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スタートアップ・エコシステムは今後どう発展すべきか

2024年6月24日に経済産業省から研究会の報告書が発表されました。今回はその内容に触れつつ、私なりに重要だと思う点について書いてみたいと思います。私も末席ではありますが、本スタートアップ・ファイナンス研究会の委員として議論や報告書の作成に関わらせて頂きました。エコシステムの全体像をデータも交えながら、整理し、そこから課題や突破口となるポイントを整理した資料です。まだ読んでない方、スタートアップのエコシステム発展の方向感が見えてくる資料なので是非ご覧ください。

レポートのリンクはこちら↓
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/startupfinance/index.html

経済産業省の方が仰ってましたが、何か明確なゴールや意図があるわけではなく、スタートアップ・ファイナンスという軸で自由に議論をする中で報告書を作っていきたい。資料に掲載されている委員メンバーは昨年10月に集められ、11月から半年に渡って議論してきました。ゴールがない中での議論は、皆様の意見のぶつけ合いというか論点の出し合いの中進んできました。その議論の骨格がどこにあったのか。報告書には多様な論点や政策的観点が含まれていますが、特に私が関係した部分、私の関心が高い部分について、私なりの視点でまとめ直してみたいと思います。少しでもスタートアップ・エコシステムの発展のヒントになる内容となっていれば幸いです。


まず、最初に大前提の部分から話を始めてみたいと思います。

10倍のインパクトには広がりだけではダメ

政府の「スタートアップ5ヵ年計画」は5年で10倍!すなわち、過去10年10倍で1兆円に迫ったリスクマネー供給量をさらに10倍の10兆円し、先行する米国に少しでも近づきスタートアップを産業創出や社会課題のエンジンとして活用しようとしています。

以前こちらの記事にも書きましたが、当然ながら単に投資額を10兆円にしたからといって、それだけで何かが変わるわけではありません。あくまでもお金は自動車におけるガソリンのようなもの。パワフルなエンジンが高速に回転し、タイヤや動力機構が噛み合って、それを適切に運転してこそ、前に進み目的地に近づくという「成果」が得られるわけです。

今回のスタートアップ・ファイナンス研究会では、10兆円というエコシステムをどう構成するかを考える上で、高さと広がりの両方の視点を意識して議論されているのが特徴です。広がりは一定進みつつありますが、広げることで一定確率で一定の高さが出てくるし、その確率を上げることには意味はある。ただ、確率的に飛躍的な高さが出てくるという考えはあまりにも楽観的過ぎるように思います。

企業経営に深く関わっていると、企業価値が100億円、1,000億円、1兆円では様々な点で違いがあると感じます。だからこそ、企業の成長フェーズに合わせて「ギアチェン」が必要だと常日頃強く意識して、経営基盤をアップデートしていこうと微力ながら現場で頑張っているわけです。そして、この「ギアチェン」し続けることが難しいが故に、「高さ」を実現することが難しい。だからこそ、「高さ」を意識した議論を研究会でも行ってきました。

シンプルには、より多くの人の課題を解決しようとすると、巻き込むステークホルダーの数は増え、挑戦に必要な期間が長くなります。その実現を中心的に「回していく」ためには経営の基盤はより強固に、そして時間と共に変化する柔軟性にしていく必要があると考えています。

長期視点=クロスオーバーの重要性

広がりと高さの視点に加えて強く意識されたのが、未上場と上場を別で扱うのではなく、連続した一体の仕組みとして考えること。経済産業省の方曰く、これまで別々で議論するばかりで明確に連続し一体とした仕組みとして議論した研究会はなかった、初めての試みであるとのこと。私としても2017年に起業し、「ポストIPOスタートアップ」を提唱し、IPOをゴールではなく途中経過であるからこそ、分断されがちな未上場と上場市場を連続的に考えていくことの重要性を訴えてきましたから、このテーマは正に時代がやってきたと感じた次第です。

私自身も元々、グローバル企業、大企業、メガベンチャーなどの経営や戦略、ファイナンス、M&Aに関わってきた経験を未上場スタートアップへ還元していくところからスタートしましたが、この7年間で未上場スタートアップの経営、ポストIPOスタートアップの経営に深く関わることで、この課題とどうしていくべきかのビジョンの解像度が上がってきました。そこで得た経験や考えを、忖度なく研究会でも発言させていただくのに、今回の自由なテーマ設定、未上場と上場を陸続きのものとして議論できる当研究会は非常にありがたいものでした。

