未来が価値と呼べるのか…」
「なんか、分かるかもしれない。私、転校して自己紹介したときに一人、好きになるかもしれないって直感した人がいて、それは一目ぼれではないんだけど、その可能性を頼りにっていうか、その人のいいところを探して見つけて、結局好きになる、みたいな経験したんだよね、それは、その人の価値、というかそういうものを探していたのかもしれない。そういう直感的なもの、何かを選んだ時の直感がなんなのか気になる」
「良いところが価値であるっていうのには納得できてなくて、就活でも「あなたの価値を教えてください」って言われてもなんか、思いつかなくて。作品もそうで、良いものを作ろうとしてるんじゃなくて、好きだから、創りたいから作ってるという状態で、それが価値になるのかが気になるかも」
続けて、デザインや芸術についても繋げてくれた。
「デザインと芸術もよく分からなくて、その違いもわからんし」
「うん、芸術自体に価値があるのか、その周辺のお金の回りだったり付随する効果だったりそれに価値があるのか、価値はどこにあるのか」
対話
「良いところ」=「価値」?
「では、良いところは価値だと思いますか?私は、そうだと言えるとは思うけど、悪いところでも見方?言い方、捉え方によっては全然価値になり得るし、状況にもよるのかなって思っているんですけど」
「なんで、良いところが価値になるかって気になったんですか?」
あ、いつもとは違う質問。
そう、いつも多数決で問いを決める。話されなかった問いもたくさんあって、どうしてその問いを選んだのか、聞くことはそれらの問いへのなんだか、想いのような、そんな気持ちがする。
「えっと、就活とかしてるとよく思うんだけど、何か組織の中では空いてしまった役割、もしくは必要な役割の能力を持つ人が価値があって、まぁ、その能力を持つ可能性がある人も価値があると思うんだけど、その状況とか、組織とかによって、何を価値とするのかって変わるよなって」
「その…「良いところ」っていうのはどういう…良い?」
「それは、自分が良いと思っているところ…?客観的に自分自身の良いと思っているところ、かな、」
「金、って希少性があって、皆が欲しがるだろうっていう可能性があって、みんなそこに価値を見出して、価格が上がっていく。から、良いところ=価値ではないって考えられるよね。株とかを例に出すと、その会社が将来成長するだろう、という可能性に価値が見出されて、株の価格が上がっていく。」
「価格」は「価値」を表す基準の一つ、と言えるのではないか、という仮説の元の話である。
それがすべてではないのだけれど。
価値はやじるし?
「あ、僕は価値ってやじるしなんだと思う。なんか、人間の行為をやじるしとするなら、「価値」ってそのやじるしの一つみたいな」
やじるし?
全員の頭がくっと話し手に向かった。耳を傾ける。話し手はそれを見回して苦笑いをした
「価値」はある・ない、のではそもそもない。人間と何かの間を揺れ動くものが「やじるし」で、それがなにかエネルギー的なものであって、それは本質的には変わらないが、「価値」という名前を持たせることで、その何か、流れのようなエネルギーのようなものが「価値」となる。
「なんか話したらわかんなくなっちゃったな」
価値はモノコトに内在する?しない?
「今の話を聞いていて思ったのは、価値って人が何か意味を見出すコトなんじゃないかな?って自分のなかで思っていて」
そのモノ・コトには「価値」はなく、それらに対して「価値」を感じる側、私たちが何かしら意味を見出すから、その価値があるように感じられる。
「価値」というものは存在せず、その時点で、それにどれだけ意味があるのか。
「ゲームで言えば、フィールドで、そのモノに対して、「可愛い」のフィールドを開けば、可愛いか可愛くないか。「価値」のフィールドを開けば価値があるかないか」
「えっと、全然よく分からない、んだけど…」
苦笑いしながら、一人が言った。
例えば、私の目の前のペットボトル。今は中にルイボスティーが入ってる。私が開けて、4分の一ぐらい飲んでいる状態。
このペットボトル自体に「価値」はなくて、このペットボトルを取り巻く環境や状況・相手によって、「価値」が見出される。
これが新品だったら、誰かの喉を潤すという可能性があって、その可能性は、自分の喉を潤すという意味があるから、喉が渇いている誰かにとってはルイボスティーの入った新品のペットボトルに「価値」がある。
けれど、私が飲んでしまったこの目の前のペットボトルは、少なくともここでは、私が飲むことが出来て他の人は飲めないから、私にとって「価値」はあるけれど、他の人にとってはそんなに「価値」はない。
