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【徹底考察】スタートアップが成長に応じて考えるガバナンス要点

TAKA(@Murakami_Japan)です。先ほどclubhouse(@takamurakami)でスタートアップ・ガバナンスのルームをやったのですが、そこで私が話した内容のメモです。

問題意識としては、昨今スタートアップ・ブームは歓迎すべきことではあるのですが、プロダクトやPMFといった事業よりの話は巷にあふれているものの、コーポレート・ガバナンスについて語った情報は少ないと思います。また、多くの解説が2015年から導入されているコーポレート・ガバナンス・コードを意識したもので、多くは上場企業、その中でも取り立てて成熟した大企業をイメージしたものと思われがちです。

情報は少ないですが、実際の重要性は極めて高いです。どんな企業にも必要なガバナンスはありますし、ガバナンスは経営にとって一つの武器です。決して、監査報告書のようなレポートでも、型式基準でもありません。

ここでnoteする内容は、clubhouseでワイワイ話している中で私が話をした内容だけのメモです。したがって、網羅性や流れを意識したものではありませんが、興味のある項目だけでも読んでもわかる様になっているので、一部だけでも読んでみてください。

コーポレート・ガバナンスって何?

以前私が書いたnoteにある定義を参照しながら、そもそも論の定義をお話ししました。あくまで私なりの整理ではありますが、以下の「株主3つの期待」に集約されます。

1)企業価値を毀損しない
2)安心して投資できるようにする
3)企業価値を高める

詳細は是非以下のnoteもご参照ください。

ガバナンスは「攻め」と「守り」の両輪

上記のnoteにもありますが、ガバナンスは決して形式てきなものでも、「守り」のためのもでもありません。あくまでも以下の「株主3つの期待」のものです。

1)企業価値を毀損しない
2)安心して投資できるようにする
3)企業価値を高める

企業価値を毀損しないということは適切なリスクコントロールの側面もありますが、3つのバランスが大事なのです。あくまでもリスクコントロールをするのは、企業価値を高めるため、つまり「守り」は「攻め」のためにあるのです。

「守り」がしっかりしていてこそ、適切なリスクテイクが可能になり、適切なリスクテイク(=投資など)を行うことで、企業価値を高めていくことが可能になります。

また安心して投資できる会社は、株主からの評判を引き上げ、株価を上昇させ資本コストを引き下げます。同時にリスクコントロールができている会社も同様に株主にとって安心できる対象となり、資本コストを引き下げることにつながります。これらは全て、企業価値を向上さえる「攻め」の武器になっていくものです。

ガバナンスは大企業用の形式論ではない

冒頭にも触れていますが、ガバナンスは大企業、それも不正会計といった大きなリスクに対する「守り」の印象が強いと思います。Clubhouseでは東芝等の事例を例に取り説明しましたが、それはあくまでも一般的な認知の高い「守り」の事例。またガバナンスが適切に機能していれば防げた事例として挙げているにすぎません。

東芝の問題はいくつかのポイントで整理されますが、大きく分けると以下の3つです。どれも大企業に限らないテーマばかりであることがわかるともいます。これらを防ぐものがガバナンスだということ、ガバナンスの欠如により大きく企業価値を既存してしまったという点を理解いただければここでは十分です。

1)経営陣(社長)が絶対的な権力者であり牽制機能が働いていなかった
2)明らかな財務数値の不自然を長年見過ごしていた
3)各事業の競争力を見誤った

なお、詳細な解説論文はいくつもwebに出ていますので、googleしてみてください。2つほど参考までにリンク貼っておきます。
https://www.sess.jp/publish/annual_sv/pdf/sv51/m85_11.pdf
https://www.jsri.or.jp/publish/review/pdf/5510/04.pdf

背景説明などはメディア記事を参照ください。

ガバナンスの進化論をイメージしてみる

ガバナンスとは取締役会を設置したり、監査等委員会設置会社になることではありません。もう少し広域にガバナンスのイメージを掴んでいただくために、以下の様な話をしました。ガバナンスはすべての企業が有している基本的な概念であり、大企業に限らないのです。

