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スタートアップ・ガバナンスで意識したい「心構え10箇条」

TAKA(@Murakami_Japan)です。つい先日、とある急成長スタートアップの取締役会向けに「スタートアップのためのコーポレート・ガバンナンス」と題してプレゼンテーションをする機会がありました。そこで話をしたスタートアップ・ガバナンスで意識したい「心構え10箇条」についてご紹介したいと思います。

これらは私自身が、経営者、投資家、アドバイザーとして様々な規模や国の企業に関わった経験から導き出したスタートアップにこそ重要な「心構え10箇条」になります。

全体の構成は以下のようなプレセンテーションでした。長くなるので今回は10箇条のみご紹介します。ちなみにそれ以外の内容も私のガバナンス・マガジンで全てnoteしている内容のまとめに近いので、興味がある方はそちらをご覧ください。

1)コーポレート・ガバナンス(CG)概論
2)なぜスタートアップにCGが必要なのか?
3)急成長スタートアップにこそCGが必要なわけ。理想のガバナンスとは?
4)スタートアップ・ガバナンスで意識したい「心構え10箇条」
5)社外取締役の重要性と選任のポイント

こちらが「10箇条」です

いきなり結論です。出し惜しみはありません。ただ、これを見てもなんだかよくわからないという方も多いと思いますので、これから一つずつ解説していきます。

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第一条:私物化しているという謙虚さが必要

大企業経営者ですら社長や役員になるとその権力を自分の力だと勘違いし、会社を私物化してしまうことが珍しくありません。これは権力者全般に言えることで、企業に限らず、政府や組織なんにでも当てはまります。

どれだけ気をつけていても無意識の「私物化」はなかなか避けられるものではありません。ましてはスタートアップでは、創業社長は絶対権力者であり、また会社が小さい頃から育ててきた自負があるため、大きくなった会社に対して「私物化」をしてしまうリスクはつきものです。

これは創業社長だけに限りません。まだ若い経営者が会社が成長し、影響力を持ち始めた際に、ある程度の時点からその成長に貢献してきたという自負のある経営陣も同様です。無意識の「私物化」のリスクはどこにでもあるのです。

大きな資金を動かす決裁権、人の人生を変えてしまうかもしれない人事権、取引先へ大きな影響を与える力、社会にすら影響を与えられるケースもあるでしょう。これらの権利を一個人に与えられた権利と誤解してしまう。これが「私物化」の背景です。

与えられた権利は、会社のガバナンスの中において、その役回りに与えられた権利であり、個人に紐づいたものではないのです。会社や多くのステークホルダーの許しをえて与えらた権利に過ぎない、ということを自覚することが重要なのです。

第二条:事前の準備が重要

正しい意思決定をするには、正しく状況認識をすることが不可欠です。そのためには、しっかりと情報を収集し、大事な情報を適切に伝達する努力を行ってはいけません。

経営の意思決定の場面で、いかに素晴らしい経営者を集めても、いかに素晴らしいアジェンダを議論しても、状況認識を間違ってしまっては正しい意思決定ができるはずがありません

スタートアップは創業当初からスピードを重視し、考えるよりもまず行動といった大きなリスクテイクを繰り返すことで成長を勝ち取る側面は否めません。だからこそ、この事前の準備を軽視する「流れ」ができてしまっている可能性があります。だからこそ、疎かになりがちな「事前の準備」が重要だと思います。

大企業の会議体では準備に時間を取り過ぎてしまっているというクレームをよく聞きます。確かに、無駄な準備や準備のための準備はできる限り効率化すべきではあります。このことと、必要な情報を収集して伝達することが重要であることは矛盾するわけではありません。

第三条:外部へのアンテナが重要

企業は成長し、成功体験を積むほどに内向き志向が強くなります。「前回もこうやって成功したから今回も成功するはずだ。」「昨年も成長を達成できたから今年も成長を実現できるはずだ。」「競合に対して優位性があるから、今年も市場シェアを維持拡大できるはずだ。」「ユーザーは満足しているから、今年も売れ続けるはずだ。」「雰囲気も良くて人気業種だから退職者がいるはずがない。」と言ったものです。

外部環境の変化は恐ろしいほど複雑でスピーディです。いかに高速な経営を心がけたとしてもそのスピードには敵わない可能性があります。そういう外部環境に対する恐れや謙虚さを失ってはいけないということです。

そのためには、顧客、取引先、競合、金融機関、株主、従業員といったステークホルダー目線を持ち続ける必要があります。これらの情報をしっかりとキャッチするためには、アンテナを貼り続ける必要があります。しかも忙しくなったり盲目的になったりする際に、ついついアンテナのスイッチを切ってしまうことがあります。そうならないように、常に自動的にアンテナから情報がはいってきて、それを経営にフォードバックする仕組みが必要なのです。そういう観点で、社外取締役の選任や取締役会の運営方法など全体のガバナンス設計を見直していくことが必要です。