前段の「高さ」の議論にも関係しますが、高さを出していこうとすると長期的に挑戦し続け、長期的に成果を出し続けることが不可欠になります。そのためには長期的なプラン、より長い時間軸の中でより固めていくべきもの、柔軟に変化させていくべきものをみきまめて、強固や変化に必要な時間を予測し適切にリードタイムを取りながら、先手先手で変化に向けた準備を行なっていく必要があります。

一方で、IPOは資本政策のみならず、事業戦略や組織戦略など、ステークホルダーの多様化に伴い、一定の非連続を経営にもたらします。一方で、IPOという非連続イベントに惑わされることなく、長期的なプランを着々と準備し、ポストIPOでこそ成長できる基盤を作っていく必要があると考えています。

さて、ここからが本題です。

セカンダリー市場が大きなトリガーになる

別途行われたセミナーでもお話ししましたが、報告書で触れれている論点の中で私はセカンダリー市場の拡大がトリガーになると考えています。スタートアップは成長していくもの、エコシステムも拡大していくものだとすると、様々なものが鶏と卵になりがちです。お金だけ増やしても、投資する先がない等々。

個人的にはエコシステムは発展を続けていますが、まだかなり課題が多いと考えています。なぜSmall IPOが多いのか、なぜM&Aが増えてこないのか、なぜ上場後に成長が減速する会社が多いのか等々。

ご存知の方も多いかもしれませんが、日本はセカンダリー市場が米国と比較して極めて小さいことが特徴です。米国では直近でもSpaceXが$210bnでセカンダリー取引を予定していると報道がありましたが、これは初めてのことではなく定期的にセカンダリー取引の機会を既存のステークホルダーに提供しています。

これを可能にする仕組みが存在するだけではなく、その受け皿としての投資家も存在しています。なぜセカンダリー取引が大事なのか説明しておきたいと思います。

よく言われるのが、セカンダリー取引市場が活性化すれば、投資家層を入れ替えていくことで、初期投資家にはExit機会を提供し、より長期的な視点で関わっていける投資家で資本政策を再構築することで、より長期のリスクテイク、また上場時期等を先に伸ばしたファナンス戦略が可能になるという点です。この市場が育つことでSmall IPOをせざるを得なかったケースを一部救済できるという点です。

直接的にはそのような効果が期待されますが、副次的にももっと大きな変革のトリガーになると期待しています。その点についても触れていきたいと思います。

最も大事な点はフェアバリューが常に意識される点です。日本のスタートアップのバリュエーションでは、未上場スタートアップの評価額が果たして妥当であるのかという点が指摘されています。特に乖離が大きいのではないかと考えられているのが、極少数の投資家に極少数の株式を割り当てているケースです。評価額に対して調達額が小さいと、それが全体の評価額を表しているのか乖離が大きいリスクが出てきます。IPO時や上場企業のようにより広く投資家から評価される場合とはそこが異なります。

では、なぜセカンダリー取引が活発になるとフェアバリューがより意識されるようになるか。SpaceXのような会社の場合、宇宙業界という挑戦に要する期間が長く、上場時期が不透明かつ長期にわたることが想定される場合、VC等の投資家や従業員(SOや株式を保有)に対して、未上場段階で売却の機会を提供することが極めて重要な意義を持ちます。そうすると、評価額とフェアバリューが乖離してしまうと、定期的にセカンダリー取引を実施することが難しくなります。特にSpaceXのようにセカンダリー取引といっても規模が大きいケースではなおさらです。

従って、プライマリーの資金調達において、セカンダリー取引の水準を意識しながら、フェアバリューを意識したファイナンス戦略の合理性がより重要になってくるわけです。

投資家も多様性が重要

セカンダリー市場の発展が投資家の多様性の拡大につながると考えています。勝手なことを言ってしまいますが、現状ではVCの戦略はどうしても似通ったものになってしまうと思います。もちろん領域特化とか、領域的な住み分けはありますし、その多様性を言っているのではありません。

日本は起業家が少ないと言われてきましたが、近年成功する先輩起業家が増えてきたことで、若くして起業家を志す人材は一気に拡大してきている感があります。それと比較して、投資家はどうでしょうか。正直、目指したくても目指せないし、新しいキャピタリストがどんどん独立して成功を収めているかというとまだ少ないというのが現状かと思います。

ファンドをGP(運営の責任を持つ立場)として設立するには不可欠なことがあります。LPという外部の資金拠出者から出資を受け入れなければならないのです。VCにおける資金調達です。

