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写真を取ると忘れてしまう

見ている光景を写真に収めることで詳細な記憶を忘れてしまうという趣旨の論文を読んだのでメモ(1)。

2013年に行われた調査によると年間30億以上の写真が撮られており,その500万枚がネット上にアップされていることが分かってます(2)。

私たちの生活のほんの一瞬を切り取る写真は過去の出来事を思い出す手段として有効な手段であるとの認識が一般的で(34),実際に写真を見ることで過去の出来事をよく思い出せることが分かっています(56)。

しかし何かを観察している時にカメラで撮影する行為は見ると同時にカメラで写真に収める行動はマルチタスクであり,注意が拡散する可能性が考えられます(7)。

今回紹介する論文は見ているものを写真に撮ることで記憶に残りにくくなることを教えてくれます。

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2014年にフェアフィールド大学のリンダ・ヘルケルらが写真を撮る行為が記憶に与える影響について調べるために実験を行いました。

実験の舞台は博物館で,対象となったのは大学生27名でした。

実験参加者は博物館のツアーの間,見る作品は全部で30個あり,2つのパターンで作品を観察してもらいました。

<グループ1>
作品をカメラに収める

<グループ2>
普通に観察する

そして次の日にまず彼らが観察、撮影した作品の名前を思い出せる限り書き出してもらい,その詳細についても記述してもらいました。

その後、どれぐらいその回答が自信を持って回答したものなのかに関する質問にも答えてもらえました。

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実験の結果,写真で撮影した作品はただ観察した作品よりもその作品に関する詳細な部分を思い出すことが出来ませんでした。思い出すことが出来なかった特徴は文字的な手掛かり,写真からの手掛かりから思い出した記憶両方において見られた。

これらの結果から写真を撮影することはその撮影する対象の情報を記憶することを阻害すると言えるでしょう。

続く実験2では,ただ観察するパターンとズームをして作品の一部分を撮影するパターンの比較が行われています。その結果,ズームをして一部分を撮影した作品はただ観察した作品と同等の記憶の成績を収めることが分かりました。

ここで言えることは写真を撮る行為は観察している物体からカメラへ注意が移り,その物体の詳細,その周りにある文脈的な詳細な情報も記憶しづらくするということでしょう。しかしズームをして一部分を撮影するなどの注意の向け方によって写真の撮影が記憶に与える負の効果は変わってくる可能性があります。

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(1)Henkel L. A. (2014). Pointandshoot memories: the influence of taking photos on memory for a museum tour. Psychological science, 25(2), 396–402.

(2)Schwartz, H. (2013). How many photos have been taken ever?

(3)Chalfen, R. (1998). Family photograph appreciation: Dynamics of medium, interpretation and memory. Communication & Cognition, 31, 161–178.

(4)Harrison, B. (2002). Photographic visions and narrative inquiry. Narrative Inquiry, 12, 87–111.

(5)Deocampo, J., & Hudson, J. (2003). Reinstatement of 2-yearolds’ event memory using photographs. Memory, 11, 13–25

(6)Hudson, J. A., & Fivush, R. (1991). As time goes by: Sixth graders remember a kindergarten experience. Applied Cognitive Psychology, 5, 347–360.

(7)Hyman, I. E., Jr., Boss, S., Wise, B. M., McKenzie, K. E., & Caggiano, J. M. (2010). Did you see the unicycling clown? Inattentional blindness while walking and talking on a cell phone. Applied Cognitive Psychology, 24, 597–607.

■卒アル写真で将来はわかる 予知の心理学/マシュー ハーテンステイン (著), Matthew Hertenstein (原著), 森嶋 マリ (翻訳)

■記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック/ドミニク・オブライエン (著)

■ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由/ジョシュア・フォア (著), 梶浦真美 (翻訳)

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