第四条:社外取締役の選定および役割規定が重要

ガバナンスにおいて最も重要な要素の一つが社外取締役です。誰を選任し、どのような役割を果たしてもらうかで大きくガバナンスの実効性が変わってきます。また、経営陣との関係性や距離感も重要になってきます(※これは別途noteしてみたいと思います)。

以前noteした「上場企業のガバナンスで形式よりも大切なこと」でも社外取締役の重要性について書いているので是非ご覧ください。

第五条:取締役会カルチャーや運営方針が重要

ガバナンスをより効果的に効かせるためには、取締役会カルチャーが重要になります。例えば、誰か1人が取締役会に加わっただけで、大きく議論の雰囲気が変わることがあるでしょう。それはその1人がカルチャーに影響を与えたことに他なりません。

例えば、カルチャーが閉鎖的出会ったらどうでしょうか。正しいことや頭のいいことしか発言してはいけない雰囲気やカルチャーであったらどうでしょうか。

「経営判断の質的向上には会議室から「ゾウ」を撲滅せよ」のnoteでも記載していますが、そうなると「エレファント・イン・ザ・ルーム」になり誰も重要なことを指摘できない結果に陥ります。

取締役に期待されているのは、ステークホルダーへの説明責任です。ステークホルダーは専門家や大学の先生ではありません。なにも知らないし、誤解することも多いのです。そういうステークホルダーに説明することを実現するためには、どんな些細なことでも言い合えるような取締役カルチャーづくりが重要なのです。組織カルチャーに心を砕く経営者が多いのに、どうして取締役カルチャーにはそれほど意識が払えないのでしょうか。

取締役会の運営方法はいろいろな意味で重要ですが、取締役カルチャーにも大きな影響を与えるという観点でも極めて重要です。

第六条:アジェンダを誰が決めるかが重要

スタートアップでよくみられるアジェンダ設定の方法は大きく2つです。1つは、CEOやCFOなど経営トップが作成するケース、もう1つは取締役会事務局(経営企画など)が作成するケースです。

いずれに場合でも共通しているのは、株主や社外取締役への報告のために必要と考える内容や、決議事項を盛り込んだアジェンダになっているということです。取締役会は会社の最高意思決定機関であるはずです。そこでなにを話すかは「経営課題」そのものであるはずです。

経営は「経営課題」の設定が正しいかどうかで、かなりの成否が決まると言っても過言ではないと思います。

その「経営課題」であるべきアジェンダを上記のように作っているとすると、より良い経営ができるでしょうか。タイトルには誰が、と書いていますが、実際には「誰が」「どうやって」決めるかが重要です。

そこで意識してみると良いと思うのは、「現場」の話をしているのか、経営の「仕組み」の話をしているのか、「経営」の話か「執行」の話かと言っても良いでしょう。また「短期」的な業績等の話をしているのか、「長期」的な課題や戦略の話をしているのか、も意識してみると良いと思います。果たして、企業価値の向上によりインパクトがあるのはどちらであるのか。逆にそれを取締役会で議論しないとすると、どこでその議論を行うべきなのか、考えてみる必要があると思います。

第七条:企業文化が重要

急成長のあまり仕組みの整備が追いついていないスタートアップにとって、いかに仕組み以外のところでガバナンスを強化できるかは重要だと考えています。以下のnoteでも触れていますが、企業文化(カルチャー)こそが最大のガバナンス効果を高めるための仕組みになり得ると思っています。

具体的に考えてみましょう。まず、現場で悪いことが起きた場合、もしくは悪い兆候を現場が先に察知した場合です。それぞれ、悪いことこそ早めに話すべきという文化が根付いている会社であれば、早い段階で経営に課題としてヘッズアップされるでしょう。

他にもこういうこともあり得ます。非常にリスクは高いが、取り組むべき事案があった場合はどうでしょうか。もしくは、一旦やろうと取り決めたことを、前言撤回覆す場合はどうでしょうか。こういうリスクが高い、もしくは言い出しづらい提言をやりやすい文化か否かは、大きく物事の結果に影響を与えます。

最悪のケースでは、やるべきことができない、大きく手遅れになる(打ち手が遅れる)、もしくは一度決めた方針を覆せず、不安を抱えながら実行してしまい、取り返しがつかないことになる、などが考えられます。ガバナンスは取締役会でだけ意識すれば良いものではないのです。従業員レベル、すなわち「現場」から変えていくことが、カルチャーから磨き込んでいくことが極めて重要だと思います。

第八条:対外的な説明意識が重要

スタートアップは「成長」と「信頼」の両軸で成り立っていると思います。すなわち、成長が鈍化すればスタートアップとしての存在価値が危ぶまれることもあるでしょう。スタートアップにとって最も欠けているアセットとは「信頼」かもしれません。それぐらい、大企業に対して「信頼」は財務余力にとってボトルネックだと考えています。