創業間もない会社は、以下の様な状況です。

・株主:創業社長1名(100%)
・経営陣:創業社長1名
・従業員:ゼロ
・取引先:ごく少ない
・事業:シンプルかつ単一

一方、上場大企業はこの様な感じです。

・株主:個人投資家、国内外の機関投資家、法人など不特定多数
・経営陣:10-30名、取締役会も5-20名
・従業員:数万人から数十万人
・取引先:大多数
・事業:複雑かつ多数

それぞれのステークホルダーの数の違いや複雑性が大きく異なります。また、創業間もない企業はまだ多くの選択肢を有しておらず、比較的やるべきことがクリアであり、それをやるか否かが企業価値に直結する状況と言っても良いでしょう。

したがって、大企業に求められるガバナンスと必ずしも同じである必要ないのですが、一方で、創業社長が1名であるという観点でステークホルダーにとって必要かつ最低限のガバナンスはこの創業社長が担っているという状況に過ぎないのです。

ガバナンスが機能している望ましい状況とは

企業成長において失敗はつきものです。投資、新規事業、M&A、確実に成功するわけはなく、常に失敗のリスクを抱えています。

企業価値を含むステークホルダー価値の最大化を実現するためには、適切な範囲でリスクを取り続けていく必要があります。

シンプルなケースとして、創業社長が投資等の判断を迷っているケースがあるとします。当然、創業社長の「経営の意志」という名の幻想で曖昧なまま不適切なリスクテイクをする場合は、これにブレーキを掛ける必要があるでしょう。この迷いの中で経営としてあるべき判断をするのは簡単なことではなく、大きなプレッシャーを伴います。ガバナンスが機能していない状況では、十分に経営が求められる議論が仕切れず、結果的に創業社長がリスクを取りきれないケースも一方では存在します。これでは大きな機会損失につながってしまうかもしれません。

ガバナンスが適切に機能している状況は、経営チームが適切なリスクテイクを行うことを可能にします。必要な議論を経営陣・取締役会でし尽くし、リスクリターンを整理し、投資家に適切に説明を行っていく限りにおいて、その責任は1事業担当者や1社長個人が負うものではなくなるのです。

このような状況を生み出すことで、企業が持続的に適切なリスクテイクが行える状況を可能にするのです。これは極めて重要なことです。ガバナンスが聞いていないことで、特定の経営陣を処罰したり、そうではなくとも責任を感じ、今後適切なリスクテイクすら躊躇う様になってしまっては行けないのです。

つまり、ガバナンスが機能している状況とは、「できる限り長期的な視点で成長に必要なリスクテイクをしっかりと行うことができる状況」だと言えます。ガバナンスが機能せず、もしくは不適切に機能することで、短期的な業績の責任ばかりに目が眩み、適切な投資やリスクテイクが行えず、競争力を失ってしまっては、企業価値が向上するはずはありません。

社長の解任権「だけ」ではガバナンスは機能しない

コーポレート・ガバナンスの議論で、最大のガバナンスは取締役会が社長を解任できることだ、という話があります。確かに、社長の解任権はガバナンス上極めて大きな意味とパワーを持ちます。

スタートアップに限らず、大企業でも先に触れた東芝のように社長に対するガバナンスが機能しなかったことで、企業価値を大きく毀損してしまうケースが多数見られます。したがって、社長が「経営の意思」と称して無謀な戦略を実行するのを抑制する牽制機能には大きな意味があります。また、社長に対して解任という形で責任を取らなければいけないという事実自体に意味が出てきます。