「ちょっとここで気になったんだけど、「可能性」は価値にはならない?その、誰かの喉を潤す可能性は価値にはならない?そう考えると、そのモノ自体にも「価値」があって、私たちが感じている「価値」とは別物がある…?種類が違う価値が存在する」
「その価値、ならばやじるしじゃなくなる」
え、と少し笑いが起こる。
「えっと、やじるしを私は理解しきれていないが、やじるしの価値もあるし、その、宿っている価値もある?」
そのモノに付随する「価値」と状況・受け取り側に左右される「価値」がある。
「価値になりやすいものとなりにくいものがあるなって思ったんだけど、性質とか見出されたら価値になるもの、を分かっていれば、価値を見いだせること、相手に意味を持たせることを設計すれば価値になるから、それが設計なんだろうなって解釈をしてみました」
「万人に意味がある性質のものとそうではない性質のものがあって、例えば、「金」は希少性があって、それに対して皆が意味を見出しやすい。「金」に誰かが価値を持たせるのではなく、結果「価値」があった。それは、金に希少性があるから皆が意味を見出すだろうという可能性があって、その角度?がそれぞれ異なりそうだなって思って。えっと、信用性に近いのかもしれないけど」
こういう性質が価値を見出されるだろうと、その性質を何かモノコトに持たせることが「仕事」になるんだろうな、とつぶやく。
「なんだかビジネス的な話になっちゃったけど笑」
価値の形骸化
「えっと、ビジネスになりやすい価値となりにくい価値があると思っていて」
例えば「友情」とか。それには確実に価値があると少なくとも私は思っているが、これには「価格」がつかない。俗に言う「お金では買えない」って言われるもの。
「交換性、じゃない?その価値を交換できるから、価格っていう交換のための基準を作るし、交換できるから多くの人が意味を見い出して、万人に価値がある、として価格を決める」
あ、なんだか話がまとまりそう、そう思いかけたときに、今までじっと話を聞いていた一人が声を上げた。
「えっと、一個教えてほしいことがあります。金が例にあがっとったんやけど、金に価値があるからあんなに高いのか、値段が高いから価値があるのか、ってなったら物質にも価値があるのか、を聞いてみたいと思った」
「まず、金って原子番号の中では結構後ろの方にあって、自然では生成されづらい。だから希少性がある。希少性が高いと、量産されることがなくて、皆が欲しいってなる。誰も持ってないアートもそうだし、複製されてしまえば価値はなくなってしまう」
「今の話を聞いて、価値って形骸化?しやすいのかなって思って。最初は金は珍しくて、そこに価値があるよねって話だったのに、それに値段っていうものがついてそれで評価し始めると、そうすると希少性ではなくて、金は高い値段で取引されているっていう事実が先に来てっていう、なんていうの…」
信頼性の話だろうか?金を通貨として使い始め、通貨が金ではない金属や紙に変わったから金に価格がついて…
「金に価値がある世界に私たちは生きていて、その起源?とどう違うかって話?」
「えっと、そっちに近いかも…?」
「あ、だったらアートとかと似てる話かもしれない。その作品とか作者について知っている人が、最初にこんな作られ方をして、それはその作家にしかできないから、価値があるとして見に来る、で、その土地でお金を使うからその土地が潤って、その恩恵を受ける人が、あの作品には価値があるっていう次元とそのアート作品を購入する瞬間の次元。で、それは今私たちが見ているお金の次元と、金を見つけたときの次元に近い、エネルギーの流れ」
「えっと、それは理解できてるんだけど、その、金に価値があるっていうのがまだ、納得できてなくて」
「金には価値はないよ。だけど、希少性があってきらびやかで、こんなの持ってるってなること、それを求める人が多い可能性があったり、意味が見出されやすかったりするから価値がある」
おわりに
「え、あ、終わりです!」
今日も無理矢理対話を切り上げる。
私は納得できたような、出来ないような、もやもやとした気持ちで、時計を見つめる。
時計は淡々と時間を刻んでいる。
「うん、もやもやを持って帰りますね、」
そう、初めて参加してくれた人が話す。
うん、そうしてください、と私は笑い返すが、どうしてもこの時間、この対話自体の「価値」について思考を巡らせざるを得ない。
果たして本当にこの時間に「価値」があるのだろうか。
いや、時間自体に価値はない。私がこの時間に「価値」を見出してる時点で、少なくとも私にとってこの時間、対話には価値がある。
だから、大丈夫。
今回はここまでで筆をおこうと思います。
また、次回お読みいただけますと幸いです。
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