下記のnoteでも書きましたが、日本はアカウンタビリティ(=説明責任)を軽視しがちな文化を持っています。このことが歴史的にどのような功罪を招いてきたかは、それだけで論文や分厚い本が書けるぐらいの話だと思っています。

大企業や上場企業にとっても、この「対外的な説明責任」は極めて重要です。第一条の「私物化」でも触れましたが、この「対外的な説明責任」=アカウンタビリティは会社およびそれに伴う責任は個人に伴うものではなく、その役職に伴うものだからです。なので、その役職を任された以上、「説明責任」は絶対的に伴うのです。

常に外部のステークホルダーの視点に立って(第三条)、これが合理的な判断であるのか、というアカウンタビリティ(=説明責任)を果たすことなしにはガバナンスは成り立たないと言っても過言ではないと思います。

第九条:先手を打つことが重要

スタートアップは、時代を切り開き、先取りする存在であるはずです。これまでの業界構造を一変させたり、新たな市場を創出することでその存在意義を明らかにし、結果として企業価値を高めていくことができます。

そのフロントランナーにとって、過去の実績や貢献はどれほど重要でしょうか。もちろん全く無視すべきであるということが言いたいわけではありません。

ポイントは、取締役を含めたガバナンスは極めて、過去の功績者の影響が大きくなる傾向があるということを自覚すべきだということです。営業トップの自在が営業責任者となり、営業成績が会社の業績を引き上げたその功績で取締役になることもあるでしょう。ただ、この過去の結果の「報い」として昇進の延長としてだけ取締役を位置付けてしまったらどうなるでしょう。

そこに欠けてしまうのは「未来」であり、未来志向です。スタートアップにとって大事なのは、常に過去ではなく過去を超える大きな未来の成果です。そう考えるのであれば、未来の結果を大きく左右する経営の意思決定の現場には、未来志向を持った先手を打てるガバナンスを意識すべきではないでしょうか。

第十条:ESG/SDGsやダイバーシティが重要

ESG/SDGsは社会的なブームです。今後の100年の世界のあり方をおきく買えるような取り組みです。私自身もこれをどう発展し、社会のあり方にフィードバックしていくか日々考えています。

スタートアップにとって重要である理由は大きく3つに分けられると思っています。

1つ目は、新しい社会を牽引する存在であるならば、この「持続可能な社会」というトレンドは無視できない。もっと言えば、この方向性自体を積極的に取り組んでいくべきだということです。長期的な成長を実現したいなら、このトレンドは無視すべきではありません。

2つ目は、資金調達や今後の資本政策への影響です。世界で1000兆円を超えるマネーがESG/SDGs関連で動いています。今はまだbetter to haveかもしれませんが、早晩must haveが大半の世界になるでしょう。そうなったときに、財務余力にとって不可欠な資金の出し手を多様化する意味は小さいでしょうか。私はそうは思いません。むしろ積極的に活用していくべきだと思います。プロダクトだけで社会は変えられません。経営、資本、人材、テクノロジー、全てを活用してこそ社会に大きなインパクトが出せるのではないでしょうか。

3つ目は、人材の獲得です。スタートアップはこれまでにない価値を生み出す存在です。一方で、人材獲得には常に悩まされる存在です。だからこそ、多様な視点を取り込む、優秀な人材を獲得する意味でも、ダイバーシティやESG/S
DGsへの取り組みは極めて合理的なのです。

このような考え方を会社に浸透させるためには、取締役会やガバナンスそのものがより先進的でなければ実現は難しいと思います。

最後に

あらためてスタートアップ・ガバナンスで意識したい「心構え10箇条」を掲載します。気をつけて欲しいと感じているのは、そもそも大前提としてガバナンスの意義等をしっかり理解して貰うことが大前提だということです。しっかりと意義を理解して貰えれば、ガバアンス=経営だということに気がついてもらえるのではないでしょうか。

そうすれば、日々やっている経営努力に、以下の「心構え10箇条」を追加してもらえればきっと日本の「経営力」は向上すると信じています。

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コーポレート・ガバナンスは不祥事からその必要性が叫ばれるようになり、制度設計が進みました。その経緯から、弁護士や会計士など、ルールや守りを遵守した専門家のみが議論すべきテーマとして長らくその地位を甘んじていたと思います。

20年を経て、コーポレート・ガバナンスの位置付けは大きく変容しました。「専門家」から「経営者」にそのバトンが託されたと思います。ガバナンスを活かせる企業ほど、経営力が高い、すなわち「ガバナンス=経営」という時代が到来したと思います。

是非、これを読んでいただいた方は、日々のビジネスや経営の現場に10条全てではなくても1つでも活用いただければ大変嬉しいです。またガバナンスの重要性を広める意味で、このnoteを経営に課題を感じているビジネスパーソンに教えて欲しいです。

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