ここで2つ注意しなければいけません。

1)大企業のように社長が定期的に変わる場合

特に日本は、社長在籍期間が欧米よりも短い傾向があります。3-6年程度で入れ替わっていきます。一方で米国などは10年を超えるケースも見受けられます。あまりに在籍期間が短い場合、思い切った施策が打てないという問題も発生するのですが、一方で大きな賭けにでるインセンティブを持たせる可能性があります。つまり、企業価値を向上させることが使命であるから、多少大きめのリスクをとっても成果を上げやすい経営判断をする可能性が出てくることです。

このようなことを抑制するために社長に対するインセンティブは株式報酬やLTIなどを組み合わせたものにするなど、ガバナンスの制度設計と並行してインセンティブ設計をすることで機能させていく必要があります。

2)スタートアップのように創業社長の入れ変えが難しい場合

いくら社長の解任権を有したとしても、スタートアップにおける創業社長の影響力は非常に大きいです。大株主であるということもそうですし、ほぼすべての従業員を社長が採用しているという上下関係、またビジネス上も多くの場合大きな貢献をしています。ですので、いくら責任をとって解任だと迫ったところで、より良い選択肢がない場合は、解任権だけではガバナンスを十分効かせることはできません。

上記の様なケースは意外と多く企業で当てはまるため、単に解任権があるということだけではガバナンスは不十分になります。つまり、解任権が実質的に機能しておらず、経営(=社長)の意思で過剰なリスクをとった無謀な戦略を選択することを牽制しきれないのです。したがって、他の設計と合わせて全体としてガバナンス機能を高めていくという考えが重要になります。

経営の選択肢を無駄にしないためのガバナンス

成長企業のガバナンスを考える上で、企業の成長フェーズに適したガバナンス設計を考えることは極めて重要です。上記で解説した「株主3つの期待」のバランスを間違えてしまうと、適切なスピード感やリスクテイクのバランスを欠いてしまう可能性があります。

ガバナンス強化のリトマス試験紙
個人的にお勧めしたいリトマス試験紙は、企業の成長に合わせてどの程度「戦略的な選択肢」が増えてきたかということです。一般的に、企業は成長するにつれて、従業員やテクノロジー、顧客、プロダクトなどアセットが積み上がってきます。そのアセットを活用すること、また既存事業と新規事業のバランス、財務戦略の多様性など、選択肢が多くなることが一般的です。

企業がさらに成長するためには、その選択肢をできる限り有効利用し、正しい選択を繰り返していくことが重要になります。「正しい選択」を助けるのがガバナンスの役割です。成長企業には多くの経験や知見が不足している場合があります。例えばマーケティングに経験があるメンバーがいない場合、どうしても多様なマーケティングの選択肢を検討しきれない可能性があります。このように「経営の視点」が不足していると感じる場合、それを補う様なガバナンスをなんらか組み込んでいくといった考え方です。

従業員も重要なガバナンスの一部

一般的にガバナンスといえば、指名等委員会設置会社にするかとか、社外取締役を納得感にするかといった、制度設計・機関設計の話ばかりを想像してしまうかもしれません。

確かに、これも重要なガバナンスではあるのですが、まだ成長期のスタートアップが形式的なガバナンスばかりに頼ってしまっては実効性が乏しくなる可能性があります。昨今、社外取締役の数が不足していると言われていますが、まだ社会的存在感の小さなスタートアップが、機関設計を有効に機能させる様な素晴らしい社外取締役や監査役を選任するのは簡単ではありません。また、まだ事業オペレーションんの成否に事業成長が大きく依存しているフェーズでは、日々のオペレーションにまつわる経営判断の精度を上げていくことの重要性が高いと考えられます。

ガバナンスの基本的な機能は他からのチェックです。つまり、会社をチェックする株主、執行をチェックする経営、といった関係性です。最もガバナンスが聞いていない状況はすべての機能が実質的に一体、例えば社長が全てを兼任し実質的な意思決定をしている状況です。したがって、プロダクトはCPO、マーケティングはCMO、開発はCTOといった形で経営チームへのデリゲーションを進めること自体もガバナンスの一部と言えます。