ひと昔前は起業しても、中々資金調達ができない、できたとしても継続し、大型の資金調達につなげていくことは事実上不可能に近い環境でした。それは投資家がいなかったからだし、それぞれの投資家が成功事例が少ない中で思い切ったリスクをとりきれなかったからだと思います。同じ構造が、まだファンドの設立、LPには残っていると考えてもらうと良いかと思います。

それだけ難易度の高いのがファンド設立です。LPが求めるのは、戦略における再現性を感じられる比較可能性、そしてGP(運営者)のトラックレコードです。要するに、既に存在し一定成功している戦略であり、その運営者も成功した実績があることが求められるという状況です。これはスタートアップの起業家に置き換えれば、連続起業家が先行して成功しているビジネスモデルや戦略を一定コピー(すなわち市場が明確にあることが明らかな)したものにだけ投資するというものです。確かに、投資家の立場からすると安心材料しかありません。実績のある人が明らかに顕在化した市場に勝てそうなビジネスモデルで挑戦するのですから。

ただ、実際には顕在化した市場は競争が激しく、類似のビジネスモデルだけでは必ずしも勝てるわけはありません。何らかの圧倒的な差別化要因、優位性があることが必須であり、その上で連続起業家としての巻き込み力、立ち上げ力、スピード感をフルレバレッジして、成功するかどうかとういう挑戦だと言えます。それ自体は良いのですが、もし仮に全てのVCがそのケースにしか投資しなければどうなるでしょう。あらゆる新規性の高い挑戦にはお金が回らないことになります。これでは十分にエコシステムは発展しないのではないでしょうか。

これと同じ構造が、新規ファンド組成では壁となっています。どうしても確実性が高いものにだけLPは投資する傾向があるということです。この確実性というのは未来の可能性だけを見たものというより、過去の実績に多分に引っ張られたものです。本来は両方をバランスよく見ながら、分配を行なっていく必要があると思いますが、実際はその壁はまだ大きいと思われます。それはVCのファンド期間が10年程度であること、まだエコシステムが拡大してから10年程度であることから、ようやく一回転目が終わった段階であることと無関係ではありません。

クロスオーバー投資、セカンダリー投資、大規模リード投資、ポストIPO投資、これらの戦略は中々これまでLPに受け入れられてきませんでした。シニフィアンを起業した2017年当初は、どれも実現可能性がかなり難しいものでした。その中で、上記のほぼ全てを可能にしたTHE FUNDというファンドが設立できたのは、挑戦する気概溢れたLP投資家(みずほ銀行)の存在と、完璧にマッチした市場見通しと戦略性があったからに他なりません。

今後、エコシステムはさらに発展していきます。新しい戦略を伴ったファンドの登場を待ち焦がれている状況ではないでしょうか。LPの経験値も高まってきており、これからそのような挑戦が増えていくることを期待しています。

これらの新規性のある戦略を伴ったファンドが出てくる背景として、セカンダリー市場の発展が大きく貢献すると考えています。それが前述した話と重なってきます。そうすることで、投資してからファンド満期内でIPOすることを期待するばかりになると、どうしても似たような投資戦略を有した投資家ばかりになってしまい、多様な戦略を有した投資家が育ちにくくなりますが、その構造に風穴を開けることができると思います。

投資家側の戦略が多様になることで、ラウンド設計や資本政策の選択肢が一気に拡大します。その結果、プレIPOで取れるリスク量が拡大し、より大きくより長期な挑戦が可能となります。深くしゃがむ分、成功した時のアップサイドは理屈上は大きくなるはずです。

M&Aが潤滑油となる

もう一点、研究会の中でも強調していた点があります。よく言われますが、日本は米国に比較してスタートアップ関連のM&Aが少ないということです。あくまでもVC視点のデータではありますが、米国が9割がM&AでExitしているのと比較して、日本は徐々に比率は変わってきているものの、まだ7割近くがIPOによるExitとなっています。これ自体は今やよく知られた事実ではありますが、私が強調したのは「なぜM&Aが少ないのか」という理由になります。

よく言われる理由が3つあります。
1)リスクマネー供給量が少ないためSmall IPOを目指してしまう
2)グロース市場が世界一上場しやすいためIPOを目指してしまう
3)買い手候補たる大企業がスタートアップM&Aのリスクが取りきれない

それぞれ因果関係があるかというと私はYESだと思っています。ただ、それだけが理由ではないと思っています。前職GS時代から含めると20年以上もM&Aに関わってきていますが、大企業もスタートアップも共通した点が大きいと思っています。

