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凶器に注意が向くと他の記憶が曖昧になる「凶器注目効果」

ある特定の対象に注意が向くと,注意が向いていない他の対象の記憶が曖昧で,不正確になるという趣旨の論文を読んだのでメモ(1)。

記憶は写真のように不変のようなものではなく,時間の経過とともに変容し,後から提示された情報で作り替えられます(事後情報効果,2)。

記憶は時間経過だけでなく,喚起される感情の影響も強く受けます。過去の感情的な出来事の記憶について調べた研究では,感情を強く喚起される事柄は感情を抱かない中立な事柄より詳細で,明確な記憶が残ることを明らかにしています(フラッシュバルブ記憶,3)。

しかし,本当に感情を喚起する出来事はよく記憶に残るのでしょうか?

感情を引き起こす文章を記憶させる実験では,記憶が定着しやすい反面,明らかな間違った記憶が思い出させることが分かっています(4)。

今回紹介する論文は文章ではなく,スライド形式の動画で感情が喚起される場面の記憶は中立なものと違いがあるのかを調べています。

道路が封鎖されている画像

1992年にリード大学のアラフェア・パークらが感情が引き起こされると記憶が不正確になるのかについて調べるため実験を行いました。

実験の対象となったのは大学生72名でした。実験参加者をランダムに2つのグループに分けました。

その2つのグループには以下のような違いがありました。

<グループ1>
感情が喚起される動画を見る

<グループ2>
感情が喚起されない中立的な動画を見る

そして動画の視聴後に見た動画に関する情報に答える課題を受けてもらい,その正答率を比較しました。

救急車が通っている様子の画像

実験の結果,感情が引き起こされない中立な動画を見た場合と比較して感情が喚起される動画をみた場合には人物や建物などの動画の主要な情報に関して記憶の正確さには違いがありませんでした。

また主要人物が左から右に歩いたかなどの人物の行動やどんな服を着ていたかなどの主要人物の詳細な情報に関しても違いがありませんでした。

しかし,動画の背景にあった詳細な情報については中立な動画よりも感情を喚起された場合において記憶の定着が低かった。

この実験の他にも恐怖が引き起こされる動画は中立な(全く感情を喚起されない)動画よりも特定の(その感情を引き起こす)物体に目が行き,動画の詳細な情報を記憶しにくいことが分かっています(凶器注目効果,5)。

これは心理学では,凶器注目効果といいます。

凶器注目効果とは目撃者が凶器を持った犯人を目撃した場合、その顔よりも凶器の方に注意が集中し犯人の顔に関する知覚や記憶が歪められる現象のことです。

凶器注目効果は感情が喚起されることで情報が得られる範囲の視野(有効視野,6)が狭まり(),注目すべき対象(e.g. 銃やナイフ)に注意が向くことで背景などの詳細な情報の記憶が低下したものと考えられています。

犯罪現場の画像

(1)Burke, A., Heuer, F., & Reisberg, D. (1992). Remembering emotional events. Memory & Cognition, 20(3), 277–290.

(2)Loftus, F., et al. (1978). Semantic Integration of Verbal Information into a Visual Memory. Journal of Experimental Psychology Human Learning and Memory, 1,19-31.

(3)Bohannon J. N., 3rd (1988). Flashbulb memories for the space shuttle disaster: a tale of two theories. Cognition, 29(2), 179–196.

(4)Christianson SA. Flashbulb memories: special, but not so special. Mem Cognit. 1989 Jul;17(4):435-43.

(5)Loftus, E. F., & Burns, T. E. (1982). Mental shock can produce retrograde amnesia. Memory & cognition, 10(4), 318–323.

(6)Mackworth, N. H. (1965). Visual noise causes tunnel vision. Psychonomic science, 3(1), 67-68.

(7)Leibowitz, H. W., & Appelle, S. (1969). The effect of a central task on luminance thresholds for peripherally presented stimuli. Human Factors, 11(4), 387-391.

■目撃証言/エリザベス ロフタス (著), キャサリン ケッチャム (著), Elizabeth Loftus (原著), Katherine Ketcham (原著), 厳島 行雄 (翻訳)

■テキスト 司法・犯罪心理学/越智 啓太 (著, 編集), 桐生正幸 (著, 編集), 渡邉 和美 (著), 白川部 舞 (著), 中村 有紀子 (著), 大渕 憲一 (著), & 29 その他

■サイエンス超簡潔講座 犯罪学/ティム・ニューバーン (著), 岡邊 健 (監修)

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