初期のスタートアップにとっては、適切なデリゲーションを行うことは重要なガバナンス上の打ち手だと考えています。ただ、ここでも気をつけなければいけないのは、ただ単にCxOを名目上置いているに過ぎず、実質的に社長に対する牽制機能もチェック機能も働かず独裁的な状況に陥っている場合です。

ですので、監査等委員会設置会社にするとか、社外取締役を選任するとか、そういうことを考える前に、組織のデリゲーションや牽制機能が適切に機能しているか、という点をチェックしていくことが重要です。

企業カルチャーもガバナンス

もう一つ重要なことがあります。それは企業カルチャーや日々の意思決定・会議体の運営についてです。

上記で触れた東芝のケースも企業カルチャーと無縁ではありません。また、明らかにおかしいことを会議体で指摘がされず長年放置されいた状況は、まさにエレファント・イン・ザ・ルーム、「見て見ぬ振り」です。

こういったカルチャーや意思決定の悪い癖は、長年かけて積み重なっていきます。ガバナンスは1日にしてならず、と考えていますがカルチャーにも関連することからもご理解いただけると思います。

逆に言えば、日々「見て見ぬ振り」を発生させず、建設的な議論を踏まえた透明性のある意思決定を繰り返している様な会社は、その時点でかなりガバナンスが効いている状況と言えます。メンバークラス、マネジャークラス、GMクラス、CxOクラスと各レイヤーで正しい議論をされ、また相互のチェック機能が働いていれば、社内のリソースだけでかなりのリスクを排除し、選択肢を活用することが可能になるでしょう。

株主や社外取締役といった外部リソースが必要だと考えられているのは、内部だけではチェック機能が十分に働かないため、この部分を補完しより規律を高めることに狙いがあるのです。したがって、内部統制を含む内的なガバナンス機能が発揮できていない会社は、どれだけ形式的なガバナンス体制を強化しても難しい側面は出てきてしまうのです。

予定調和な社外取締役ならいない方がマシ

最後に少し踏み込んだコメントをしておきます。以前、下記のnoteで社外取締役の重要性について書きました。社外取締役の数ではなく、誰で、どういう役割を担えるのか、独立性といった「その人の中身」が大事だという話です。

社外取締役は会社の内部リソースでは気づけなかったリスクや選択肢を指摘し、経営の議論のテーブルに引き上げていくことが期待されています。であるにもかかわらず、社外取締役や予定調和で機能していなかったり、社長の友達や実質的に言いなりになる様な方で牽制機能になっていないようだと、ガバナンスは全く機能していないと言って良いでしょう。むしろ、間違った経営判断の方向性を後押ししてしまうリスクすらあるわけです。これでは株主にとってはチェック機能でもなんでもなく、むしろリスクですらあるわけです。

社外取締役とは極めて重要な役割を担っています。あまり知られていないかもしれませんが、社外取締役は「個人」で責任を負っている立場です。「責任」とは株主やステークホルダーから「名指しで」訴えられるということを意味しています。ですので、その責任を全うする強い覚悟を持った、独立性の高い人材が求められます。独立性とは会社との取引関係の有無を指すことが多いですが、もっといえば個人でリスクを取り切れるかという意味では、金銭的、精神的にも独立し、経営に対して物申せる「強い」人物が最適です。

最後に

長くなりましたが、clubhouseでガバナンスに関する徒然の議論をした内容の一部です。断片的にはなっていますが、重要な論点を多く含んでいると思います。皆様の経営や投資において、ここで記載した様な「ガバナンス」に対する考えが役に立つことを祈っております。細かい形式的な知識ではなく、ここで欠いている様なガバナンスの「意義と重要性」自体が浸透すれば、日本の企業経営や資本市場(投資)に大きな影響を与え、社会に大きな価値を還元することに繋がると期待しています。

追伸)
写真は、コロナ前に最後に登山した際に撮影したものです。1日でも早く感染症のリスクの小さな世界が戻ってくることを願っています。

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