それは被買収企業(i.e.売却する側)が自社の売却を積極的に検討しないことです。

大企業関連でもそうですが、日本は圧倒的に「売らない国」でした。Japan as a No.1の時代から、特に日本が技術で世界をリードしていた頃、今も特定の領域の会社は、世界中からいつもラブコールを送られる対象でした。しかし、あまりにも売却しないので、日本は売らない国だと認識され、海外企業から見るとすごく買収するのが難しい国というレッテルが貼られてきました。

スタートアップでも同じです。積極的に企業売却を検討するのは、当初からSmall Exitを目指して設計したWeb系など資本が少なくても実施できる領域や、IPOが難しくなってから検討するというものです。後者は大企業でも似ていて、大体立ち行かなくなると企業売却を検討します。実際はバンクガバナンスが機能して、外圧から仕方なく売却を検討するというのが殆どです。

米国ではGoogle/DoubleClick、Google/YouTube, Mete/Instagram、MS/LinkedIn、Salesforce/Slackなど例を挙げればキリがありませんが、有望な企業がさらに大規模な会社に買収されていくケースが多数散見されます。決して、先行きが厳しくなったから売却したわけではありません。

M&Aはあくまでも企業価値向上のための一つの経営戦略上の方法論に過ぎません。米国で企業売却が行われているその本質は、どうすればより確実に、より飛躍的に企業価値を向上できるかという一点に対する拘りがあればこそだと思います。

日本でも企業価値向上の観点で、より積極的にM&Aが行われるようになれば、エコシステムにも大きなリターンと変化を生み出すことは間違いありません。わかりやすく4つの側面から解説しておきます。

1)M&Aで売却することで売却側企業のEquity Returnが最大化されうる

2)成長ポテンシャルの大きな企業をより大手の企業が買収することで、シナジーが生まれ、結果買収した企業の企業価値が高まる

3)優秀な経営陣や人材が集約され、より競争力のある組織体が生まれ、人的資本最大化の観点から将来の企業価値向上の可能性が高まる

4)無闇にリスクの高いIPOを時間をかけて目指さなくなることで、ファンドの投資回収サイクルが早くなりIRRが向上し、新興ファンドが2号3号とファンドを成長させる機会が高まる

最後の点を少し補足していくと、エコシステムに「時間的価値」の概念をより強く意識する文化をもたらすことかと思います。スタートアップはスピードが最大の武器と言われますが、正にその通りはそれはファイナンス理論における「時間的価値」とも整合します。同じリターンであれば、いかに早く生み出せるかで圧倒的な価値の差が生まれる。同じ規模に拡大するのであれば、より早い方が圧倒的に成長率が高く、成長率差は投資家からの評価に決定的な差をもたらす。

M&Aを被買収企業が積極的に検討するには、ベースとして「時間的価値」やスピードに対する考えが強く根付いていくことが不可欠です。この点は米国との差となってあらわれているように思います。

これらは正にエコシステムの潤滑油として機能指定いくはずです。ヒト・モノ・カネが滑らかに回転していく様です。

進化する経営体制を構築していくには

ここまで、セカンダリー市場、投資家の多様性、そしてM&Aについて話してきました。この3点に加えて、強調しておきたい点がもう一つあります。それは「経営の進化」の必要性です。

私が長年関わっている会社は多数ありますが、成功している企業ほど経営体制を徐々に変化させ、進化させてきているように思います。

硬直化した経営体制は、一体感や連続性という観点では強みを発揮する一方で、どこかで壁にぶつかり、それを乗り越えきれなくなると失速していくケースが散見されます。企業価値を上げていく重要なレバーの一つである、経営体制を硬直化させていることのデメリットがメリットを大きく上回ってしまうのです。

当たり前ですが、新規戦力の獲得を含めて、世代交代を通じた新しい戦略への適合性、スピードアップは大きく事業を飛躍させる可能性があります。組織形態も常に同じではなく、その時々に応じて組織形態も見直しをかけていくものです。それに適した人材を配置していく中で、経営体制は変わっていくのが寧ろ自然とも言えます。

世の中でサクセッション(プラン)の重要性が叫ばれて久しいですが、それはなにも年取った大企業経営者が定年するので、それまでに次世代候補を育成し、選定していこうというだけではありません。一般的に若い20代、30代スタートアップ経営者も創業からIPOを目指しているうちにあっという間に10年が過ぎ、30代、40代になっていくわけですが、それでも定年が来るわけではありません。だからこそ、大企業よりも硬直化してしまうリスクが内在していますが、一方で大企業よりも圧倒的に人材リソースが不足し、さらに事業が急速に拡大するからこそ、圧倒的に経営人材も不足していく構造です。

より重要なのは成長速度です。ニーリーのキックオフが記事になっていますが、私がよく言っていることがあります。「急成長する企業成長に一個人の成長が追いついていくことは、極めて難しいことだ」ということです。

期待の新戦力は当初はある会社の成長に先回りした経験や能力を有しており、だからこそ一定期間圧倒的な貢献をします。ただ、うれしい悲鳴でそれ以上に企業が成長するようになると、当然ですがその成長や未来像においつてこれないことは発生します。急成長するスタートアップだからこそ、経営体制のアップデートというギアチェンが必要であり、そのために指名委員会やインセンティブ設計が重要になってくるのです。

全てを支える基盤=ガバナンスが超大事

セカンダリー市場、投資家の多様性、M&A、経営体制の進化、それを支えるインセンティブ設計。これらの重要性を研究会を通じて再三申し上げてきました。これら5つの観点が大事だからこそ、極めて重要になることがあります。

それが第一回の研究会から最も強く主張してきた「ガバナンス」の重要性です。スタートアップ・ファイナンスの研究会であるにもかかわらず、「ガバナンス」の重要性をお伝えしてきました。この考えは、他委員の方にも賛同いただきながら、徐々に研究会の議論の軸となっていったように思います。

ファイナンスとガバナンスは両輪である。

ファイナンスを生かすにはガバナンスが不可欠である。そしてファイナンス戦略を駆使したガバナンスは経営そのものと言って良いかと私は考えています。

なぜ「ガバナンス」が大事なのか。それは、スタートアップの成長のためのファイナンス戦略(含むM&A)の選択肢が豊富になり複雑化すればするほど、それを使いこなし、高いリスクをコントロールしながらより積極的に成長のためのリスクテイクをしていくためには、ガバナンス経営が機能することが不可欠だからです。

ファイナンス戦略をどう考えていくか、どのような投資家にどのような条件で参画していくか、セカンダリー市場を活用し投資家基盤を入れかえていくか、株式報酬を活用し人的資本を最大化していくか、継続的な売却機会を従業員にどのように提供していくか、M&A(買収)をしどのようにPMIしインセンティブ設計していくか、IPOを目指すべきかM&Aで売却すべきか、資本業務提携を行なっていくか、サクセッションプランをどう設計していくか、経営陣のインセンティブ設計をどうしていくか、経営体制を刷新していくべきか、等々。どれも極めて重要なテーマですが、中々一筋縄では意思決定できない課題ばかりです。

難しい経営判断をどのように行っていくかで、その後の成長性、すなわち企業価値が大きく左右されます。企業価値を高めていくのが経営だとするならば、それは高度なガバナンス経営が機能していることが不可欠なのです。

特にスタートアップは創業期から仕組みや機能ばかりが重たくなっても仕方ありません。まずはプロダクト、組織、そしてPMF。ただ、できる限り先行して仕組み化し経営力を強化していくことが、将来に大きなリターンを生み出すのだと思います。急速に変化し進化するスタートアップ。だからこそ、ガバナンスもそれに応じて高度化し進化し続ける必要があるのです。

最後に

ガバナンスの重要性、それはIPOを迎える企業、そしてポストIPOスタートアップも同様です。この報告書でもテーマになっている、上場基準や上場廃止基準の議論もこの観点を十分に意識して議論すべきだと思います。上場するか否か、上場し続けるか否かという企業経営にとって極めて大きな決断を、お上が決めたルールだけに左右されるのはおかしいと思いませんか。

本来あるべき姿は、上場する際のリスクも考えながら、企業価値向上の観点で慎重にIPOすべきか、引き続き未上場でい続けるか、M&Aで売却するか、部分的にでも資本提携を行うか、これらを吟味しながら最善の判断をしていく中でIPOを考えていくことではないでしょうか。上場廃止についても、常に上場していることの意義、上場し続けることのコストを考えながら、企業売却や非上場化の選択肢も常に模索しながら、「時間的価値」や「スピード感」も意識して経営判断を行っていくことではないでしょうか。

最後になりますが、エコシステムの目指すべき姿は、単なる量の拡大ではありません。質と多様性の圧倒的向上。量・質・多様性、この3つが同時に向上し続けることが大事なのではないでしょうか。

より多く、複雑で選択肢が多様なものを、より高度に使いこなし、判断していく。そのための機能として、強固な経営基盤や経営管理や組織力が不可欠であり、それらで構成されるものが「ガバナンス」なのだと思います。

長文ありがとうございました。是非、研究会の報告書の本文も読んでいただけましたら幸いです。

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